139-1.泣き止まない
泣きやめない。
泣くのをやめたくいのに出来ない。
それだけ、ショックだったのだ。
それだけ、楽しみにしていたのだから。
だから、昨夜の何時頃から寝てしまっていたのか思い出せない。
そのせいで、自分の失態で楽しみにしていたことを台無しにしてしまった。
それが申し訳なさ過ぎて。何かを言わなきゃなのに、泣きじゃくって何も言えない。
誰もが困っているとわかっているのに、止められない。どうすれば。
すると、何か温かい腕に抱きしめられたのだ。
「……落ち着け。そのように擦っては目が腫れ上がるぞ」
低い美声。フィーガスさんとはまた違う。心地の良い声。
私の……大好きな声。
「……か、い……る、さま?」
「そうだ。俺だ。……誰も迷惑だなんて思っていない。俺も。出掛けるのは明日でも、明後日でも良い。とにかく、泣きやめ」
「……は、い……」
ぽんぽんと頭を撫でられながら、抱きしめられているだけなのに。不思議。
あれだけ溢れていた涙がぴたりと止まり、嗚咽なども少しずつ落ち着いてきている。
カイルキア様が、気の済むまでと思うようになだめてくださり、顔を上げれば無表情ではあるが怖い感じのしない優しい雰囲気の顔が間近にあった。
「……落ち着いたか?」
「…………ありがとう、ございます」
「大したことはしていない。とりあえず、レクターにも診てもらう必要がある」
そう言いながら、もう一度頭を軽く撫でられ。彼は離れてしまったが、少し淋しいと感じた程度。大丈夫、と言う不思議な安心感があった。
「あー、うん。落ち着いたんなら良かった。とりあえず、簡単な診察をさせてね?」
「……はい」
聴診に触診も必要箇所だけしていただいたが、特に問題はなかったようだ。
「うーん? 体に影響はないようだね? チャロナちゃん、昨夜は普通に寝ただけ?」
「……多分」
「「「多分??」」」
「いつ寝てしまったのか、ぼんやりとしか覚えてなくて」
「……そう。それだけならいいけど」
前にもあったが、あの時も特に何もなかった。
だけど、今回は熟睡期間が長過ぎた。心配をかけた人達が多かったのに。少しずつ、申し訳なさが込み上がってきたが、近づいてきた悠花さんに頭を撫でられた。
「なーんもないなら、いいわよ? 最近休日以外は結構ハードスケジュールだったんでしょ? 明日も休みにさせてもらって。カイルと楽しんできたら?」
「そうだね? その可能性も高いよ」
「え、でも。好きでお仕事はやってますし!」
「とりあえず、あんたメインでパン作りは動いているんだから。重責が大きくて当然! とりあえず、レクターもこう言ってるんだから、お休みもらいなさい?」
「ね?」
「……はい」
それと、もう一つ。
ロティもずっと寝ていたが、私が頷いた頃に目が覚めて。自分も昨夜の記憶は曖昧で、ほとんど覚えていないそうだ。
とりあえず、丸一日何も食べていないから。悠花さんがエイマーさんに言って一緒に持って来てくれると告げてくれた。
「……俺は、戻る。…………無理せず過ごせ。約束は反故しないつもりだ」
「は……い?」
すごく、力強く言い切ったカイルキア様を見送り。
絶対真っ赤になってるはずの顔でレクター先生に振り返ったら、笑いを堪えていた。
「くく、いい感じじゃない??」
「……先生! 面白がってませんか!?」
「まさか! カイルもああ言うこと言うんだなーって」
「……どう思いますか?」
「さて。僕からは言えないね?」
「……ヒントもらっちゃダメです?」
「うーん……ダメです」
少し残念だったが、希望は捨てちゃいけないと言われたに等しい。
とりあえず、お弁当が腐らない
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