銅貨三枚で買った電池を高く売る方法
「駄目だ! 駄目だ駄目だ駄目だ! 司祭様! 追求しましょう! コイツの! このクソガキの悪事を、神の名の下に晒してやりましょう!」
口角上げて唾を飛ばしながらの大絶叫。
至近距離から唾を掛けられた司祭が顔を顰めるのも気にせずに村長は叫ぶ。
それを、見て、ケイジは――笑った。
それを司祭は見ていた。それをミコトは見ていた。だから村長を止めようとした。
だが残念。
「へぇ、つーことは、だ。……この話は止めない。最後の最後まで、それこそどちらの言い分か正しいかが明らかになるまで
「けー? あ、あぁっ! オーケー! オーケー! ケーだっ!」
ケイジの方が早くて、ついでにテンション最高の村長の方が早い。
「俺の優しさが伝わらなかったみてぇで悲しいぜ! オーライ! そんじゃ俺も覚悟を決めるよう。徹底的に、容赦なく、やってこうか! ……って訳でちょい電話借りるぜ」
くぃ、と局長が顎で電話を指し示したので、まだ泣いてるアンナを席に戻して、ケイジは番号を押した。
コールは三回。
『おぅ、今直ぐ行くぜぇ』
「要件くらい言わせてくれよ、キティ」
苦情に対する返事すら無し。勢い良く通話が切られた。
「ヘェイ、ボーイ! お前の頼りになるマスターが来てやったぜぃ!」
そして直ぐに扉が開く。手には携帯端末。衛星を使った通信を可能とするソレは下っ端のケイジでは手が出ないモノだが、ヴァッヘンの
それを懐に、開拓局ロビーで待って居たのだから、登場は早い。
アフロの虎は悠々と扉を潜り、証言に立っていたミコトの横を抜け「いよぅ! リュウタン久しぶり! 机借りるぜぇ?」と局長の肩をぶっ叩いて、髭を触って、反撃の拳を腹に受けた後、何気ない様子でその机の上にモニターを置いた。
「すまねぇ、キティ。俺の優しさでは彼等は救えなかったぜ」
くっ、と悔しそうにケイジ。
「ヨ。オーケー、オーケーだ、ボーイ。人生そんなモンだ。ボーイが折角提示した落し所を蹴った。それはボーイ、お前が舐められたってことだ。それは
「ヤァ、良い師匠を持って俺は幸せだぜ、
一息。椅子に深く座り、足を組む。
口元に愉悦を。目には嗜虐の恍惚を。そして言葉は――
「祈らせてくれ。――『テメェの骨くらいは残りますように』ってな」
鋭く、深く。
「……少し、待っては貰えないだろうか? 今のは彼の独断だ。もう少し話し合いをしようじゃないか。どうも私達の間には致命的なズレがあるようだ」
私はそう言うつもりではなかったんだ、と司祭。
「ヨ、ヨ。日和ったご意見をありがとサン。……ところでアンタは誰だ? ミッシェルの奴はどうした? この件で揉めるのを避けたんだろ? それ位、
勿論骨まで美味しく頂くさ、とキティ。
「ひっでぇ話だぜ、ほんと。そうならねぇ様に俺はリンジンに優しさを示したってのになぁー」
からからと笑いながら、
「ま、そう言うことだぜ司祭サマ? わりぃが村長サンの言う通り徹底的にやろう。丁度、弁護士さんもいらっしゃる。都市法的にアウトな証拠が有れば、狂信者達は罰せられて、もし、仮に、それを庇う為に嘘の証人立てた様なヤツも目出度くアウト。分かりやすいだろ?」
「その通りだ、ボーイ。オレでもわかってサルでもわかる。シンプル・イズ・ベスト。それでその証拠映像がこちらって訳だ」
こん、とモニターを小突くキティ。ケイジも席を立ち、モニターの横に立つ。
「説明させて貰うぜ。コイツはな、俺達に向けて狂信者どもが差し向けたサソリ型の
ここん、と軽く机を人差し指で叩く。
「アンタもそうは思わないか――
名指しされた村長は青い顔で「――バカな」と呟いた。
「ぐっ、軍用の、軍用の
「あぁ、そんでか。コイツが俺らに倒されてると思ってなかったからアンタ――ちげぇな。狂信者は余裕ぶっこいて被害者面してたんだな。っと、アンタのことじゃねぇよ、村長サン?」
オーケイ? と笑いながらケイジは青い顔の村長に。
「ヨ。ソイツはオレの弟子を馬鹿にしてんのか? ボーイに掛かれば楽勝に決まってんだろ」
「――と、言いてぇ所だが、単なるメンテ不足に経年劣化で弱ってただけだ。コイツが現役だったのは旧時代末期。軽く見釣って百年前だぜ? 後退した技術じゃ当時の最先端技術を維持することも出来なかった、って訳だ」
「そうは言うがな、ボーイ。それでも駆け出しにはキツイんだぞ?」
「そうかい。そんじゃ素直に褒められとくぜ」
「ヨクデキマシタ」
キティが飴をくれたので、そのまま口に。
からからと飴を口の中で転がしながら「そう言う訳だから」と前置きを。
「再生、してみようぜ? それで目出度く俺がアンナを助ける為に襲った狂信者サンのお顔もお声も法の下に晒されてめでたしめでたしだ」
「……その映像が本物であると言う証拠が――」
「ヨ。鑑定に出すに決まってんだろぅ? 最も、その段階で加工ゼロと判明したら――骨どころか、周りのお仲間の肉も美味しく頂くけどよ!」
司祭の言い訳に師弟はニヤニヤ笑う。
村長はそんな司祭のローブの裾を握って、必死に首を横に振っている。
司祭がミコトを見る。ミコトはフルフルと首を横に振った。『駄目です』。音に成らなかった言葉はそんな所だろう。
「そんじゃ、再生だ」
キティがリモコンのボタンを押し――
「待てっ!」
初めて司祭が声を荒げる。そして、モニターには――
「……」
「……ヘェイ、キティ? 俺の頼りになるマスターキティ? トラブルデスカー?」
こんこん、こここん、ケイジがリズミカルに机を叩く音が響く。
「ヨ。やべぇぜ、ボーイ! リモコンが反応しねぇ!」
「マジかよ。電池が入ってないとか言うオチは勘弁してくれよ」
「……あー……ボーイ? お茶目な師匠をどう思う」
「素敵だぜ。そうだな……ドブ川の反吐くらいには素敵だぜ?」
「電池が入って無かった」
口を『へ』の字に曲げながらキティ。
それに天井を仰ぐようにして「マジかよ」とケイジ。
そして状況が今一掴めず、固まるその他の人々。
「単三?」と言うケイジの問いに「単三」とキティが答える。ケイジがガサゴソとズボンのポケットを漁って。「有った」と単三電池二本を取り出した。
「流石だ、ボーイ。それを早く寄越せ」
「そうは言うけどよ、コイツは俺のだぜ? 代金はどうしてくれんだよ?」
あァん? と師匠にすごむ弟子。
「勿論払ってやるさ。銅貨三枚くらいだろ?」
「バっカ、もうすっごくバカ。このバカキティ。良いか? この電池は
「オゥ! 何か間違ってるような気もするが、正しい様な気もするぜ。オーケー電池を忘れたオレのミスだ! ここはドンと倍、銅貨六枚で買ってやるよ!」
「バっカ、もうすっごく救いようが無い程のバカ。これ程の電池だぜ? 他にも欲しいお方が居るかもしれねぇだろ?」
「……いやいや、ボーイ。流石にソレは無いぜ。この場には証拠映像が流れて困る奴はいねぇんだからよ!」
「そうか、そんじゃ――」
はい、どうぞ。ケイジが電池をキティに手渡――
「銅貨五十枚っ!」
「……ヤァ、村長サンからの吊り上げだ。でも何でだ? 何の変哲もない電池だぜ?」
なのにアンタは何で値段を釣り上げるんだ? とケイジが笑う。
「そ、それは……それは、だなっ……せ、製造番号! そう! その電池の製造番号が珍しいものなんだっ! 私は電池のコレクターで! だから! そうなんだ!」
「そうなのか?」キティがひょい、とケイジの手元を覗き込んで、「マジだ!」と驚愕する。
「ボーイ、コイツはかなりのレアナンバーだ。オーケー。何を隠そう、オレも電池コレクターだ。銀貨一枚だそう」
「嘘を吐くな!」
大根役者丸出しで銀貨を取り出すキティに、村長の大絶叫がぶつけられる。
「嘘? ……ヘイ、キティ。村長サンはあんなこと言ってるぜ?」
「良いじゃねぇか、ボーイ。これでレアナンバーで、証拠映像を流すことも出来るスーパー電池はオレのモンってことだ」
そうだね。はい。ケイジが電池をキティに手渡――
「銀貨、五ま――っ、いや、銀貨十枚だっ!」
「ひゅー」と吹けない口笛を吹いて「そんなにすげぇ電池なのか?」とニヤニヤとケイジ。
「勿論だぜ、ボーイ。だがオレ以外にもコイツの価値が分かる奴が居たとは驚きだぜ? コレは電池コレクターの血が騒ぐバトルになりそうだ」
……何よ、電池コレクターって。
そんなアンナのツッコミも師弟は聞かない。
「……ヘイ、キティ。実はな、俺まだ金貨って見たことねぇんだわ」
「オイ、オイオイオイオイオイオーイ。マジかよボーイ……オレの弟子がソレは情けなさすぎんだろ! オーケー! そんじゃ優しい師匠が金貨を見せてやる。金貨一枚だ」
「ヤァ! マジかよ! テメェが俺の師匠で良かったよ」
とてもいい笑顔でケイジが電池をキティに手渡――
「金貨一枚と銀貨三十枚っ!」
「……刻みだしたぜ、キティ?」
「……刻みだしたな、ボーイ?」
「もうっ! これ以上、これ以上は、無理だッ! 無理なんだよぉおぉぉっ!」
だからもう許してくれ! と泣き叫ぶ村長。
狂信者ではないと言う自己申告が上がっているので、彼はかなりの電池コレクターなのだろう。土下座して、涙を流して懇願する程には。
「そうかい。だが、ソイツはテメェの都合だぜ? ――キティ、少し思い出したんだがよ、この映像を流せば、何か俺を陥れようとした司祭とか
「そうかい。そんじゃ、そいつ等から金貨毟るとしようか、ボーイ」
そうしようぜ。ケイジが電池をキティに手渡――
「――金貨三枚」
マジかよ。バカじゃねぇの? ケイジのそんな視線を受けて不敵に笑って見せるのは――
「何を隠そう、私も電池コレクターでね」
司祭だった。
笑顔だ。青筋浮かび、握られた拳からは血が出ているが、それでも笑顔だ。ケイジとキティ。骨までしゃぶって、
「ヤァ、流石にこれ以上はねぇだろ? ねぇよな? ケー。司祭サマ『銅貨三枚で買った何の変哲もないただの単三電池』を――金貨三枚でハンマープライスだ」
はい、拍手。
言いながらケイジがパチパチと手を叩く。後に続いたのはキティだけだ。
師弟はノリの悪い周囲を嘆く様に、二人そろって大袈裟に肩を竦めた。
「それで、ボーイ? この証拠映像はどうする?」
「新しい電池買ってくれば良いだろ」
「待っ――!」
爆弾発言に、慌てた様子で司祭。
――まぁ、気持ちは分かるぜ?
と、ケイジ。買って来た電池はきっとまたレアナンバーだ。
「そうは言うがよ、司祭サン。徹底的にやるって言ったのは村長サンだぜ?」
「アレは! 違う! 違うんだ! 私も思い出した! 私も思い出したぞ! 村を襲ったのは君達ではない! 無かった! そうだ!」
「ミコトの証言は? どう説明する?」
「――わたしの、思い違いでした」
「……思い違い? んじゃ、確認の為に電池を――」
「わたしの虚言ですッ! 良い印象を持って居ないアナタを陥れようとしましたっ!」
「そうかい。いけねぇぜ、
歩きミコトに近づき、乱暴に頭を掴み、ぐわんぐわん揺らす。
「『主は虚言を許されませんよ?』」
裏声でミコトの声真似をし、くくっ、と笑いながら。
「……覚えて、おきます」
「そうしな。
そんじゃ、とケイジが手を叩いて注目を集める。
「『俺は狂信者からコイツを助けた。コイツは狂信者に捕らえられてた。でも、その狂信者が居たのは村じゃねぇ』」
同じセリフを言って、一息。
「なのに、勘違いした村長サンと、俺を陥れようとしたミコトが司祭サマ担ぎだしてこの騒ぎだ。手間取らせて悪かったな、局長サン、弁護士サン。――テメェら、頭下げた方が良いんじゃねぇか?」
ケイジの言葉に三人が申し訳ありません、と頭を下げる。
「ん? そういや、司祭サマとミコトはアンナにも暴言吐いてたよな? 詫びとかねぇの?」
「――」
二人は目に殺気を込めてケイジを睨んだ後、申し訳ありませんと頭を下げた。
心は微塵も籠っていない。だが、まぁ、別にケイジは気にしない。謝罪に心を込められても金にはならねぇ。そう言うことだ。
「ヘイ、マスターわりぃが、
だからキティに向き直り、悪い笑顔で、悪い声音で、周りに聞こえる様にそう言う。
村長はソレに反応出来ない。それでも司祭は何かを感じられた。
まさか。そんな思いで足を動かし、よろよろとモニターの前に居るキティとケイジによって来る。
「……その、証拠映像は――」
どうするんだ?
聞こえなかった後ろの言葉こそ蛮賊共が聞きたかった言葉だ。だから言われなくても、補完してにやりと笑う。
「ヨ、ヨ。アンタ、本当に無能だなぁ? そんなんでよく一つの教会取り仕切る司祭に成れたもんだと感心するぜ! ――使うに決まってんだろ?」
「知ってるか? 今回、テメェらが騒いだお陰で、局長サンと弁護士サンが動いた。そうなるとな、コレ。この話し合い、文章で内容が残るんだわ。法的な証拠能力? って奴を持つ。……んで、そこにありますはこのパンドラの箱だ」
そこには犯人が映っています。
そしてその犯人を虚偽の証人でっち上げて庇っているのが居ます。
それがはっきりと公的な文書に書かれています。
さて、そんな状況で――
「その司祭はミッシェルの後釜の司教に成れるでしょうか?」
「そもそもその司祭サマは司祭の座を守れるでしょうか?」
「――」
蛮賊二人の言葉の意味を理解した司祭が、カクン、と糸が切れたかの様にへたり込む。
「ヨ。そんな訳で月一で電池を買ってくれや、取り敢えず金貨一枚から
「むっ、無理、そんなの、無理だ……」
弱々しく首を振りながら、司祭。
だが、蛮賊共はそれを聞いてやるつもりはない。
司祭が法に訴えようにも、ソレを先に無視したのは――。
「ヨ、ヨ。その泣き言にはこう言ってやるぜぇ?
「わりぃな、司祭サマに村長サン。やっぱり俺の祈りは届いてねぇみてぇだわ。骨すら残らねぇ程に、
二人揃ってのハンドサインは中指おったてての、ファック。
無名教の、或いは
美味しく、残さず、頂きます。
司祭と村長から絞るだけ絞ったら、最後には映像を教会かギルドに売りつけてお終い。勿論、その二つの組織にも競売を持ちかけて美味しく調理をする。
ソレが
あとがき
タイトルを変えてからね、PVとかがっつりと増えてるんですよ……
でもそんなの関係ねぇ!
そんな訳でタイトルを、しれっ、と戻し戻し。
タイトル変更中にお越しになった皆さん。今後もお付き合い下さいな。
以前からの読者さん、あいるびーばぁっく!!
……いや、もう戻ってきましたがね。
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