120-3.今はまだ(レクター視点)






 *・*・*(レクター視点)








 きっと、チャロナちゃん姫様は疑問に思っただろうなあ。


 自分の本当の身分がまだ王女様であることも告げられないが、最高神に気に入られて異能ギフトを所持していることも今はまだ伝えられない。


 だから、今は濁すことしか出来ない。


 それが、どんなにはがゆいことになったとしても。



「……あれで、よかったのだろうか」


「今はいいと思うよ、カイル」



 カイルも、自分の想いも伝えられないし。本来なら、仮の婚約者として色々伝えたいだろうが。


 最高神の計らいのせいで、何も伝えられないでいる。逢引きデートも一応出来たとは言え、想いを通わすのはやっぱりダメだった。


 せっかく、元パーティーだったメンバーで、カイル以外はパートナーが出来たのに。


 あと一人。カイルだけがまだだと言うのがはがゆい。それに、長年想っていた相手にそれを伝えられないのが一番辛いだろう。


 半月後の、姫様の生誕祭と成人の儀に進展があればいいのだけれど。



「……明日から。メイミー主催の行儀作法の特訓か」


「エイマー先輩メインだけど、姉さんは厳しいからね?」


「……そのメイミーも。ギフラから帰って来いとの通達があったが」


「うーん。けど、姉さんは帰るの悩んでるらしいよ? サリーのことはもちろんだけど、姫様がまだ元の身分を知らないのに単身で帰っちゃうのはって」


「侯爵家の改革も、フィーガスの家同様に進められたからな? メイミーには侯爵夫人に戻ってもいいとは思うが」


「カイル、それ本心?」


「……今はまだ戻られると困る。姫のためにも」


「でしょう?」



 世間はどうであれ、僕達は僕達だ。


 義兄さんもきっとわかってくれるだろうし、サリーには悪いけど。もう少し……もう少しだけ、姉さんはこの屋敷にいてもらいたい。


 姫様の秘密を知り、かつカイルへの恋心を熟知している人間にはまだ姫様の側にいて欲しいんだ。僕らだって知ってはいても、最初の頃からずっと親しんできた人間と別れるのはまだ難しいと思う。


 いくら、マックスと同じ転生者であり、実年齢以上にしっかりしてたって。実母を失った記憶が、もしなんらかの機会で甦ったとしたら。


 宥められるのは、カイルや僕じゃ無理だろう。姉さんじゃないときっと無理だから。


 だから、今は。


 もう少しだけ、姉さんの希望通りにこの屋敷に留まっていて欲しい。


 半月後のために、色々準備もしなくてはいけないから。


 姫様もあと少し、我慢しててください。




「……しかし。短期間で四人もか。仕様がなかったとは言え、姫の秘密を知られてしまったが」


「けど、カイル? ゼーレンさん同様に信頼してるんでしょ?」


「……まあ。選別したのは俺自身だからな?」



 たしかに、姫様の転生者の真実などをいっぺんに知られてしまったけど。彼らなら大丈夫だ。


 エスメラルダさんも、サイラも。ラスティさんやエピアも。


 皆が皆。僕らの古馴染みから、面接などで選んだ選りすぐりの人材ばかりだ。


 だから、姫様のことを蔑ろにはしない。


 信じよう、と僕らは頷き合ったのだ。

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