95-3.ハワイアンパンケーキ(シャルロッテ視点)







 *・*・*(シャルロッテ視点)








 あらあら、まあまあ。


 今日ようやくお会い出来ました、王女殿下は誠に、亡くなられた王妃様と瓜二つなほどそっくりでいらして。


 殿下と同じ、透き通るように美しい『彩緑クリスタルグリーン』の見事なまでの御髪。


 愛らしい笑顔、ハキハキとした物言い。


 わたくし、王妃様が生前の頃は、数える程しかお会い出来ていませんでしたが。


 本当に、あの頃の、あの方より断然幼い御容姿ではあらせられますが。わたくし、ご挨拶の時に涙がこぼれそうでしたわ。


 けれど、殿下の婚約者としてそんな情けない表情は見せれません。なので、少しばかり気を引き締めて頑張りましたわ。



「いっくわよー!」



 さて、調理台の上に置かれたパンケーキに、王女殿下こと姫様が技能スキルでお出しになられた、不思議な手触りの布袋。


 クリームを絞り出す、口金を装着されて、姫様がお作りになられたクリームをたっぷりと詰め込んで。


 今から、つい先ほど来られたマックス様が仕上げをなさるらしい。



「具体的にどうなるんですの?」


「そうね、リーン。クリームをこれでもかと山盛りに盛るのよ。けど、綺麗な山にしなきゃいけないのよね?」


「「「クリームを山のように?」」」


悠花ゆうかさん、経験あるの?」


「OL時代にちょっとね?」



 わたくしも幼き頃から、マックス様とのお付き合いもあり、この方が転生者であることは存じております。


 なので、姫様が転生者であることも、殿下からお聞きしておりますの。アイリーン様以外にも、貴族の中で同じ女性としての理解者を増やすために。


 そのお話を殿下から為された時に、姫様はほっとされていましたわ。


 マックス様は前世は女性でも、今は男性ですもの。加えて、長年の夢が叶いまして、エイマーとめでたくご婚約されましたし。


 それはさておき、マックス様は姫様から絞り袋を受け取ると、表情が凛としたものになりましたわ。



「チーちゃん一気にいくわよ?」


「やっちゃえ、悠花さん!」



 そんなやりとりも微笑ましく、わたくし達の目に映りましたが。


 次の瞬間、マックス様の動作に目が離せなくなりました!



「ちょ、ちょ、マックス!?」


「ユーカお姉様、そんなにも!」


「まあまあ!」


「これがハワイアンパンケーキなのよ!」



 言葉通り、山がそびえ立ったのではと言うくらい、クリームが高く盛られてしまい。


 崩れはしなかったものの、マックス様はやり切った笑顔でいらした。



「これにさらに、即席で今作りましたキャラメルソースを上からたっぷりどうぞー」


「きゃー、チーちゃんナイスぅ!」



 そして、その茶色いソースをかけただけなのに。


 白に美しく川のように流れていくソースがなんとも愛らしさを引き立てて。


 食べたい欲求をかき立てるものでした。


 あとは、ピンクと白のアイスクリームを少し添えたら完成でした。



「どうします? 悠花さんほどじゃなくてもクリームを盛ってみますか?」


「うむ、俺はやるぞ!」


「「わたくしも!」」


「あら」


「まあ」



 アイリーン様と同時に言ってしまうほど。


 わたくしも、このハワイアンパンケーキとやらに魅了されましたのね。


 なので、姫様がご用意してくださった絞り袋を手に、慎重にクリームを絞ってはみたのですが。



「難しいですわ!」


「むむ、むむ……うまく上に行かない!」



 アイリーン様と殿下がおっしゃるように、わたくしもうまくいきません。


 マックス様は前世でのご経験がお有りだからと出来たとは言え、素晴らしい技量ですわ。


 結局、わたくし達はせっかくのパンケーキを埋もれさせただけで終わり、あとはスプーンで可愛らしくアイスクリームを添えるだけに終わりました。



「いよいよ食べれるんだぞ!」



 片付けをシェトラス達にお願いしてから、わたくし達は食堂で自分達が作ったパンケーキを食べることになりました。


 早く食べないと、アイスクリームが溶けてしまうからだそうで。



「では、どうぞお召し上がりください」



 席についてから、姫様がそうおっしゃってくださったので。


 わたくしやアイリーン様よりも先に、殿下がフォークとナイフでパンケーキに切り込みを入れられました。



「うっわ! 予想以上に柔らかいんだぞ!」



 そして、クリームがたっぷりついたケーキを迷わず口に運ばれて。


 噛む瞬間に、花のような笑顔を見せていただきましたわ。



「うっまい! 本当に泡のようで、口に入れた時にシュワシュワするんだぞ。これがケーキかい?」


「はい。作っていただいたメレンゲと重曹のおかげです。アイスと一緒に召し上がっていただくと、また違った食感になりますよ?」


「うむ!」



 では、とわたくしやアイリーン様も食べることになり。


 口に運びやすい大きさに切ったケーキに、まずはクリームをたっぷりと。



「まあ!」



 殿下もおっしゃいましたが、これがケーキ、ですの?


 口に入れた途端、シュワシュワとした食感が口いっぱいに広がって香ばしさと甘さを同時に伝えてくれた。


 ケーキは一瞬でなくなり、あとは甘味の強いクリームの味だけに。けれど、ちっともしつこくありません!


 むしろ、このケーキには必要なものですわ!



(これをアイスクリームと一緒に食べたら……)



 殿下は隣で美味しそうに召し上がられていらっしゃいますから、きっと美味しいはず。


 わたくしは、バニラのアイスクリームを少し載せてパンケーキを口に運ぶと。


 これは、間違いのない組み合わせだと確信しましたわ!



(素晴らしい食感ですわ!)



 泡に加えて、冷たくも滑らかなアイスクリームの舌触り。


 少し溶けた部分をソースのようにしてケーキにつけるのもまた美味しくて。


 美味しくて美味し過ぎて、まだ姫様のパンも口にしていないのに、この方の持つ技量に圧倒されましたわ!



「大変美味しゅうございますわ、チャロナさん!」


「ええ、お姉様!」


「あ、ありがとうございます!」


「シャルがはしゃぐなんて久しぶりに見るんだぞ?」


「も、もう、シュライゼン様!」



 危うく、殿下、と呼びそうになってしまったのを堪えて。


 勢いで、姫様のところに行ってお手をぎゅっと握ってしまったが。


 姫様は愛らしい笑顔を向けてくださった。


 ああ、本当に可愛いらしい方ですわ!


 アイリーン様がうっかりわたくしにお話したくなるのも頷けます。



「夜もまた楽しみにしてください。米と言う穀物を使った美味しいオムレツを作りますので」


「楽しみですわ」



 わたくしのような、侯爵家の人間でも『いにしえの口伝』を再現なさったような美味を口に出来るだなんて。


 お父様達に自慢したいところですけれど、それは出来ませんわ。


 まだ、姫様がご帰還なさったことは公表されていませんもの。秘密ですわ。



「チャロナ〜、俺おかわり食べたい!」


「あたしも〜」


「じゃ、悠花さんも焼いてみる?」


「やるやる」



 ひとまずは、この幸せを壊さないように、わたくしも微力ながらお手伝いいたしましょう。

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