170-3.千里と悠花②

 たしか、映画を観に行った帰りかご飯を食べにいく途中だったかな?


 それぞれ、映画館のあるショッピングモールのジェラート屋さんで買ったジェラートを食べている。ちょっとシェアするくらい仲が良い感じ。


 今の世界でも似た感じだ。それくらい仲が良かったのに、どうして……私達は記憶を封印されていたのだろう?


 それに、マックス悠花さんが話しかけていた、私達が本当に死んでしまった真実。それを、クロノさんは戻してくれると言っていた。この後……なのかな?


 映像のように流れる風景には、千里悠花ゆうかさんがちょうどジェラートを食べ終えるところだった。



「あ〜〜楽しい!!」



 適当なベンチに座った悠花さんは、千里にも座るように空いてるスペースをぽんぽんと軽く叩いた。千里はすぐにその隣に座り、側にあったゴミ箱に悠花さんのジェラートのゴミも一緒に捨てた。



「ほんと、楽しかった~!! 悠花さんと遊ぶのも結構久しぶりだったし!!」


「元彼と別れて正解だったわ〜!! 結局あたしの美貌狙い、中身だなんて二の次だったもの」


「けど、良い人じゃなかったの?」


「最初はね? けど、どんどん化けの皮が剥がれていったわ」


「ありゃぁ」



 千里には、彼氏とか恋人と呼べる相手はいなかった。ごく普通の日本人の顔だし、初恋も砕けたくらい。逆に好きな料理を作ったり、パンの製造をしているのが楽しかったから……悠花さんと出会うまで友達付き合いもあまり。


 だから、この時が一番楽しかったのをだんだんとチャロナも思い出してきた。



『『『きゃぁああああああああ!!?』』』


『『『うわぁあああああああ!!?』』』



 何かの大声が聞こえてきた。


 歓声じゃない、むしろ悲鳴??


 なんでこんな街中でと思ったら……男の人が血走った目でナイフを振り回していたのだ。



(え……これ!?)



 顔は全然知らない人だけど、チャロナは思い出してきた。あの人によって、私や悠花さんは『殺された』と言う事実を。



「チーちゃん!! 逃げるわよ!?」


「う、うん!!」



 けど、ヒールを履いた女の足でそう遠くにも行けず。私は後ろからいきなり、肉に何か刺された衝撃を感じた。



「チーちゃん!?」



 悠花さんの声が遠い。


 千里チャロナは痛みに耐えきれずに地面に倒れた。血がどんどん自分の体から出て行く。ああ、ここで死ぬんだとわかった時が哀しい気持ちが千里から伝わってくる。


 そして、霞んで行く視界の中、悠花さんの悲鳴と共に彼女も刺されたのだとわかっても。


 既に死にかけていた私には何も出来なかった。



「この後だよ」



 意識がまた暗闇に戻り、クロノさんが立っていた。



「あの時の、無差別殺人となった事件は……悠花の元恋人が起こした。悠花が振ったことで、自棄になったんだろうね? けど、あの人間はもう死刑確定。冥府でも地獄落ちは決定だ」


「……けど、私と悠花さんは何故?」


「じい様達の世界に転生させた件でしょ? 君はパンの腕を、悠花は君の友人として……時間軸は多少ズレたけど、結果的には出会えた。僕の手伝いはそこまで」


「……そう、ですか」



 何故性別は彼女だけ逆にしたか聞いてみると、それはたまたまだったらしい。



「女なのに、異世界での運命の相手も女だったからね? 百合とか何とかにするよりかは、男の方がいいでしょ?」


「あ……はい」



 現状、悠花さんとエイマーさんは満足しているから、それで良いのかな??



「さて。思った以上に負担はなかった。君は結構肝が据わっているようだね?」


「……この世界でも、殺されかけたので」



 あの強固派のお兄さんが牢屋に入れられた後までは、わからないけど。多分、軽い刑罰どころですまないだろう。


 とりあえず、私は顔を上げた。クロノさんと目が合うと、彼も頷いてくれる。



「じゃあ、帰そう。僕と君は二度と会わないかもしれないけれど」


「神様ですのに?」


「さすらう、って言ったでしょ? 出来るだけひとつの世界にとどまらないんだ」



『じゃぁね?』と、手を振ってくれ直後。


 私は体が誰かに強く抱きしめられる衝撃を感じた。

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