134-1.悩ましい(フィーガス視点)






 *・*・*(フィーガス視点)









 いや〜〜、美味かった。



「おいひい!!」



 姫様からニクマンとかを分けてもらい、あと少しで正式に伯爵夫人になる愛しのカーミィに、土産として持ち帰った。


 魔法鞄マジックバックに入れたから、出来立てホカホカのまま。


 タレも分けてもらったので、カーミィは余計にうまそうにバクバク食ってる。俺も、余分にもらったゴマアンマンをバクついていたが。



「うめーだろ?」


「うん! 皮はほかほかふわふわだし、お肉はジューシーだし。おまんじゅうがこんなに美味しいだなんて知らなかった!!」


「そこは嬢ちゃん……姫様のお陰だがな?」


「だね!」



 まだまだ伯爵家が落ち着いていないんで、魔法の特訓には付き合えないでいるが。


 だが、あと半月足らずで彼女の生活も変わるかもしれない。それだと、今のままでいいかもしれない……が。



(姫様の噂をどこからか漏れて、育ての親を誘拐しかけたしな……?)



 まあ、その事件がきっかけで強固派でもさらに過激派を回収は出来たものの。完全には断絶出来ていない。


 つーか、無理だ。


 人間どうしたって反対意見が生まれるもんだし、俺はそれを姫様を捜索していた旅で学んだ。


 特に、貴族として戻った今も。



「なんだかんだ、あと半月か。長いようではえーな?」


「ねー、フィーさん」


「んー?」


「姫様のことで悩むことはいっぱいあると思うのは仕方ないわ。けど、神様が『今じゃない』って言うのをもだもだ言うのはやめておいた方がいいと思うの。だって、ほんとにダメならカイルさんと姫様の気持ちを全部消すことも出来るし」


「……そうだな」



 流石は、稀代の錬金術師唯一の弟子。


 普段ほんわかでも、大事なことはきちんと考えてる女だ。


 俺が惚れた女は、やっぱいい女だ。



「あれ以来会えていないけど。ユーカ姐さんも、エイマー姉さんもいるし。フォローしてくれる人は多いと思うもの」


「カイルにも、レクターがいるしな?」


「レクター先生もリーンちゃんと婚約したもんね?」


「あとは……カイルだけだが」



 いい加減に落ち着いてほしいものだが。


 最高神のせいで、ちっともくっつかねーのは歯がゆく思うが。カーミィの言うように焦っては元も子もない。


 とくれば、俺に出来ることは、姫様の魔法訓練のフォロー程度だろうが。



「あ、そう言えば師匠がさ?」


「? あのじーさんが?」


「シュラ様の紹介で、姫様に会ったって。姫様にしか使えない、ロティちゃんの魔導具を……誰でも使えるように制作するためだって」


「あー。お前が身重じゃ、あのじーさんしか無理だろうな?」



 その話し方だと、あのじーさん錬金術師も姫様を気に入った感じだ。


 まあ、そうだ。


 亡くなられた王妃様とも仲良かったからなあ?


 実際会って泣くのは堪えただろうが、『あの嬢ちゃんマンシェリー姫様』を気にいるのは当然だろう。


 市井の苦労も、冒険者としての苦労も知ってるただの女の子でしかない今。それは腑抜けた貴族よりも強みになる。


 だからこそ、姫様にはカイルと幸せになってほしいんだ。


 カイル自ら動くことになった、捜索の勅命も……いつか話せたらいいんだが。

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