94-3.婚約者との触れ合い(シュライゼン視点)







 *・*・*(シュライゼン視点)








「……浮遊に加えまして、飛行も会得なされたのですか」


「うむ! あの子は本当に飲み込みが早いんだぞ!」



 我が妹は、王族として育ってもいないに等しいのに、本当に魔法の素質が高い。


 以前所属していたと言う、例のパーティーにいた頃は、魔法の素質どころか錬金術師としての才も全然だったと聞くのに。


 ロティを得て、王家の証である才能も開花したお陰か、そんな底辺の人間じゃなくなっている。


 特に、前世の記憶を蘇らせてからは、いにしえの口伝かそれ以上のレシピを次々と披露してくれるのだ。


 俺は、午後の執務のためにカイルの屋敷から戻ってから、ひとまず近習のギフラに今日あった出来事を話していた。



「まだお会い出来ていませんが……姫様は王妃様と同じかそれ以上の御技量のお持ち主でいらっしゃるのですね?」


「うむ。この勢いで行けば、あの子の成人の儀にバカ家臣達の目をひんむく結果になるんだぞ!」


「魔法の素質は……王家の証でありますしね」



 爺やや母上の策とは言え、マンシェリーチャロナは孤児として人生の大半を歩んできた。


 そのことについて、強固派を含むバカな家臣どもはいくら行方知れずだった王女でもよくは思わないだろう。


 だが、見つかった今なら俺やカイルを含む『家族』が助けてやればいい。


 今まで、家族として生活させられなかった分、これから。



「これからは、俺達があの子を助けてやるんだぞ!」


「ですね。……殿下、明日も姫様に呼ばれて?」


「うむ。孤児院の料理教室に、ちょっと難しいお菓子を取り入れてやりたいらしくてね?」



 カイル達には、なんと叔父上のお願いで一から指導したらしいが。


 とってもふわふわで美味しいケーキらしい。


 実に楽しみなんだぞ!



「で、夕飯もお呼ばれになってるんだが」




 コンコン。




 とここで、ノックが聞こえてきて、ギフラが対応してくれたが。俺は誰が来るかはわかってたのですぐに中に招き入れた。



「ご機嫌うるわしゅう、殿下」


「わざわざすまないんだぞ、シャル!」


「いいえ、殿下からのお声がけであれば」



 今日も素敵に可愛い俺の婚約者。


 マンシェリーに言ったように、出来れば明日の夕飯に連れて行きたいとお願いするのにきてもらったんだぞ!



「シャル、魔法鳥で知らせた通りだが。我が妹の馳走を一緒に食べに行かないかい?」


「本当によろしいのでしょうか?」


「構わない。と言うか、これは俺のわがままなんだぞ。いずれ『家族』になる君と妹を会わせたいってね?」


「まあ」



 そんな照れた顔も、欲目を差し引いても可愛い過ぎるんだぞ!


 ギフラがいなきゃ欲望のままにハグしてたんだが、既婚者のギフラの前だと、自分の妻にそうしてやれる機会が少ないから仕方なく我慢するんだぞ。



「家族……ですか」



 おっと、自分の複雑な家庭事情を少し思い出してしまったらしい。


 それについて謝ると、そんなことはないと胸の前で両手を振った。



「なら、ギフラも自分の娘を連れて行けばいいじゃないか。幸いにも、マンシェリーとは顔合わせが済んでいるらしいし?」


「名案ですわ、殿下」


「よ、よろしいのでしょうか?」


「君も立派な俺の身内さ。当たり前じゃないか」


「殿下……」



 ギフラの祖母君には悪いが、俺は一刻も早くメイミーをあの屋敷で生活してあげれるようにしたい。


 いくら、聞き分けがいいからって幼い子供には普通母親が必要だ。


 俺のように、戦争で亡くしていない家庭に、そんな生活を強いることなんてして欲しくない。



「ところで、殿下。姫様がお作りになられるお料理は、なんと?」


「うむ。ホムラや黒蓮では珍しくもない『米』を使った料理なんだぞ、オムライスと言うらしい」


「「オムライス??」」


「オムレツの具材のメインが米らしいんだぞ」



 絶対……絶対美味しいと思うんだぞ!


 レシピの簡単な説明は受けてても、どんな味なのか楽しみで仕方がない!



「米……ですか。たしかに、小麦が主流の我が国では、殿下方王族でも然程口にする機会がありません。が、姫様はホムラの育ちに加えて、前世の記憶をお持ちの方。きっと、素晴らしい料理なのでしょう」


「うむ。父上は先日叔父上達と勝手に行ったんだけど、俺は誘われたから遠慮無く行けるし!」


「はあ……姫様のお願いでしたら仕方ありません。ですが、殿下からのお声がけは有り難く頂戴します。今から家に魔法鳥を飛ばしてきますので」



 少しの間ですが、ごゆっくり……と言い残して、ギフラは部屋から出て行ってくれた。



「ふふーん。……会いたかったんだぞ、シャルロッテ!」


「きゃ!」



 邪魔者がいないとなれば、多少の触れ合いを求めてしまうのは仕方ない。


 俺は、婚約者が驚くのにも小さく笑いながら、最上級のハグをおみまいしてやった。



「この間は出来なかったんだから、これくらいいいだろう?」


「……もう、殿下」



 この女性と式を挙げれるのもまだまだ遠い未来。


 理由は、皇太子である俺と婚約して二年の期間を必要とするからだ。


 恋人としても、三年を共に過ごしてきたんだが、長い。長過ぎるんだぞ!


 俺もギフラのように早く結婚して、子供の一人二人くらい作りたいのに!



「あと二年……待ち遠しいんだぞ」


「ふふ。わたくしもですわ、殿下」



 だから、これくらいの触れ合いは適度にしたい。


 マンシェリーやカイルは他人を思いやり過ぎて、想いも告げれずに触れ合うことも出来ないでいるが。


 成人の儀を過ぎてからは、どうなるかはわからない。


 出来るだけ、バカ家臣達の手の届かないとこで幸せに過ごせるように俺達が頑張るんだぞ!



「明日も楽しみなんだぞ。俺は先に行ってお菓子教室の予行演習のするんだが、君はどうするんだい?」


「せっかくですから、ご一緒したいですわ」


「じゃあ、動きやすい服装……乗馬服の簡易的なのを着ていった方がいい」


「はい」



 一緒に作れるのなら、きっともっと楽しくなると思うんだぞ!

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