129-2.言いたかったお礼

 わーわー、わーわー、と。


 女の子は泣きじゃくって、私にしがみつくばかり。話そうにも、泣いているから聞き入れてくれない感じ。


 さあ、どうした!?



「ん? どうしたんだい、チャロナ?」


「お姉様?」



 女の子の泣き声と私に気づいてくださった、シュライゼン様とアイリーン様がやってきてくださった。



「あの……この子が」


「……リト?」


「リトちゃんって言うんですか?」



 なので、今度は名前を呼んでみると。リトちゃんは泣きじゃくりながらも私から少し離れてくれた。



「……ぐす」


「どうしたんだい、リト? チャロナお姉ちゃんにいきなり抱きついて」


「……たかった」


「「「ん???」」」


「おれい……言いたかった、んです」


「「「お礼??」」」



 なにの? と声をかけたら。リトちゃんの腕は完全に私から離れると、一緒に抱いてたウサギに似た人形を抱きしめて、顔を隠した。



「おい……しかったの、ちゃんと……言いたかったんです。けど……お姉さんの周りには、いっぱい人がいて。だから、勇気が出なくて」


「で、今はひとりだったから声を掛けたけど。気持ちがうまく言い出せなくて、泣いてしまったのかい?」


「はい。……困らせて、ごめんなさい」


「ううん! 大丈夫だよ? ちょっと驚いたけど……わざわざありがとう」


「……ほんと?」



 リトちゃんが顔を上げると、綺麗な黄色の瞳に光が灯ったような気がした。



「うん。けど、お礼ってなにの?」


「……パン。美味しいのを、いつもありがとうございます」


「! ふふ、どう致しまして」



 ふわふわの茶色の髪を撫でてあげれば、リトちゃんはぺこりとお辞儀をしたのだった。



「今日の……お菓子って何ですか?」


「米粉って言う粉があるの。それを使って、簡単に出来るクッキーを教えるわ」


「! クッキー……好きです」


「じゃあ、頑張りましょう?」



 せっかくなので、シュライゼン様達に断りを入れてから、リトちゃんの空いてる手を繋いで厨房に向かうことにした。


 だいたい五歳児くらいの、リトちゃんの手は子供特有の柔らかくて温かい手だった。



「いいん……ですか?」



 一緒に歩いていると、リトちゃんが声をかけてきた。



「何が?」


「クラットお兄ちゃん達と……。ここに来る時一緒だから」


「ふふ。たしかに、あの子達と一緒が多いけど。リトちゃんを仲間外れにしないわよ?」


「ほんと?」


「ほんとほんと」



 元気いっぱいなあの子達といるのも楽しいが、かと言って大人しい子を蔑ろにするつもりもない。


 勇気を出して私に話しかけてきたんだもの。不安から解放されて泣いちゃったかもしれない。


 にこーっと笑顔を見せたら、リトちゃんもニコッと笑顔になってくれた。



「!」


「さ。急ぎましょう? 美味しいクッキーを作るためにも」


「……うん」



 すると、リトちゃんは私の手を離して。何故か、バイバイと手を振ったのだった。




「リトちゃん?」


「ありがとう、チャロナお姉さん」



 そして、透けたかと思えば。光の粒になって消えてしまったのだった。



「チャロナ!?」


「お姉様、大変ですわ!!」



 追いかけてきてくれたシュライゼン様から聞いた内容は。


 リトちゃんは二日前に、風邪をこじらせて既に亡くなってたらしい真実だったのだ。

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