172-5.言っていない事③(フィーガス視点)
*・*・*(フィーガス視点)
そこは願ってもない事だ。十六年前からの、カイルの願いがある意味で叶ったんだからなぁ?
俺が一旦屋敷に戻ってからこの屋敷に来た理由は……俺とカレリアの結婚式などの延期を知らせに来たんだ。嬢ちゃんには頼み事をしてたから、それを伝えなくちゃなんねぇ。
とりあえず今は、レクターに連れられて医務室で何故か正座中だ。
「まったく……カイルがきちんと言うつもりだったんだから、二人で盛り上げようとしないの!!」
「……だってヨォ?」
「……ねぇ?」
確かに、記憶の封印とやらが色々無くなった今なら何も問題がない。嬢ちゃん……姫様とカイルが想いを交わせたことがその証拠だ。なら、俺達の口から『仮の婚約者』だったことも口にしていいはず。
なのに、レクターは止めやがった。まあ、理由はわからなくもないが。
「やっとだろ? 部外者じゃねーんだから、俺とかマックスから言っても良かっただろ?」
「そうかもだけど、カイルからの方が良いじゃないか?」
「まぁねぇ?…………今頃、盛り上がってないかしら??」
「こんな真っ昼間……か、ら」
レクターもだんだん自信がなくなったように、言葉が途切れ途切れになり……顔色も青ざめていく。いくら、俺ら幼馴染みであろうと、こいつは乳兄弟であろうとカイルの『今』は読みにくい。
何せ、想っていた相手と結ばれたんだしなあ??
マックスもニヤついていたが、今執務室に行くのはまずい。『どっちの意味』でも。
だから、レクターもその場で大きくため息を吐いた。
「どーすんのよん? レクター??」
一応俺とマックスは正座を継続中だ。下手に解くとレクターの後が怖いからだが。
「…………ちょっと見に行こう」
「俺らもか?」
「フィーは、チャロナちゃんに言いたいことがあったんでしょ?」
「おう」
例のウェディングケーキ。
結婚式を延期するからには、ケーキも延期だ。
延期の理由はカレリアについてだ。臨月は程遠いが、子が生まれてからの方がいいと魔法医の診断を受けた。
なら、必然的に式も披露宴も延長だ。仕方ねぇが嬢ちゃんにも伝えなくちゃならん。
っつーのを今朝方決まったから、わざわざ俺だけでここに来た。
それを二人にも伝えれば、『なるほど』と頷いてくれた。
「なら、チーちゃんには早いうちに伝えなくちゃねぇん?」
だもんで、久しぶりの正座で多少脚は痺れたが、なんとかカイルの執務室に戻る。扉から耳を澄ませば、音はほとんど聞こえなかった。
どうする? と顔を合わせてから、レクターがゆっくりと扉を開けてみた。
「…………寝ちゃっているね?」
俺やマックスも後から入れば、ご丁寧に手を繋ぎながらソファで寝ているカイルらの姿があった。
「どーする?」
「昨日は色々あったし、少し寝かせてあげようよ?」
「こんなカイルの寝顔…………落書きしたくなるわ〜?」
「マックス……やめてあげて」
まあ、俺も多少の悪戯心はくすぐられたが。こんなにも穏やかな寝顔のカイルだなんて、王妃様があの戦争で殺される前以来じゃねーか?
とりあえず、俺らはまた執務室から出て行くことにした。
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