170-1.クロノソティス






 *・*・*









 暗い、暗い……暗い。


 気を失ったら、私は暗い場所に座り込んでいた。


 さっきまで一緒だった、悠花ゆうかさんはと探しても誰もいない。


 また、フィルドさんやユリアさんに呼ばれたのかと思ったら……誰かの足音が聞こえて来た。



「……知りたい? 自分の死んだ時のことを」



 高いが、男の人の声。


 誰だろうと、声がする方を向いたら……黒い髪と不思議な目の色をしている男の人が立っていた。


 私が振り返れば、彼はニコッと笑ってくれた。その笑顔と、容姿が誰かに似ていることを思い出した。



「フィー……君?」


「んー? 違うね。僕はクロノソティス……長いから、クロノでいいよ? シアやフィーの兄さ」


「神……様?」


「そうだね? ちょっとカッコつけて言うけど、さすらいの神様が僕」



 フィー君と良く似ているけど、喋り方も雰囲気も全然違う。あと、フィー君が少年ならクロノさんは成人サイズだ。神様にも年齢があるんだなと思った。



「……私、は何故ここに?」


「さっき、言ったでしょ? 君の死因……前世での死んだ記憶を改めて思い出したい?」


「悠花さんに、戻された記憶……?」


「そう。そして君にも封印した記憶……それらを取り戻すか否か。思ったよりも負荷がかかるから……僕が出てきたわけ」


「大変……なんですか?」


「君の身体に起こった症状があれだからね? 仲立ちとしてじい様達より、僕のが都合が良かっただけさ?」


「…………」



 悠花さんも言っていた、私と悠花さんとの本当の前世での関係性。


 それが、また私にとっては重荷になるかもしれない。


 けど、でも。



「……その顔を見る限り、選んだようだね?」



 クロノさんの言葉に、私は大きく頷く。



「怖がってちゃ、いけないと思うんです!! だから……戻してください!!」


「……君への負荷をある程度は取り除く。けど、いくらかは受けてもらう。それでも?」


「はい!!」



 死んでしまったから、もう二度と戻れない。


 けれど、今のこの世界できちんと生きていくことを決めたんだから……怖いだなんて言っていられない。


 カイルキア様とも、向き合うためにも。


 強く、もう一度頷いたら、クロノさんも頷いてくれた。



「記憶はゆっくりと戻す。そこから、君はもう一度あの惨劇を体験するよ? 痛みは伴うけど、終わったら目覚めることが出来るから」



 そして、私の意識は溶け込むように、ゆっくりと沈んでいき。


 気がついたら……前世で勤めていたパン屋の厨房で、生地の分割作業をしていたのだった。



(え……え、え?)



 匂い、空気、熱さ、すべてが。


 元いた世界そのままで……けれど体は仕事をスムーズにしていたのだ。



(戻ってる……? ううん、記憶?)



 意識はちゃんとあるけど、『私』もちゃんとあった。だから……映像を見るように、懐かしい風景を眺めていく。

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