99-6.父母の夢
*・*・*
「優しい夢よ
優しい風よ
おやすみ、なさい
おやすみ、愛し子よ
大地に、広がる緑の四季
芳しい、花の香り
さらさ、さらさ、手を取りましょう
その目に浮かぶ、愛し子のために
手を繋げば、届くところに
すべての愛しさ、見えてくる」
久しぶりに見る夢だ。
孤児院にいた時にも見た、多分この世界のお母さんだった人の夢。
そして、カイルキア様のお屋敷に来てからも見た夢。
だけど、今日はやけにリアルな気がする。
赤ちゃんである私の、お母さんに向けている手が見えているような?
『ふふ、お母さんの歌は好き?』
『あーう』
優しい優しい女の人の声。
どことなく、今の私に似ている気もするが、多分逆だ。
『まだ眠くないの? もう少し歌おうかしら?』
『あーうあーう』
夢だから、自分の声で返事は出来ないけど。赤ちゃんの私は嬉しいのか、ねだるように精一杯お母さんである女の人に手を伸ばしている。
すると、お母さんはまた歌を紡いでくれた。
『ふふ。もっと?』
『あーう』
『調子はどうだ、ーーーー?』
誰だろう。
お母さんの名前を呼ぶ声は掠れて聞こえ難かったが、初めて夢で聞く男の人の声。
だけど、どこかで聞いたような気がする。
『ええ。子守歌を何度もねだるくらいに元気ですわ』
『そうか。産後から回復したとは言え、君も無茶をするなよ?』
『……はい』
多分だけど、お父さん?
でもなんで?
小さい頃もだけど、最近の夢でもお父さんだなんて出てこなかったのに。
なんでまた?
『ほーら、ーーーー。お父さんだぞー?』
『あうあー!』
やっぱり、お父さんらしい。
けど、顔を見たいのに、赤ちゃんの視界がおぼろげなせいか影くらいしか見えない。
でも、お母さんと同じとても優しい人なのがわかった。
けど、そう言えばこの家らしき場所は……ホムラなのだろうか?
どこなのだろうか?
そして、家族がいるのに、なんで私は孤児になってしまったのだろうか。
わからない……わからなさ過ぎる。
けど、知るためにこの夢の続きを見ようとしたら、視界が薄れて目が覚めてしまった。
「チャロナ、大丈夫か?」
「……カ、イル……様?」
目が覚めたら、自分の部屋のベッドで寝てたらしく。
そして何故か、カイルキア様に手を握られたまま。
「うなされていたが、悪夢でも見たか?」
「いえ…………え、え。か、カカカ、カイル様、手!」
「ああ。マックスから俺が受け取った後に握られてな」
「す、すみません!」
「別に構わない」
寝ぼけててまたやってしまったんかい、私!
けど、ロティはいないので気になったら、カイルキア様が言うには多分レイ君が預かってるかららしい、と。
「で、何か見たのか?」
「え?」
「先ほども聞いたが、随分とうなされていたが」
「……いえ。夢で、お母さん以外に。初めてお父さんみたいな人が出てきたんです」
「前世のか?」
「いいえ。多分この世界での」
「……そうか」
初めて見た夢。
けど、全然悪い夢じゃない。
むしろ……。
「どうして、私をマザー達のところへ置いたのかはわかりませんが。ちゃんと両親がいたんだってわかったら嬉しかったです」
「……探す気はないのか?」
「……考えもしませんでした」
前世の記憶が戻った今もだけど、冒険者になった当時はリンお兄ちゃんに会えたらいいなとは思ってたくらいだから。
両親については、これっぽっちも探そうと言う気力はなかった。
「そうか。いや、強要はしないが。色々伝えたいことも多いだろうと思ってな?」
「たしかに多いですけど。私、このお屋敷からはあまり離れてはいけないのでは?」
「……まあ。そうだな」
ちょっと矛盾してるけど、私を気遣っての発言だろう。
表情はそんなにも変わらないけど、やっぱりこの方はお優しい。
使用人が寝ついている横で待機もしてくれるなんて、雇い主じゃ普通あり得ないのに。
(こう言うとこも好きになったけど……まだ、言えないなあ)
カレリアさんに後押しされても、いざ目の前にするとどうしても萎縮してしまいガチだ。
それに、昨日の衝突キスのことをもう忘れているのか気にされていないのか。今は無表情だから心情が読み取れない。
もしかしたら、お貴族様だから初めてじゃないかもしれない。
(……あ、なんだか。自分で考えてて悲しくなってきたかも)
自業自得とは言え、その考えはあり得なくもないのに。
馬鹿だなあ、と思ってたらカイルキア様は急に咳払いされた。
「……急な提案なんだが」
「? はい?」
顔を上げると、カイルキア様のほっぺがどことなく赤いように見えた?
「……今度の定例会が終わった翌日に。遠乗りに行かないか?」
「…………………………………………え?」
聞き間違いじゃないかと、思わず掴んでたままの手を離してしまったが。カイルキア様はふっと息を吐いた。
「もう一度言うが。迷惑でなければ、遠乗りに行かないか?」
「わ、わわわ、私とですか!」
「ほかにいないだろう?」
「ふぇ、なんで!」
「何、少し聞かれたくない話があるのでな。ここでもいいだろうが……」
すると、椅子から立ち上がって、ツカツカと扉の方に行くと勢いよく開けた。
「ぐえ!」
「う」
『にゅー』
『あいてて!』
「こんな感じに覗く連中がいるしな?」
本当にいつから覗いていたのか、トーテムポールが崩れた状態で中に入ってきたのだ。
「んだよ、カイル! 俺達が尾行するってか?」
「つい昨日もした愚か者が言う立場か?」
「へーい」
「マックス……どいて」
『マスターぁ……重いでやんす!』
『にゅー』
「乙女の体重を言うか?」
「『「乙女じゃない!」』」
「ちぇー」
とりあえず、ロティはまだレイ君に預かってもらう形で皆さんには退席してもらい。
カイルキア様は改めて私に
「どうだろうか?」
「ご、ご迷惑でなければ……」
「俺が言ってるんだ。迷惑ではない」
「じゃ、じゃあ……お、弁当とか作ります」
「それは楽しみだ」
そして、その時の笑顔を私はしばらく忘れることが出来ず。
あまりにも麗しい笑顔に、私は卒倒してしまい。
次に起きたのは、ロティも戻ってた夜ご飯前だった。
当然、カイルキア様はお仕事とかでいなかったけど。
『ご主人様ぁ、あのおにーしゃんとデートでふ?』
「う、うん。ロティはどーする?」
『にゅ。お邪魔でふけど、影に入って
「ありがとう」
もしかしたら、提案自体も誰かからのアドバイスかもしれないけども。
好きな人と、デート出来るだなんて。
夢みたいだ、嬉しい!
「あ、そうだ」
私のお出かけ着って、シュライゼン様からいただいたお見舞いのワンピースしかない。
流石に、毎回毎回は洗濯しててもいけないだろうと思い。
以前、悠花さんとエピアちゃんと買いに行った服を見直すべく、クローゼットの中を漁ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます