152-6.狭間でお茶会(ユリアネス視点)






 *・*・*(ユリアネス視点)









 少々、人間界に行っていた夫が戻ってきた。


 何やら、チョコのお菓子を持ち帰ってきたけれど。



「わぁ! じぃじ、それなーに?」


「ほっほ。チャロナが教えてくれた、チョコレートブラウニーと言うお菓子じゃ」


「チョコレートブラウニー?」


「お茶を淹れましょうか?」



 孤児院の、とりあえず最後の差し入れにお菓子の教室。


 それを見届けるのに、夫のフィルドが数日前から出向いていたのだ。子供に化けて、周りに自分はずっと仲間だったと認識させて。


 そして、今日。それをまた忘れさせてから、帰ってきた。


 ブラウニーと言うお菓子は、私も良く知らないけれど。


 板チョコよりも、もっと大きくて四角いケーキのような感じ。


 他に具材は入っていないようだった。


 シアにはまだコーヒーは苦いので、紅茶を淹れてあげて。


 術で出現させたテーブルと椅子のセットに腰掛けて、フィルドがお菓子を切り分けてお皿に載せてくれたわ。



「美味しそう!!」



 ほんの少し前は、赤児だったのに。今は立派な少女だ。


 笑う顔も、嬉しそうな顔も。


 本当に、変わったわ。フィルザスと揃って、私達の知らないところで一緒に頑張ってもいるだろうし。


 それには、目をつむっていてあげるわ。



「ホイップクリームと一緒に食べると美味しいんじゃよ?」


「クリーム?」



 皿の端にちょこんと添えられた白い塊。


 フォークで少しだけ、ブラウニーに載せてシアは口に入れた。


 狭間にいるが、暗がりでも彼女の頬が真っ赤に染まったのがよく見えた。



「どうじゃ?」


「すっごく、すっごく美味しいよ!? ふわふわしてて、チョコはチョコだけど。これ多分、ケーキ? でも、すっごく美味しい!!」



 私もひと口食べれば、たしかにブラウニーは濃厚なチョコの味わいだが、クリームをつければ幾分かまろやかになった。


 けど、この味わいは。



「これ……ほとんど粉とチョコレートだけかしら?」


「そうじゃ。チョコを砕いて、牛乳と一緒に溶かした以外は砂糖と小麦粉くらいじゃったわい」


「なのに、しっとりとした味わい……あの子は、本当にすごいわ」



 パン以外の料理も可能としている。


 異能ギフトを与えたとは言え、ここまで異世界の料理を再現出来るとは。


 やはり、レイアークの世界で不幸な死に方をしてでも、魂を導いたのは正解だったわ。



「……フィーにも食べてもらいたいなぁ」



 食べ進めていたら、シアがぽつりとそんなことを言い出した。


 まだそれは少し先のことなので、フィルドがシアの髪を撫でてやっていた。



「もう少し先じゃ、もう少し」


「……うん」


「あと少しで。チャロナ達の運命も決まるもの」



 あとほんの数日で。


 選択の時が迫ってきた。アクシアの願いも、届くかどうか。


 チャロナの選択次第で、彼女達の未来だけでなく、この世界の未来も変わるのだから。

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