168-5.優先する仕事






 *・*・*










 カイルキア様のお屋敷に帰れる!!


 嬉しくないわけがない!!


 お城は……たしかに、この世界では私の実家に違いないけど。カイルキア様のお屋敷も滞在するようになってから数ヶ月とは言え、あそこが私のいる場所だと思ってはいる。



(……王女だってわかっている人達がほとんどだけど)



 それでも、私を『チャロナ=マンシェリー』として扱ってくれたんだから……皆良い人達だ。私もわかった今は……どう言う風に接してくれるかはわかんない。わからなくても、私は私通りにして行こう。


 うだうだしてたって、現実は現実なんだから!


 とりあえず、お父さんの執務室から出た後。私はお母さんとお兄さんと一緒にお城での自分の部屋に戻った。ロティには影の中に入ってもらう。昨日いただいた、たくさんの誕生日プレゼントをどうするか決めるためだ。


 お父さんは今日からまたお仕事があるからと、カイザークさんに言いつけられて頑張っているらしい。


 ただ、私の見送りには来るそうだけど。カイルキア様達は、準備をしてから帰るまで控え室で待機してくれているらしい。



「……これ、どうしよう」



 寝室じゃなくて、ドレッサーに近いスペースに山積みになっているプレゼントの箱達。ほとんどがドレスや宝石関連。こんなにもいただいて良いのかとも思うが、



「なははは! 王女帰還のために、皆用意してくれたんだ!! むしろ、これでも少ない方なんだぞ?」


「……この量で??」


「ふふ。あなたがいなかった十六年を思えば……たしかに少ないわね? とりあえず、ほとんどはここで仕分けしちゃいましょうか? メイド達を呼んで、ドレスとかは仕舞ってもらわなくちゃ」


「うん」



 お母さんは……生き返ったのもあるけど、このお城で生活するのは決めたそうだ。今まで、お父さんとお兄さんだけで頑張って来たお仕事とかを、お母さんも手伝いたいからだって。


 私は私で、パン作り以外にもホムラや友好国に派遣するお仕事があるから、それで良いんだそうだ。皆に比べると、凄い仕事をしていないように思えるが……正しいパンの製造法を知っているのは、この世界では私だけらしい。


 だから、それを活かした仕事を優先すればいいそうだ。


 とりあえず、プレゼントはひとつひとつ箱を開けてから、お兄さんが呼んでくれたメイドさんに預けてドレッサーに入れてもらうのを繰り返した。ただし、普段着に使えそうな簡易ドレスについては、無限∞収納棚に入れて……メイミーさん達に預ける予定にした。向こうでのお出かけ着とかも、リュシアで買った以来だからあんまり数がないもの。


 アクセサリーとかの宝飾類は、昨日身につけた……前の誕生日パーティーで一式いただいたものは……お母さんに返した。もともとはお母さんがお父さんからもらったものらしいから、お母さんがいいと言っても私は納得が出来ない。


 もう形見じゃないし、そんな大切なものは受け取れない。


 だから、昨日もらったアクセサリーからある程度普段使いに使えそうなものを選んで、収納棚に入れた。お城には、私が転移魔法でいつでも来れるから必要最低限だけで充分。



「チャロナは欲がないわね?」


「今までが孤児だと思ってたから……いきなり贅沢とか言われても困るもん」


「ふふ。いきなり環境が変われば困るのも無理ないかもね?」


「母上がいなかった間も、随分と変わったんだぞ! 友好国には、既に王妃復活の知らせは届けているんだ。玉座の間も、以前のように作り替えているんだぞ」


「そうね。それが元通りと言っていいかはわからないけど」



 十六年の穴を埋めるには、時間がかかる。


 私のもだけど、お母さんの方がずっとずっと大変だ。


 なにせ、生き返ってしまったんだから……私はユリアさん達から言い渡された選択肢を裏切ったのを、後悔はしていない。


 だから、お母さんに出来ることは……なんだってしたいんだもの!!



「お母さん」


「うん?」


「私も頑張るから! 元通りにしていこう!!」


「!……ありがとう、チャロナ」



 私が意気込みを言うと、お母さんは綺麗に笑ってくれた。


 それから私は、お師匠様と約束した通りに発酵器ニーダーポットを見に行くのに、お兄さんに案内してもらったのだ。

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