テイクアウト
敵に正体がバレた。
背後を取られる可能性がある以上、殺し切るか痛手を与えなくてはいけない。
そう考えたケイジ達の奇襲に対応出来たのは、
――
犬歯を剥き出しに笑いながらケイジはそう思う。
反応出来た三人は既に飛びのき、こちらと同じ様に
リコとケイジが残り物に手を伸ばす。
「っ、ぁ、うぁ、、やめ、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇ!」
「あはっ」
断末魔に被せられるのは睦言の最中に零れた様な艶っぽい笑い。
消えにくい炎は呪印の深度の差を覆すのに最適だ。リコはあっさりと
それと比べればゼンは本当にマシだった。ストックで腹を打ち、下がった頭にストックを叩きつけ、膝で迎えて鼻を潰す。ケイジのその流れる様なコンビネーションは
鼻を潰され「ぱ、ふぁ」と口で息をするゼンだが、生きていた。ケイジも殺す気は無い。
だって自軍のカバーが遠い。
リコと違って鎧が無いケイジはそこまで戻るのだって危ないのだ。
そんな訳で腕を捻り上げ、ゼンを盾の代わりに、ずるずると下がって行く。銃弾が飛んできた。
銃弾は――五十程だろうか? フルオートであればあまりもたない。あっさりと溶けてしまう量だ。しっかり弾丸を用意しておけよ、とも思うがゴブにとっても所詮は鹵獲品。無理な注文だろう。
それでも無いよりはマシだ。尻尾の機銃だけを器用にバリケードから出して撃っているレサトの横に並び、ケイジはアイアンサイトを覗き込む。「レサト、テメェのリロードに合わせる」。言いながらバイポットでLMGを固定する。アイアンサイトの先に置いたのは
そんなケイジを見て、
だから後回しにしていた。いや、そもそも潰す順番として理想的なのは
思考に割り込む様に、レサトが、どん、と地面を叩いて合図をした。リロード。射撃が切れる。それは拙い。思考を切り、直観に従い
「うっそだろ、テメェ! くっそ硬ぇじゃねぇか!」
詰まることなく、吐き出されたその全ての弾丸を
にっ、と不敵に笑う
「“我は最速であると誓う”」
ケイジ達に、戦場に聞かせる為の
『抜いて、撃つ――早撃ち。その動作こそが俺の武器だ』
左太股に銃が来るあの独特のガンベルトの位置。
そして心臓を隠す様に半身を取りながら、抜けば銃口が敵に向くその独特の構え。
ソレは変則的なファストドロウの構え。
ソレは
バーンズ・スタイル。
最速でありながら、敵に向けた前面の防御力は高い。正しく攻防一体。ケイジは知る由も無いが、
「――?」
と、言う声の無い声はアンナから。それをケイジが認識したのは、銃声とほぼ同時。
ケイジが振り返る。
――それは嫌な予感がしたからだ。
赤かった。
――それは彼女の血だ。
何処を撃たれた?
――腹、右腕、そして喉だ。
銃声は一発分しか聞こえなかったはずだ。
――それは、神速領域のファニングが許した絶技だ。
ゲット・オフ・スリーショット。
三つのポイントを同時に射抜く絶技がアンナを赤く染める。赤く染まったアンナは、とっ、軽い音を立てて地面に倒れた。
「――は、オーケイ。まぁ、良くあることだ」
とケイジは嗤う。吐き捨てる様に、詰まらなそうに、乾いた様に嗤ってみせた。
殺し合いをしているのだ。仲間が殺されて騒ぐ方がどうかしている。
潰す優先順位は
ケイジは冷静だった。
冷静だったから倒れたアンナの胸が上下しているのを確認した。
戦線を離れレサトとリコが駆け寄っているのも確認した。
「リコ」
だから冷静にリコに向かって回復薬を投げて渡した。
「ロイ、レサト。援護しろ、突っ込む」
だから冷静に固まった二人に指示を出した。
「がひゅ、」
と、咳が聞こえて来た。戻ってこれたアンナが苦しそうに血の咳を吐いていた。
ケイジは冷静だった。ここまでは冷静で居ようと意識をした。
「……」
すっ、と煙の中に一歩を踏み出す。ロイとレサトの銃撃が背中から聞こえる。前から撃って来ているのは
と。
地面を軽く、強く蹴る。
身体は低く、這うような姿勢だ。
目の前に敵が造ったカバーが見えた。そこにARを置いて射撃をしている
SGは凶悪だ。
アンナと違い腹の時点で神官エルフは終わり、右腕は吹き飛び、最後に喉を撃った時には首が吹き飛んで頭が落ちた。
だがケイジは気にしない。
先程、
「ヨォ、良い見本が手に入ったから持って来てやったぜ、ミスター! コイツがアンタが探してた
「――成程。良く分かった。良い見本だ、兄さん。そこで相談なんだが……忘れない内に手本の通りにやってみても良いかぃ?」
「ヤァ! 勿論だ! 教えがいのある生徒を持って俺は幸せもんだぜ! っーわけで、ミスター、テメェの名前は?」
SGを足元に、腰の右に付けたゴブルガンを叩いてアピールしながらケイジ。
「……タカハシ」
「ケー。そんじゃぁ――」ポケットに手を突っ込み、ガサゴソ探って一枚の銅貨を取り出す。「俺の名前はケイジ! タカハシ、テメェに一対一の
銅貨が回る。
くるくる回る。
ケイジが構える。ゴブルガンを抜く体勢を造る。
タカハシが構える。それはやはり攻防一体のバーンズ・スタイル。
銅貨が回る。
くるくる回る。
空高く上がったはずのそれは徐々に高度を落とし、地面に近づいて行く。
銅貨がケイジの眼の高さ程に来た時だっただろう。
連続した銃声が響き、「ぐっ!?」とタカハシが呻いた。背中から胸に銃弾が抜ける。血が流れる。倒れる。
「……タンゴダウン。
削れたアスファルトにより出来た段差。その陰からガララが出てくる。
バックアタック。盗賊らしい戦法で潜っていたガララが『尖って』しまったタカハシの集中力を利用して背後から撃ち抜いたのだ。
ケイジは嗤う。嗤って言う。
「わりぃな、ミスタータカハシ。けどよ、
「ガララは結構良いと思うよ、タカハシ。浪漫があるよね」
「――ヘイヘイ、ちょっとガララさーん? 狡くね? 撃ったのテメェだろ?」
「浪漫が有っても戦場で背中を見せるのは馬鹿で、カカシだよ?」
浪漫は実現しないから浪漫なんだよ、とガララ。
「そら現実的なことで」
はっ、と肩を竦めながらケイジ。
そのままタカハシとアンノウンの下へ歩いて行く。
アンノウンは何とか逃げようともがいているが、かなり非力なのだろう。上に載った死体を退かすことが出来ずにもがいている。
「動けば殺す。動かねぇなら殺さねぇ……どうするよ、
「……」
ゴブルガン突き付けながらのケイジの問い掛けに、ぴたり、とアンノウンが動きを止めた。
「――うっし、捕虜とって顔が分かる死体も回収! 装備も引っぺがして持ち帰るぞ! レサト、テメェはアンナみとけよ!」
――あぁ、タカハシも首だけにしといた方が運び易ぃな。
SGを取ってこよう。
そう思い、ケイジは振り返った。
ソレは紛れもない隙だ。
戦場で好きを見せ、敵に背中を見せたタカハシは背後からガララに撃たれた。
だったら当然――
「良い手だがな、そう言う卑怯な手を早めに覚えると弱く成るぜ、兄さん?」
「――っ!?」
同じ様に背中を見せたケイジも
声と同時に両膝が銃弾で抜かれる。体重を支えきれずに、かくん、と落ちたケイジの顔面にリボルバーの銃床が叩きつけられる。
いつもケイジがやっていることだ。視界が衝撃と共に裏返される。腹を思いっきり踏まれ、ケイジは天を仰いだ。
「
細い、子供の様な声。横を見ればアンノウンが地面に手を付き、何かを描いて居ていた。
「そんな訳だ、兄さん。ケジメ取る為に一緒に来てもらうぜ」
「――
光に包まれたと思ったら、空が石造りの天井に代わった。かび臭い空気はどこか湿っている。確か最高位の
「……」
「色々考えてるみたいだねぇ、兄さん?」
「ガラじゃねぇけどな。どういう手か教えて貰いてぇもんだよ」
「残念、もう俺は
「職業差別か? 最悪だな、テメェ」
集まって来たエルフに「黙れ!」と言われ、ストックで叩かれる。数が多い、五人位いる。頭を庇う様に丸まる中、やれやれ、とでも言いたげに肩を竦め、煙草に火をつけるタカハシが見えた。
あとがき
エルフ(投擲武器)
エルフ(盾)
エルフ万能説!!
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