139-2.照れ(カイルキア視点)






 *・*・*(カイルキア視点)








 実に不謹慎だと思うのだが。


 姫が。


 姫が。


 俺と出掛けるのを、あんなにも楽しみにしていたのに。本当に不謹慎だが、俺の胸の高鳴りが止まらないでいた。


 執務室に一人で戻り、扉を閉めてからもたれて体を預けたのだった。



「……姫が。泣くほどだなんて」



 恋人になれてもいないのに、あれだけ泣いてしまったと言うことはそれだけ楽しみにしていたということ。


 自覚がなかったようだが、泣く前に『……デート』とか呟いて盛大に落ち込んでしまってたが。


 だが、それだけ楽しみにしていたと言うのには、嬉しいと思わずにはいられない。



「……本当に。不謹慎だが、こんなにも嬉しいだなんて」



 レクターとマックスが今日行けと提案してくれなかったら、俺は予定を組もうともしなかった。だから、昨夜告げた時は真っ赤になって頷いてくれた時の愛らしさに。


 夜明けの素振り訓練を、いつも以上にこなしてしまった。


 俺も……楽しみにしていたのだ。


 だから、エイマーから起きて来ないと知らせが届いた時に。俺は正直焦った。


 また、神の仕業か何かと思ったくらいに。昼を過ぎても、夕方になても目を覚さない姫とロティに。


 俺は、神に逆らってでも姫を目覚めさせる手段を得ようと、ラスティに頼んでウルクル神を呼ぼうと言い出した途端に。


 マックスが起きた、と声を上げたのだが。


 直後に、姫が泣き出したので俺は体が勝手に動いて。いつのまにか姫を抱きしめていた。昔、伯母上が俺にしてくれたように。母上にもしてもらったように。


 そのお陰か、俺の発言のお陰かはわからないが姫は泣き止んでくれたのだ。



「……明日、か」



 姫のためとは言え、こんなにも休暇を取ったことなど。久しくないかもしれない。


 この間は草原や滝に行ったが、次はどうしようか。リュシアに行けば、俺もだが姫の顔も割れているし一躍有名人状態だ。


 それがなければ、たまにはお忍びで観光がてら行くのもよかったが。出来ないことはしない方がいい。


 なら、この間のように領地内を散策するのもいいだろう。それか、少し涼しくなってきたから釣りでも。



「……釣り、か。冒険者時代以来だな」



 マックスも実質、冒険者から卒業したような状態だが。本職はまだ引退していないらしい。


 俺は執務をするのをやめて、私室横の倉庫を漁って久しぶりに釣り道具などを探すことにした。



「……旦那様? お申し付けくだされば、私どもがお探ししましたのに」



 道具を見つけた頃には、ゼーレンを含む何名かの執事バトラー達が心配そうに覗きに来たのだ。



「……何。明日出かける用意くらいは自分でしようと思ってな?」


「左様にございますか。姫様もお目覚めになられて、ようございました」


「……ああ。だから、明日の留守は任せた」


「はっ」



 とりあえず、残りの道具はゼーレン達に出してもらい。俺の魔法鞄マジックバックに入れてから、食堂で夕飯を食べに行ったのだった。

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