144-3.関係(サイラ視点)






 *・*・*(サイラ視点)








 あと少し。


 あと少し、でチャロナ姫様がお城に戻るかもしれない。


 恋人のエピアに聞いたんだけど、式典があるからだって。


 式典があるってことは、今まで王子様ってことも隠していたシュライゼン様の正体も。


 二度か三度、姫様が来てからやってきた陛下の正体も。


 全部全部、ばれて。姫様は本来の生活に戻れられるだろう。


 けど、旦那様のことが好きだから。


 今はパンを作る使用人であるから。


 ひょっとしたら、ここでの生活を続けるかもしれない。形式は色々変わるかもしれないけど。



「サイラくーん!」


『でふぅうううう!!』



 考え事をしながら、飼料を混ぜ込んだりしていると。その姫様とロティがやってきた。



「? おー?」


「お疲れ様。もうすぐ終わる?」


「これの仕込み終わって、餌やりしたら」


「あのねあのね! 定例会の試食用に、ミニハンバーガーを作ったの!! おやつだけど、たくさんあるから!」


「……ハンバーガー?」


「えっとね?……私の前世では人気だったサンドイッチのひとつなの」


「! へー?」



 それに、姫様は前世の記憶を持つ転生者だ。


 俺のような豪族よりもさらに下の平民と同じらしい。けど、そんなのが気にならないくらい、いい女の子だ。



「ほう? 美味そうな気配がするねえ?」


「「エスメラルダさん」」


『でふぅううう!!』


「お? ロティおいで?」


『みゅううううううう!!』



 ロティは人見知りしないので、求められれば誰にでも抱きつきに行く。


 一度、庭師のライオネルさんに抱っこされているのを見た時は、なんか周りが凍った気がしたけど。


 ロティはエスメラルダさんに抱っこされてご機嫌だった。



「で? なんの話だい?」


「定例会に向けて、試食用のパンをおやつに作ったんです!」


「ほーう? どんなんだい?」


「えっと……前に作ったメンチカツサンドの小さい方と似てます。上下にパン。間に具材。そんな感じのサンドイッチの一種です」


「へー? てことは肉がメインかい?」


「魚のフライもあります!」


「「おお!?」」



 魚のフライは姫様の前世の知識のひとつだが。


 むちゃくちゃ美味い!!


 例のウスターソースにつけるのも美味いけど、卵とかで作ったタルタルソースってのも。


 どっちか気になったが、姫様は早めに来て欲しいとだけ告げてから、厨房に帰って行った。



「あと少し……かもしんないねえ?」


「……っす」



 姫様が来て、たったの二カ月だけど。


 あの方は、とっくにローザリオン公爵家の一員だ。


 それに、正体を知っていない今は俺やエピアを含めて何人かは友達だ。


 姫様が、ご自分が王女様だと知ったら。


 俺達の関係も、変わるだけですまないだろう。

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