【記念SS】今日もわがまま王様
*・*・*(アインズバック視点)
たしか、今日だったか。
息子のシュライゼンが、元皇子兼暗部部隊幹部を連れて、ホムラ皇国に行ってしまってるのと日を同じくして。
マンシェリーの方は、カイルキアに誘われ? て、敷地内の遠乗りに出かけているらしいが。
どちらも気になるが、俺としては娘のマンシェリーの方が気になる!
たしかに、カイルキアの気持ちを認めはしたが!
まだ数回しか会えていない、我が娘が!
嫁に出したわけではないのに、あいつといちゃ……いやいや、まだ嫁には出していない。想い合っているのは知っているが、最高神の計らいのせいで結ばれてはいない。
いないのだが……俺としてはなんだ?
親の許しを得ずに、普段からキャッキャうふふの薔薇色世界を築いているやもしれぬと思うと。
「解せぬ!」
思わず、執務用に使っていた羽根ペンを握り潰してしまった。
当然、手はインクまみれに。
「うぉ!?」
危うく服にまで飛び散るとこだったが、書類がいくつかダメになった。
仕方ないので、呼び鈴を鳴らして女官達を呼んで片付けさせたが。
「少しは落ち着かれませ、陛下」
書類をダメにしたのと、俺が羽根ペンを握り潰した理由を唯一知っている宰相のカイザークには呆れられてしまった。
「良き日ではありませんか。殿下はホムラへ米の炊き方の伝授。姫様はカイルキア様との遠出。実に平和ではないでしょうか?」
「シュラについてはいい。マンシェリーが……マンシェリーがカイルキアと、と思うと!」
「甥御様とご息女が結ばれれば、良き御縁が結ばれると以前おっしゃられていたことと矛盾しますぞ?」
「まだ嫁には行かせたくない!!」
「……まだ、恋仲ですらありませぬぞ」
「だが、ほとんどくっついてるのと同じではないか!!」
「そうはおっしゃいましても、事実は事実ですぞ?」
「く!」
カイザークには娘が多い。
そのうちの何人かは、アクシアと親友だった。
その娘達もとっくに嫁いで子を成して、今では孫もたくさんいる。
だから、カイザーが見た目以上に爺であるので、孫にも慕われているが……じゃなくて、あの娘達にも内密にマンシェリーが戻ってきたことを伝えてあるから、きっと早く会いたがっているはず。
それを抑えているのは、父親であるカイザークだが、同じ父親として俺の方が子供っぽく見えることに少し反省はしている、が!!
「まだひと月近くもあの子に会えないと思うとはがゆい!!」
「ようやくひと月になったではないですか。十六年を思えば、大した日数にはなりませんぞ?」
「だが……だが、マンシェリーに会いたいと思わないのか!?」
「本音を申しますと、お会いしとうございますが。私めも宰相の身ですし、陛下は陛下ですから。城内はともかく、家臣の領土に理由もなく会いに行かれるのはやぶさかですぞ?」
「……くう」
俺の近侍も兼ねている、カイザークならそう言うと思っていた。
理由は、俺が父親であることを打ち明けていれば、なんら問題はないと思うのに。まだ打ち明けていないせいで、『シュライゼンの父親』と言う立場では会いに行くのもはばかられる!
ああ、マンシェリー。我が娘! と声を大にして言えない!
普段は、この室内には防音の結界を張っているので、ごく一部の臣下以外にマンシェリーの情報は伝わっていない。
下手にまだ公言出来ぬ理由もあるが、一番は強固派の連中にマンシェリーを利用させないためだ。
が、ここのところ、シュライゼンを筆頭に捕縛する回数が増え過ぎている。何か仕掛けでもあるんじゃないかと思ったが、シュラに聞いても『暴露してたから捕まえたまで』と言うだけ。
暗部部隊の方でも、ミュファンが同じ理由で捕縛するだけだったが。いったいこの城内でなにが起きているのか?
そこはまだまだ謎だが、主題が逸れた。
マンシェリーに会いに行けないことだ!!
「束の間の休息ですぞ? カイルキア様に姫様を託されたのであれば、今日のような日が続きますとも」
「……そうだが」
「まだ駄々をこねられるようでしたら、殿下とご一緒させていただく際に。こっそりお伝えしましょうか?」
「嫌がらせか、カイザー!?」
「わがままを申されるからです。書類の作り直しがあれど、目を通していただくものはまだまだありますぞ?」
「う」
「休憩はこれまで。やりましょう」
「……わかった」
それに、式典の準備も佳境になってきている。
マンシェリーに身につけてもらう予定のドレスも。メイミーに寸法を教えてもらったのを参考に、カイザークが仕立てを女官達に頼んでいる。
どんなドレスになるのか。
以前の授賞式の時のように、アクシアに似た少し幼い笑顔が似合う可憐な女性になるのだろうか。
少なくとも、成人の儀と生誕祭を成功させなくてはいけない。
最高神が何かお考えであろうとも、絶対に成功させる!
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