大街道
大きな違いはそこであり、銃を扱う技能の方は結構共通のモノが多い――と言うのがケイジ達がロイから受けた自己紹介だ。
『前方に簡易バリケード。ゴブ九で、AR五、SG二、LMG一、SR一。ARの内の三は周囲の巡回。どうする?』
「近寄りゃ一斉射撃。遠くはスナイパーに任せる構成だな……スナがエース?」
『多分ね。体色が違う、上位種ゴブリンガンナーだ』
先行するガララからの
剥がれたアスファルトの代わりに所々、レンガで舗装された道路だった。
使用にじゃまだったからだろう。それでも街まで運んで再利用するにはコスト的に割に合わなかったのか旧時代から置き去りにされた車だったモノ、鉄の塊はそんな道路の脇に追いやられていた。
カバーとして使うこともできるが、ソレは相手も同じで、寧ろ待ち伏せ場所を提供する形になって居る為、それなりに危険度が高く、駆け出しにはあまりお勧めされない狩場だった。
大街道。
ヴァッヘンから『先』へと撃ち込まれた幾つかの砦への供給線たるそこは良く荷物を運ぶ車が通る。車が通るのなら、それを狙う奴が現れる。狙われているのなら、護衛が付く。護衛が付いて尚、襲うと言うのならば――それは腕に自信がある様な奴等だ。
つまりは装備が良い。
言ってしまえば金になる。
だったら奪おう。
それが開拓者の思考だ。
エルフの秘密のおクスリ販売計画の製でゴブリンアパートに行くことが出来なくなったケイジ達は大街道へと狩場を移していた。
「あー……完全に待ちの姿勢取ってんなぁー」
ワンショルダーバッグから双眼鏡を取り出し、道の両端の車に隠れながら、道路の先を見ると、ガララの報告に有った通り、土嚢を積んで道を塞ぐゴブの群れが見えた。LMG、軽機関銃はバイポットで土嚢に足を下ろしており、中々に安定した掃射が期待できる良い布陣だ。
「ガララ、ケツ取れる?」
『無理だよ。大ネズミがいるもの』
「レサトは?」
アイツなら匂い無いだろ?
『ハサミを横に振っている』
無理っすわー。
そんな所だろう。レサトはしっかり
「ンじゃ、一旦、こっちで目を引きゃSR取れるか?」
『それならやれるよ』
「ケー。そんじゃこっちで持つ」
言いながら双眼鏡をロイに渡し、見ろと顎で指示する。
「……それでケイジさん、アタシの仕事は?」
「土嚢の内側撃てや」
弾倉を確認し、問題が無いことを確認すると再びSGに戻しながらケイジ。こちらからの射線は通っていない。ケイジのSGも、リコのSMGも、撃ち抜くことは難しい。
だがロイならソレが出来る。
「俺とリコが突っ込む。テメェの仕事はMGの無力化だ。ミスんなよ? ミスったら死ぬし、殺すぞ?」
「……一応、訊いときやすが、死ぬのと殺すのは誰なんで?」
「俺が死んで、それを口実にリコがテメェを殺す」
「ケイジくん、それはロイくん燃やして良いってこと?」
「良いってことだ。……俺が死んだらだけどな」
「その時はケイジくんも燃やして良いんだよね!」
「そら死んでるからな」
火葬してくれるんなら手間が省けて有り難ぇもんだぜ、とケイジ。
「ロイくん、気楽に行こうよ! 失敗しても誰も攻めないよ!」
リコが笑顔でばんばんとロイを叩いていた。ロイはやや引き攣った様な苦笑いを貼り付けている。
「ねぇ、リコ。それ、ロイをリラックスさせる為に言ってるのよね?」そうよね? とアンナ。
「もちろんだよ」へへぇー、笑いながらのリコ。
少し信頼度が低い。アンナはそれを見て、はぁー、と溜息を吐き出した。
「ダメージ軽減に
それで少しは死に難くなるでしょ? とアンナ。よろしく頼まぁとケイジ。
道路脇の車をカバーに、ゆっくり進む。「これ以上はきちぃな」。土嚢まで直線距離で二百メートル。隠れながらまだ近づけるような気もするが、こちら側には巡回ゴブが二匹いる。流石にこれ以上は無理だろう。
「さて、そんじゃ、仕事の時間だぜ、レディース&ジェントルマン。準備はオーケイ? 覚悟はオーライ? だったら行こうぜ、カウントテンだ」
4、3、2、1――。
「GOっ!」
声を出す。俺はここだとケイジは叫んで走り出す。スナイパーが、巡回ゴブがこちらを狙っている。ソレが分かっているので、ジグザグに走る。奔るが、避け切れるわけもない。特にAR。あの連射性能を避けきるのは不可能だ。何発か当たる。呪印の、或いは
それでもケイジは止まらない。カバーに隠れ、そこから飛び出し、挑発する様にしながら視線を集める。六匹の大ネズミがケイジを追い立てる様に放たれた。これで先ずは良いな。心中でそんな言葉を転がす中、一匹のゴブがLMGに取り付いた。アレの斉射はまともに喰らいたくない。喰らいたくないので、避けるしかない。避ければルートが特定され、追い込まれ、そこをスナイパーに狙われる。それは拙い。それはダメだ。だから――
後方から銃声。
ロイの放った六発の弾丸はケイジの頭上を通って行く。アレでは当たらない。ゴブ共の頭上を通ってお終いだ。
普通なら。だが、普通でないのなら、当たる。
ヴァイパー。
ぎゃい! と悲鳴が上がって銃手のゴブが倒れた。ARゴブの一匹が慌てた様子で代わりに銃手に入ろうとするが――
「ロイ!」
『ひひっ!』
引き攣った笑いがその答えだ。ケイジはソレを受けて意識を銃手から切った。
巡回ゴブが何かを投げてくる。グレネードだろう。「ちっ」と舌打ち。奔らせた視界の中に、カバーに使えそうな車を確認する。一度隠れてやり過ごす。その作戦が浮かぶ。だが、一度足を止めればスナイパーにマークされるそれは避けたい。
どうする?
『タンゴダウン』
ガララの声が差し込まれ――
『良いよ、ケイジ、リコ。スナイパーは死んだ。チャージを続けて』
GOサインを、聞いた。
「――
一気に加速する。背中で爆音が響く。破片が背中を打つが無視。そんなケイジの前に巡回ゴブが二匹、進路を塞ぐように立った。巧いじゃねぇか、速度は緩めたくねぇってのに……。「クソが」と言う悪態。それでも二匹を一気に突破するのは厳しい。
『グラスホッパー、六発行きやす! ツーカウントで跳んでくだせぇ!』
「ヤァ! 良いフォローだぜ、ロイ?」
『ひひ、光栄で』
一、二、で跳ぶ。地を這うような軌跡で飛んできた六発の弾丸は今度は跳ねる様に軌道を変える。二匹のゴブに、三発の弾丸が突き刺さる。そして一発がケイジのブーツの底に刺さった。「あ、」と言うロイの声が後ろから聞こえて来たが――まだ大丈夫。幸いにも靴底に仕込んだ鉄板で止まった。着地。突き刺さった弾丸が、その着地に合わせて、ガチッ、と音を立てた。
巡回ゴブAは呪印のガードが抜けたが、健在。そして、巡回ゴブBに至ってはガードすら抜けていない。それでもロイの援護に驚き、一瞬止まっていた。殺すチャンスだった。だがケイジは止まらない。道が開いたのだ。だからソコを抜ける。
「リコ」
「良いよ、やっとくね!」
後ろから声。「あはっ」と熱を孕んだ笑い声。
足元に喰らい付く大ネズミを蹴り飛ばしながらケイジ進むケイジの背後で真っ赤な花が咲いた。熱くて、触れると黒焦げになる。そんな素敵な花だ。
突っ込み過ぎて燃えた大ネズミはご愁傷様。そして怯んで止まる大ネズミは無視。ショットガンを抱え、口角を釣り上げ、残った最後のARゴブから飛んでくる銃弾に頬を霞めながら――ケイジが一直線に走る。土嚢に近づくも、同様の得物を持つSGゴブからの歓迎のクラッカーは無し。
なので遠慮なく土嚢を跳び越え、内側に。入り込んだケイジに向け、ARゴブの銃撃。呪印のガードが切れた。弾丸が突き刺さる。それでもアンナの
それがケイジとARゴブの運命の分れ目だ。近距離から顔目掛けてケイジが放った散弾が一撃で呪印のガードを吹き飛ばしながら頭と命を散らしていく。
これで残りはSGゴブが二。
そんな彼等がケイジを歓迎してくれなかった理由は簡単だ。
裏口からやって来た二人のお客さん、ガララとレサトの対応をしていたからだろう。
「ガララー、援護いるか?」
「ううん、大丈夫。終わっているよ」
言いながら現れたガララは巡回ゴブCとSGゴブ達の武器を持って居た。足元には恐らく今回の一番の収穫、SRゴブから奪ったライフルを背負ったレサトも居る。レサトは、どうだー、と掲げた鋏をかしょかしょとしていた。血で汚れている。ちょん切りでもしたのだろうか?
「ケー、流石だ、ガララ。――全員、オールクリアだ。貰うもん貰ってずらかろうぜ」
「ケイジ、この陣地はどうする?」
「あー……」
結構しっかり作っている。弾薬や、奪ったであろう物資は貰うとして――
「簡単に確認した後、壊しとこうぜ。リコ、ゴブの死体ごと燃やして良いぞ」
『ケイジくん、大好き!』
ほっぺにキスしてあげる! と、リコのはしゃいだ声が聞こえて来た。
あとがき
キルスコア
ガララ 2
レサト 2
リコ 2(+大ネズミ)
ロイ 2(+誤射)
ケイジ 1
……ほら、ケイジは囮だから。
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