開拓局
初めて呼び出された開拓局の部屋はそこそこ大きな会議室だった。
パイプ椅子が左右の壁側と正面に置かれ、簡易的な法廷の様になっていた。
格好をつけても仕方がないので、何時もの野戦服。それでも武器類は没収されてしまったのでここ一ヵ月では久しぶりの無防備な状態でケイジはその部屋に入った。
傍らには、今回の参考人としてアンナ。
ミリィに任せたらデニム生地のハーフパンツに大き目の白のシャツを合わせられ、結果としてミニスカート以上に大変なことになっていた。チャームポイントは赤のネクタイとのことだが、ケイジとしては紺のハイソックスと合わせられた足にしか目が行かない。
と、言うか――
「ヘイ、アンナさんや。その恰好で椅子に座ると大変なことにならねぇか? エロい意味で」
「大丈夫じゃない? あたしたちの前に座るのは無名教の司祭さまとかでしょ? 露骨にガン見はしないわよ」
「そうかい。村長サンも居るんだがよ」
「ね、ね、ケイジ。上着貸してよ、膝に掛けるから」
「嫌だね。俺上着脱ぐと下がタンクトップだぜ? 仮にも法廷みてぇな場所でそれはロック過ぎんだろーがよ」
「ワイルドな人って素敵だと思うわよ?」
だから上着貸して。「……」にこにこ笑顔で手を差し出すアンナに無言で上着を貸してやる。ケイジの呪印は未だ腕迄は伸びていないので、そこまで威圧的ではないが、鍛えられた開拓者の肉体と野良犬の様な目付きはソレが無くとも中々に威圧的だ。
部屋に入るなり、秘書と思われる女性が右側の席を指し示したので、ケイジとアンナはそこに座る。アンナがケイジから借りた上着をいそいそと膝掛けにして向かい側のおっさん達の視線をシャットダウンすると、心なしか向こう側から舌打ちが聞こえて来たような気がした。
――生臭共が。
対抗する様に、ケイジが舌打ちをすると、その威圧的な外見も相まって、向こう側から今度は咳払いが聞こえて来た。みてませんよー。そんなアピールだろう。
向かい側に座っているのは機械製の右足を覗かせ、怯えながらもスケベ心を隠さない村長と、白いローブを着て好々爺然とした老人、それとスーツをかっちりと来た眼鏡のリザードマンだった。「……」性別に自信は無い。無いが、男物のスーツなので、きっと男性なのだろう。
四角い眼鏡をきらりと光らせる彼は恐らくだが、都市側の法を司るモノなのだ。人間至上を掲げる無名教でリザードマンに扱いはお察しだ。席こっちじゃねぇの? ケイジはそんなことを思った。
五分も待たなかっただろう。
扉が開き、スーツを着たドワーフが入って来た。
体格が良いリザードマンの血でも入っているのだろうか? 骨太で頑強ではあっても小柄なモノが多いドワーフにしては背が高く、そしてドワーフらしく分厚い男だった。スーツがパンパンだった。
開拓局局長。彼はちらりとケイジを見て、その服装に眉をしかめ、その直ぐ後に膝掛けとして使われているのを見て複雑そうな顔をした。「まぁ、良いか」。そんな呟きが聞こえて来たので、ケイジは見逃して貰えたのだろう。
局長が席に座り、本日の議題が説明されて、開廷。
村長がヒートアップしながら叫ぶのを要約してみれば『派遣された開拓者が行き成り暴れ出し、襲われた。責任取れやこらぁ!』と言うモノだった。
それに被せる様に無名教の好々爺が言うには『その際、有ろうことか無名教の教義を侮辱し、その上で敬虔な信徒である三人の開拓者を亡き者にしようとした』とのこと。
「……」
身に覚えがある内容から、身に覚えがない内容。序に盛られた罪状を聞きながら消え時は大きく欠伸を一つ。向かい側の席の村長とリザードマンが、その不真面目な態度に怒りを露わにしたが、ケイジは気にしない。
「――何か反論は?」
「反論……つーかな、俺は
「控え目に言って……イケてるな」
「ヤァ、褒めてくれてサンキュー。アンタもクールだぜ?」
ガララとは違い、流暢な言葉での返しに合わせたサムズアップ。
それに合わせる様にケイジもサムズアップを返した。
「ッ、のぉ! ふざけるなっ! だったらっ! だったら私の足はどう説明するっ!」
ソレに神経を逆なでされたのが村長だ。
無名教の都合が良い部分、人間至上主義だけを信奉する彼にしてみれば、魔女種とリザードマン、それにチンピラの様なクソガキに右足を吹き飛ばされたと言うのは耐えがたい屈辱だ。
「んー……? その義足がどうかし――あぁ、そうか。そう言うことか。オーケイ、村長サン。気がつかなかった俺を許してくれや。アンタもクールだぜ。良いと思う」
サムズアップ。
「このっ、クソガキがッ!」
炎の様な怒声が飛ぶ。
だが、ケイジはそんな彼の怒りにも動じない。
司祭はそんなケイジと村長のやり取りを眉をしかめて聞いていた。理性的である彼にとっては隣に座る村長も向かい側で煽るケイジもさして違いは無い。どちらも小物であり、自分の手を煩わせる面倒な奴等でしかなかったのだ。
「君は……ケイジくんと言ったかな?」
「あぁ、そうだ。何だ? 次は司祭サマからのお説教か? わりぃな、テメェの所の宗教はクサくて信仰する気にはなんねぇーんだわ。布教なら他所でやってくれ」
「……私は挑発には乗らないよ」
「そうかい。そいつは良い。アンタもクールだぜ」
はっ、と笑うケイジ。
それでも司祭は宣言通りに挑発には乗らず、涼し気な笑顔を浮かべていた。
「……で、司祭サマは暴走した狂信者たちの件に関してはどうお考えで?」
「それが本当なら由々しき事態だ」
「傷を抉りそうだからあんま喋らせたくねぇんだけどよ、アンナに話させるか?」
「ふむ? だがその話に信憑性はあるのかね? 彼女が攫われた。襲われたということ自体、作り話では? 彼女は、そうだな……卑しい君が我々を脅迫する為のサクラ、とか?」
「そんなわけないじゃないっ! あたしは捕まったわ! ただ魔女種であると言うだけで! 何をしても許されるって笑いながら! それをっ、そんな、そんな、言い方――」
アンナの叫び。後ろに涙が混ざるソレを司祭は鼻で笑って流した。
場の空気が変わる。野良犬の様な眼の少年が、確かに怒り、それでもソレを表に出さずに笑っていた。殴り掛かって来てくれた方が話が早かった。そんな司祭の思惑をケイジは知らない。知らないが、まだ耐えられたので、露骨に怒りは面に出さない。
「……はっはー『ウチの
薄く、軽く、笑って見せる。
「そうだ。……と、言っても水掛け論になるだけだな。そこで証人に来てもらおう」
司祭が何やら合図を出すと扉が開き、ローブ姿の少女が入って来た。彼女は、すっ、と静かに礼をすると、一度だけケイジを冷たい目で見て、場の中央に歩み出た。
「証人として呼ばれました、無名教の
鈴の様な軽やかな声。ソレで持って――
「わたしと、わたしの仲間はそこの蛮賊と一緒に仕事を受け、村を襲撃する際に邪魔に邪魔だからと拘束されました」
ケイジを刺す。
「ふむ。その際、そこの魔女種の少女が村に捕らえられていたと言うことは?」
「ありません。恐らく、今回の件に際して用意したものかと……」
「嘘よっ! アンタ、檻の中のあたしをみて言ったじゃない。『魔女種に生まれた彼女が悪い』って!」
「嘘ですね。主は虚言を許されませんよ?」
「――っ!」
噛み付かんばかりの、それ以上に泣き出しそうなアンナに胸を貸してやりながらケイジはミコトを見る。さらりとコレが言えるとかすげぇな。正確には、すげぇクソだな。
――俺やガララの方が未だ正直じゃねぇか。
何故にそんな俺達がNG喰らって、この女が
「君の方から何か反論はあるかな?」
リザードマンの弁護士からの問いに、ケイジは「勿論」と返す。
「意見の食い違いを指摘させて貰って良いか? 俺はコイツが村に捕まってたとは言ってねぇぜ?」
「……では何処に?」
「さぁな。忘れた」
司祭の言葉に肩を竦めてケイジ。
「俺は狂信者からコイツを助けた。コイツは狂信者に捕らえられてた。でも、その狂信者が居たのは村じゃねぇ」
「……」
「どうだい、司祭サマ。この辺で手を打って追及を止めねぇか?」
へらっ、と笑いながらの言葉。
露骨なまでの失言。
それなり程度にケイジを見積もっている司祭とミコトは食いつかない。狙いを探る様に、頭を冷たくする。
リザードマンの弁護士はその発言の真意を探り、ドワーフの局長もまた同じ。
ただ。
ただ、ただ――
「きっ! 聞いたか! 今の! 今の言葉っ! アイツはもみ消そうとしているぞ! こっ、この話を揉み消そうと! 自分の不祥事を隠そうとしているぞぉっ!」
――
あとがき
連休二日目。
サンドボックス系のゲームで豪邸を建てる為に木と石を集めて一日が終わる……。
有意義!
……有意義?
五飛、教えてくれ……有意義ってなんだ?
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