96-1.恋問答(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 二日連続ではあったけど、今日のパンケーキも美味し過ぎたわ!



「あ〜〜やっべ、ハワイアンパンケーキ最っ高!」



 チーちゃんお手製だからって言うのもあるけど、あのパンケーキはいくら食べても飽きないわん。


 ふわしゅわの食感のパンケーキに、甘味を強くさせたクリームを自分で山になるように盛ったけれど。


 そこにさらに、チーちゃんお手製のキャラメルソースをかけたら言うことなかったわ!



「……それを自慢するだけに、わざわざシュラと来たのか?」



 ちょっとドスのきいたテノールボイスで、羨ましそうに書類の間から睨んでくる幼馴染み兼元パーティーのリーダーの姿は、奴のチーちゃん想い人には見せられないわねえ?



「うむ! あのパンケーキは美味しかったんだぞ! 君はまだ食べていないのかい?」


「マックスの言うハワイアン……と言うのはまだですね。何が違うんですか?」


「うむ! あのパンケーキに山のようにそびえ立つくらいクリームを載せたものだったんだぞ。あと、キャラメル……と言う茶色くてあっまいソースも」


「…………お前達二人とも口にしたのか!」


「「こっわ!」」


「あとでいくらでも食えるって。お前はチーちゃんの雇い主なんだしよ?」


「……そう、だが」



 シュラとレクターが驚くくらいの形相に、あたしも少しびびりながらスルーはしたけど。


 それだけ、チーちゃんのパンもだけど、どの料理も絶品揃いだものね。たしか、昨日はカイルの親父さんに言われて、カイル達も手作りはしてたけど。



「昨日もだけど、今日のもうんまいぜ。元々、パンケーキは俺とチーちゃんのいた日本国外の発祥らしいが」


「そうなのかい?」


「と言うか、和食以外の食べ物の大体は国外からの輸入がほとんどだ。それをアレンジして国内に広めたのも商人や料理人達だったしな?」


「ふむふむ。それを知る機会が、君やマンシェリーは多かったと?」


「俺は趣味程度だ。チーちゃんはパンの調理人だったし、あの子の方が上だぜ?」


「「「それはそうだ」」」


「全員でハモんな!」



 まあ、実際。


 あたしは社会人でも、ただの会社員。


 チーちゃんのように、特に優秀とも言い難い一般人だ。職人と会社員じゃ技術力の違いが大き過ぎるのも当然。


 あたしは、趣味でお菓子教室に行くことがあったから、たまたま昨日のパンケーキのトッピングは出来たわけだけど。



(懐かしいわ、ああ言うの)



 今の親父や爺様に強制されてムキムキマッチョに育てられてしまったが。


 チーちゃん捜索を秘密裏に国王から頼まれ、冒険者となりカイル達とパーティーを組んだわけだが。


 まさか、その道中での野営で今は男のあたしが一番料理上手だとは思いもよらなかったわ。紅一点のカレリアは壊滅的に料理が出来ないでいたし。


 その分、戦闘以外でも役に立てて、任務を遂行出来ずに帰ってはきたが。


 その目的であったチーちゃんが見つかり、まさか同じ世界の転生者で同じ日本人で。さらにマブダチにもなれて。


 今の生活が楽しいのよね。


 こいつらとも、まだ秘密にしなきゃいけなくとも笑顔で会話出来るだなんて。


 今、まさに幸せと言うべきね。


 なんたって、あたしもレクターもチーちゃんのお陰で想う相手と結ばれたんだから!



「そう言えば〜、あとはカイルだけなんだろ〜? 想う相手と結ばれていないの?」


「!」


「そうなんですよ。時期時期と言い張って、自分からはほとんど動かないんです」


「むー。仮の婚約者だからって、本気で想っているんならちゃんと伝えた方がいいんだぞ?」


「だよな!」



 前々から、決断力の強いとこが多いのに、こう言う自分のことについては二の足を踏む奴だから。


 今までは、言い寄ってきた女どもには冷たくあしらってきたけれど。チーちゃんは特別よ特別。


 行方知れずだった、王妃様の大切な形見だし、生写しと言っていいくらいのそっくりさん。


 おまけに、性格は控えめだけど、しっかりしてるところはしっかりしてるし。


 惹かれないわけがないわ、特にカイルの場合。


 憧れてた女性の形見だから。


 けど、前にチーちゃんのいない皆の前で、王妃様抜きに惹かれてると公言したもの。


 だからこそ、チーちゃん自身もこいつ本人を好きでいるから、幸せになってほしいのよ。



「……たしかに。姫自身の想う相手が俺だと知ってしまっているが」


「なら。叔父上に似たその顔で口説き落としてもいいんだぞ?」


「実の兄がそう言っていいのか……」


「俺は君とは元々従兄弟だし、家族なんだからなーんにも心配してないんだぞ?」


「その家族がいいのか。そんな調子で」


「想う相手が、運命的に結ばれるのはいい事なんだぞ。何をそんな尻込みしてるんだい?」


「……姫が自分の本来の立場を知ってからが、いいとは思ってる」


「そーんな事言ってていいのか? この屋敷の連中はともかく、屋敷に関わってくる奴らにチーちゃんが取られでもしたら」


「! 誰だ……」


「「「怖!」」」



 やーねぇ、本当に。


 人のこと言えたクチじゃないけど、嫉妬丸出しの男の欲の怖い事と言ったら!


 けどまあ、あたしも言い出しっぺだから素直に言うしかないわね?



「エスティの従兄弟だ。ま、チーちゃんの顔で姫様だってわかってから、速攻で諦めたそうだけど。これからも全部が全部そうじゃねーと思うぜ?」


「……っ」


「なら、カイル。身分については君自身気にしているのかい? 見た感じ、君はほとんど気にしていないようだが」


「……それは」



 あら、そうね。


 シュラの言う通り、カイルからはそのことについてはほとんど聞いていなかったけど。


 見たところ、チーちゃんが気にし過ぎて今は身を引いているって感じよね?


 それなら、焦ったいってもんじゃないわ!



「カイル。僕とリーンのこともだけど。マックスとエイマー先輩のもそうだったじゃないか。身分差を気にし過ぎて自分の本心を隠そうとしていた。君までそうなって欲しくないよ」



 言うじゃない、レクターったら。


 リーンは今日来ていたし、あとでラブラブでもするのかしら?


 と言う冗談はさておき、ほんとそうよね。


 あたしは気にしてなくても、エイマーはそうだったし、レクターは特にそうだった。


 その気持ちを、今はチーちゃんが味わっているけれど、そんな些細な理由で諦めて欲しくないわ。



「……言えと、言うのか?」


「言う言わないは君の自由だろうが。今頃あの子にシャル達が質問しまくってたら、あの子の気持ちを思ってこちらに寄越すかも知れないんだぞ。そうなると、君はどうするんだい?」


「…………」



 そうよね、たしかにそうよね。


 リーンもだけど、シャルが加わったら。ガールズトークが発展してチーちゃんの気持ちを和らげているかもしれないし……。


 特に、シャルはシュラと結ばれるまで時間がかかったから、それを話されたらさすがのチーちゃんも不安から脱出するかもしれないわ。





 コンコン。






「お兄様、アイリーンですわ!」



 とかなんとか言い合ってたら、噂のリーンが来ちゃったわ!



「ほーい、リーンどうしたんだい?」



 一番席が近かったシュラが対応して、中にリーンとほかにシャルもいたんだけど。


 少し着飾ったチーちゃんまでも連れてきたのよね!



「お、チャロナ〜。可愛くなってるじゃないかい。どうしたんだい?」


「え、えっと……」


「お兄様をお散歩にお誘いに来ましてよ!」


「ええ」


「!」


「「ほんと??」」


『でっふ』


「なーるほ」



 チーちゃんの照れ具合から、提案者はリーン達だろうけど。何かを吹っ切れたのか、チーちゃんに不安な表情は見られない。


 むしろ、恥ずかし過ぎて誘うのを少しためらっているだけね?



「お、俺とか?」


「仕事もひと段落ついたし、いーんじゃない?」


「ふむふむ。お兄ちゃんは大賛成なんだぞ!」


「お、おい」


「息抜き程度に散歩くらい行けや」


「マックス!」



 だもんで、首ねっこ掴んで例のぽーいでチーちゃんの目の前に落としてやったわ。



「「「いってらっしゃーい」」」


「頑張ってくださいましな!」


「はい」



 と言うわけで。


 しばらくしたら、尾行して様子を見に行くわよん!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る