南区
ブラーゼン協同組合。
それは大森林を失ったエルフ達の組合だ。
何時か、何処かに、我らの国を。
ソレを合言葉に開拓を進めている彼等の大半は開拓者だ。
亜人の領域を切り開き、エルフの森を造る。そんな彼等は当然、ヴァッヘンにも居る。と、言うか最近やって来た。他の開拓街にした様にヴァッヘンを中心に開拓を進め、領地を確保するつもりだったのだろう。
ソレをやるには多くの人と時間と何よりも――金が要る。
ヴァッヘンは歴史から言ってドワーフの権力が強い傾向がある。ギルド長の中にもエルフはいるが、そいつ等はハグレであり、組合に属していない。そんな街で手っ取り早く金を稼ぐ為に彼等が考えたのが――
「クスリの販売ってか?」
ホットドッグの屋台にてビッグサイズを注文。トッピングは脚任せなので、手首から肘ほどの大きさのホットドッグに相応しい量のケチャップを掛けてから、マスタードこっち寄越せ。
「うん。そうらしいね」
一足先に完成させていたリザードマン、ガララは返事と共にカウンターの端からマスタードを滑らせて寄越した。
受け取ったソレをたっぷりかけ、一齧り。茹でて焼くことによりパンパンに張ったソーセージがパキッ、と折れて肉汁が噴き出した。
行儀が悪いのは承知でケイジはそのまま歩き食いをする。
「ンでガキがレモネード売る様な気安さで道端に立つ準備を進めてたところ――」
「準備を担当していた奴らがつまみ食いをして火星旅行と言うわけ」
「しかも販売員も結構な率でつまみ食い……っと。笑えねぇな、おい」
そう言いながらも、はっはー、と軽く乾いたような笑い声。
「ガララもそう思うよ。コレは上手く販売できたとしても結局は揉める案件だ」
「ただ、その場合は俺らは傍観者で居られたかもしれねぇつーわけだべ?」
「そうだべ」
「――ったく、余計な出費させやがって」
「まぁ、良い機会だと思おうよ。ガララは丁度新しい靴が欲しかった」
「アンナとか、買ったばっかだったんだぜ?」
おしゃれなネクタイを付けた五人のエルフのお陰で敵の規模は分かった。各ギルドの処理担当が既にその殲滅の為に動いて居る。
そんな訳で運悪く第一発見者になってしまった見習いパーティは自身の安全を確保しつつ、その嵐が過ぎるのを待つことになった。
やれることは三つ。
一つ、靴の買い替え。足跡は大分拾い難くなっているとは言え、完全に安心することは出来ない。そんな訳でブーツを買い替える。その際、四人で一緒に買いに行ってしまえば不自然なので、適当にバラけて買いに行く。
因みにその代金は完全にケイジ達もちでお小遣いは無し。
そこまで面倒はみないと言うのがギルドの意向だ。
次に四人組からの脱却。すでに四人組と言う情報が回っているのなら、それを逆手に取り、早々に足の数を合わなくしてしまえば良い。
六人一組。残りは二枠。一応、一枠はあてがあり、第一発見者としての報奨金が貰えたので、ソレを使えば加入させることは可能だ。
が、残り一枠。
こっちにはさっぱり当てが無かった。更に状況が変わり、ブラーゼン協同組合と揉める可能性も出て来ている以上、気楽に誘うことも出来なくなった。
だがそこは頼れる先輩。ルイが地元の後輩を紹介してくれるとのことだ。
それなりに「やんちゃ」な後輩なので、巻き込んでも良いらしい。
因みに本人の許可は未だとっていないとのこと。酷い話だ。そう思う。そう思うが、正直、助かったので、ケイジはそれ以上気にしないことにした。軽く面接をして問題無ければ採用だ。
そして最後。コレは単純で、当たり前。
巻き込まれても生き残れるように――強く成れ。
呪印の数を増やすだけでも死に難くなる。
つまり、新しい靴を買い、仲間を増やし、強く成る。
新しい靴以外は、まぁ、開拓者としては当たり前のことだった。
西区が『港』。東区が『雑多』。中央区が『華やか』だとすると、南区の特徴は『工房』だ。
人の領域側とやり取りする為の門があるそこには未開拓地からの産出品に、人の領域側からの流通品、それらが集まるので、それらを加工する工房が出来上がる。
ヤジローの仕事場であるシュタル工房もここにあった。
「ちぃーっす、ヤジローいる?」
ケイジとガララの銃器はここで買い、調整をして貰っているので、慣れたモノだ。ノックもそこそこにずかずかと上がり込んでいく。
シュタル工房は何人かの
そんな訳なので、工房に一歩入ればそこは職人たちの生活空間だ。徹夜で作業していた者達が毛布に包まって床に転がる中、一人が「うー」とか「あー」とか言いながら奥の作業場を指差した。「おう、上がらせて貰うぜ」「これ、お土産。皆で食べて」。食卓に買い込んだ焼き菓子の紙袋を置くガララ。この気遣いがあるからケイジ達はそこまで邪険に扱われない。
勝手知ったる他人の工房。
奥の扉を開くと、タオルを巻いたドワーフが何やら真剣な顔でリボルバーのグリップに彫り物をしていた。
「……センスがねぇから諦めたんじゃなかったのかよ?」
「うるへー」
声を掛けられたから――と言う分けでは無いだろうが、作業を中断するヤジロー。『ちょっと見てくれ』とでも言いたげにリボルバーを投げられたので、受け取り、見てみる。
「……トラっぽいな」
「ケイジは芸術が分かっていない。これは獲物に襲い掛かる虎を彫ることで、逃げる馬を表現しているんだ。ガララには分かる」
「……つまりは彫ってあるのはトラでいーじゃねぇか?」
「これだからケイジは」
はふん、と鼻息。やれやれだぜ、とガララ。
「――西洋の竜、ドラゴンだ」
重い声でヤジロー。そもそも虎では無いらしい。ケイジが「あー……四本脚ってのは分かったぜ?」と言う良く分からないフォローをした。
「それで、何だ? 銃の調整か?」
「いや、ブーツの調整を頼みてぇ」
ほらこの二足、と途中の市場で買って来たブーツを取り出すガララとケイジ。
新品の身体に有った装備よりも中古の出来が良いものを調整する方がケイジ達にとってはコストパフォーマンスが良い。ケイジは靴底に鉄板が仕込まれたモノを、ガララは盗賊靴と言う柔らかい靴底の靴をそれぞれ見繕っていた。
「おい、兄ちゃん。オレは
「大丈夫だ。俺よりはうめぇだろ? ――つーのは冗談で」
くい、と入って来た入り口を、正確にはその道すがらで転がって居る屍を指差す。
「……良いだろう。紹介してやる」
青い鱗の小柄なリザードマンはナクルと名乗った。女性らしい。ケイジにはさっぱり分からないが、ガララには分かるらしく、少し良い声で対応していた。
リザードマンの求婚は唄だ。それ故、モテる男の条件の一つに『良い声』があるらしい。
「……」
相棒の雄の部分を見せられると正直、少し微妙な気分になる。自分がリコのスカートの端に翻弄されている時、ガララもこんな気分だったのかもしれない。ケイジはそんなことを思った。だがアレはリコが悪い。短いスカートでスキップするのが悪い。
布と革の
「つけて握ってみて」
言われるがままに握ると、拳が硬くなる。
「砂鉄入り」
「あー……近接で殴る用かぁ……」
「そう。ヤジローに『ゴブルガンを打撃武器に使う
鉄の棒を握り込むよりは自由度が高いので、正直欲しい。欲しいが――
「金がねぇ」
眉を八の字にしながらのケイジの言葉に、何故かガララがツケを申し入れて、そのツケの料金を自分が運ぶと言い出した。
ブーツの調整に一日欲しいとのことだったので、また明日、と挨拶をしてシュタル工房を後にする。
「ケイジ、新入りの面談は何時? 明日? もしもそうならブーツはガララが取りに行くよ?」
「……いや、まぁ、明日だから頼むけどよぉ……ツケのことと言い、何だ? あの嬢ちゃん美人なの?」
「!」
うっそだろ、お前。
そんな感じに目を見開かれるが、ケイジには生憎とリザードマンの美醜は愚か、雌雄すら分からないのだから許して欲しい。正直、アレが可愛いなら、ガララだって可愛いじゃないかとすら思う。思ったので言ってみた。
「……ヘイ、ガララ! ヘイヘイヘーイ、ガララさーん、遠い! 遠いから! 離れて歩くんじゃねぇよ!」
「ケイジのことは友達だと思ってる」
「だったら何でそんな離れてんですかね! いや、分かるぜ! お前がどういう勘違いしてんのか!」
「でも友達以上は――ちょっと」
「俺も! 同じ! 気持ちだっ! だから気味のわりぃ勘違いすんじゃねーよ!」
だからコッチ来い。離れて歩くんじゃねぇ。
そんな風にじゃれ合いながらケイジとガララは南区を歩く。
既に当てがある新しい仲間を迎えに行くために。
あとがき
から揚げ、餃子、そしてシシャモで一杯。
今日の晩御飯はコレで決まりだ! とシシャモを焼いて居たら煙で警報が作動してしまったポチ吉です。
えぇ、はい。
めっちゃ慌てた。
と、言うわけで一気に残り二枠が埋まります。
一枠は予想出来るかもですが、もう一枠は一切ヒントないので予想は無理でしょうな、ふははー。
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