110-2.久しぶりに来る(フィーガス視点)
*・*・*(フィーガス視点)
魔法の講義にも、しばらく通うことが出来なかったのには訳があった。
(……うちのじい様とシュラ様の
アルフガーノでもくすぶっていた親戚連中や婆様まで俺に謝罪をしにくるなどで、目まぐるしい日々を過ごしていた。
それがようやっと落ち着いたのが昨日で、原因の一端であるシュラ様が大変なことを知らせてきたのだ。
『
と、魔鏡越しに見せてきたのは、小さな赤ん坊。
つまりは、姫様を外交機密に利用しようとした馬鹿強固派が、最高神の計らいでちんまい赤ん坊にされてしまったらしい。
今後も、姫様を利用しようとしたらこうなる、と見せしめにするんだと。
それを、うちのカイザークじい様が直々にアルフガーノ家にやってきて、まあ憤怒の如くうちの婆様に告げたわけなんだが。
母方の祖父とは言え、現宰相の言葉。
加えて、証拠である記憶水晶の写し鏡を見て、さすがの婆様も俺とカーミィの結婚を承諾したくらいだ。
これまでの嫌がらせをなかったことには出来ないが、赤ん坊までかえらせれば何も出来ないで第二の人生を迎えるだけ。
その方がよっぽど屈辱的。であれば、受け入れるしかない。
だもんで、婆様は別宅で過ごすことに決まり、引っ越し作業とかが色々とごたついたのだ。
そこに、マックスから姫様の作った新しい料理を食べに来ないかと知らせを受けたのだ。
「嬢ちゃん。魔法の訓練はどうだ?」
「あ、えっと……仕事とかが立て込んでて、ちょっとサボり気味になっちゃったんですが」
「ふふーん。なら、日を改めて。もう一度叩き込んでやろうか? 俺もちぃっと暇が出来そうだしよ?」
「ひぃ!?……あ、あれ? カレリアさんはご一緒じゃないんですか?」
「あー、実は」
今日うちのカーミィが来れなかった事情くらいは、この姫様に伝えても問題はねぇしな?
「?」
「出来ちまったんだよ、子供が」
「え、え!? おめでとうございます!」
「あ、フィー。僕らにもまだ教えてくれなかったのにー?」
「……式もまだなのに子供が先か」
「悪かったって!」
いやまさか、先に出来るとは俺も予想外だったが!
けど、出来たもんはしょうがない!
とりあえず、今回の姫様の料理が刺激物らしいので、妊娠中であると控えた方がいいらしいから、今回は留守番だ。
何せ、それがわかったのも昨日だしな?
「あ、あの。フィーガスさん!」
「ん?」
「安定期に入ったら、お祝いを贈らせてください!」
「マジか? あいつ喜ぶぜー?」
「頑張ります!」
ただ、その頃になると姫様の成人の儀や生誕祭もとうに終わっているから、この屋敷にいるのかも……いや、カイルと名実ともに婚約者になれば、留まるか?
とは言え、あの子煩悩な陛下が駄々を捏ねなければいいが。
「そうと決まれば、今日は飲むわよーん!」
「おう、飲もうぜ!」
とにかく、今は楽しむしかない。
米と言う食材を口にするのは初めてじゃねーが、どんな調理をしてくれるのか。
たしか、カレーパンの中身を米にかけて食べると聞いたが。
『ほほぅ。主にも子が出来たのかえ?』
「お、ウルクル神じゃねーか。久しぶりだな?」
『ほっほ。ちと最近はこちらに来ることが多いがの?』
そういや、マックスからちょいちょい魔法鳥で報告があったが。この神にも姫様は気に入られて加護を与えられたとか。
(……どんどん能力の高い姫様になっていくな)
魔法もぼちぼち、錬金術もまあまあ。
しかしながら、調理の腕前はピカイチ。
これで、手出ししようと思う輩は多いだろうが、最高神の加護もあるのなら……カイルといずれは結婚出来るだろうな?
「あんたも、ひ……嬢ちゃんの料理の虜になっちまったわけか?」
『うむ。
いつ来るかわかんねーから、姫様の敬称を嬢ちゃんに戻して、ウルクル神と話し合う。
その間に、将来の義妹になるエイマーがワインを持ってきてくれた。
「……ほどほどに」
「「お、おう……」」
真剣な笑顔で戻っていく時に残した言葉が怖くて、マックスと一緒にプルプル震えてしまったぜ……。
だが、入れ替わりに姫様が例の料理を持ってきてくれた。
「お待たせ致しました。ドライカレーです!」
「ほー、こいつが?」
カレーパンの中身を見ているんで知ってはいたが。
わずかに見える、白い米の上に載っかっているドロドロしたものがカレーらしい。
さらにその上に、焼いた卵があった。これをどうやらスプーンひとつで食べる料理みてぇだが。
「まずは、卵なしで食べてみてください」
姫様に言われたんで、米とカレーの部分だけをすくって口に運べば。
温もりと同時に、スパイシーなスープとも違うものが口いっぱいに広がった。
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