141-5.傍観するも(ユリアネス視点)
*・*・*(ユリアネス視点)
水鏡で、あの愚かな幼い人間を見て思わずため息を吐いた。
「愚か……実に愚かだわ。イシュー=メルバルド」
姫の実力は本物。それを知らずして亡き者にしようとは、本当に愚かだ。
自分の力に陶酔し切るなど、実力がなければ意味がない。
私達があの子を、レイアークの世界から召喚して姫の器に入れた時点で、この世界の未来での約束事は報酬として相応しい。
なのに、自分勝手で失くさせるなどとは傲慢だ。
しかし、彼の捕縛は私達神が降すのではない。
これまで、ディーシアや私とフィルドが手助けしたところまで。
以降は、人間達の問題だ。順調に動いているようだし、わざわざ私達が手を差し伸べなくても大丈夫だろう。
だけど。
「ああ、愚かじゃ。死後は冥府の業火で魂の芯まで燃やされるじゃろう」
元の最高神の姿になったフィルドが呆れた様子で、水鏡を覗いていた。
「……それでも。私達は手出ししない」
「うむ。シュライゼン達がよく動いておる。時期に捕縛されるじゃろうが……式典まで引き延ばすのも面白いのお?」
「……あなた」
「考えてもみい? 強固派を断絶するには、あの姫と……あの王妃の魂が必要じゃ。二人の力を合わさねば、頑固で阿呆な臣下達を納得させるのは無理じゃろう」
「……それまで。あの姫達のいる屋敷に襲撃を繰り返すの? フィーガスの屋敷にも行かせるって」
「大丈夫じゃろう。フィーガスも阿呆ではないからの? 妻となる女を守るために、懸命に動くじゃろう」
「……そうね」
けれど、身重になったカレリアが狙われているのだ。新しい命を芽吹いたばかりの彼らを死なせては、姫も悲しむだけですまないだろう。
せめても、と私はフィルドに許可を得てから夢に介入することにした。
夢でも、白昼夢のように。
仕事中の彼の意識してに介入して、私は今の老婆のような姿のまま、彼の前に立った。
『……あんたは?』
「聞きなさい、フィーガス=アルフガーノ。私は最高神とも呼ばれている女神。あなたの妻に危機が迫っているわ。すぐに、屋敷の警備を強化しなさい」
『……は?』
「すぐにわかるわ。あなたの妻だけでなく、ローザリオン公爵家にいる姫にも。この夢をすぐに、彼らにも伝えなさい」
夢を出てから、もう一度水鏡で確認したら。
ちょうど、襲撃部隊らしき黒ずくめの人間達がフィーガスを襲うところだった。
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