93-3.繰り返し消去(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 全く、なんなのよ。


 チーちゃんのパンケーキ祭りをもっと堪能したかったってんのに。


 カイルの奴が、いきなりレクターと一緒に急いで部屋に来いと言うから来たまでだーけーど?



「なんなんだよ、いきなり」


「急にどうしたのさ?」


「……また、記憶が書き換えられるかもしれないが。それを承知で言う」


「「は?」」



 え、なに?


 カイルが今日の出来事でまたチーちゃん達の『何か?』に気付いたわけ?


 あたしとかレクターは、こいつが言い出すまでぜんっぜん気づかなかったけど。


 一体全体何事!?



「……ロティの事だが」


「「ロティちゃんが??」」


「お前達は気付いていないか。亡くなった伯母上と似ていないか?」


「「!!」」





 キィイイイイイイイン






 そうして、カイルが口にした言葉とほぼ同時に。


 あたしの頭の中でその言葉と理解した事実を、かき消されてしまった。


 少し頭を押さえていたようだが、それはカイル達もだった。



「……やはり、俺が口にした『何か』も姫の真実に近いと言うことか」



 もう三、四回目だから消された内容は覚えていなくとも、『神によって書き換えられた事実』は残滓のように残っている。


 もしくは、あの神達がわざと残しているかもしれないが。



「お前が気付いた真実が、今後また出るたびに消されっけど。それでも姫様を守る気持ちは変わんねーだろ?」


「当然だ」



 あらやだ。


 顔が良過ぎるイケメンの真剣な表情はレア物ね。


 チーちゃんだったら、超ときめくわよ!


 そこはいいとして、記憶を消しまくる神は一体なにがしたいのかしらん?



「下手に詮索するなと言う警告にしたって。僕らがこれから気づくことも多い。けど、神側にしてはこんな甘い封印術ってのもおかしいよね?」


「たしかに。名前を封じた以降からちょくちょくあるのよなあ……?」



 どっかから見てるにしたって、ストーキングの一歩手前よね?


 いや、あんな能天気な見た目してる方は、あれでいて最高クラスの神なんだから、なにしてでもいいだろうけど。



「……ひとまず。お菓子教室については、今日作らせてもらったレシピ通りにいくのはよしとしよう。包丁も使わないし、メレンゲあたりが大変だが」


「アイスはシェトラスに却下されたしな? 頭痛以外に腹壊し兼ねないからって」


「…………あれは、驚いたが」


「急いで食うからだろ」



 こいつ、ほんと〜にチーちゃんが作った料理は貪欲なくらいに食らいつくのよね……。


 悪くないけど、今の関係のままじゃ進展する余地もないわ。


 いくら、告げるのをあと一ヶ月半くらい先にしてるからって。もう少しくらいあってもいいわよね?


 今の関係だと、本当にただの雇い主とその使用人のまんまだわ!



「けど、今日はいい経験になったよね〜? 姫様の苦労がよくわかったよ」


「そうだ。お前らチーちゃんをもっと褒め称えろ!」


「……感謝はしているが」


「お前の場合は自分の気持ちをもっと前向きに出せ!」


「……だが」


「あの子は恋愛事には超が十個付くくらい奥手なんだから、お前が少しは安心させろ!」


「そ、そうか」



 あたし的には、フォーリンラブなんだからちゃっちゃとハッピーエンドになって欲しい気持ちもあーるーけーど!


 こいつの理由も一応わかってるから、強くは言い切れない。


 あー、歯痒いったらない!



「まあまあ。カイルの場合は事情があるんだし、少しずつ動いていこうよ。今日の姫様も、カイルにまた惚れ直していたんだしさ?」


「ほ、惚れ!」


「あー、まあ?」



 カイルのラフな格好に釘付けではあったわねぇ?


 あとでチーちゃんをからかうネタにでもしてあげようかしら?


 こっちもこっちで、珍しく顔真っ赤だし?



「んじゃ。俺はお菓子教室の許可については伝えておくぜ?」


「お願いねー?」


「…………」



 もっといじりたいとこだけど、そこはレクターにお願いしようかしらん?


 とりあえず、良い気分にはなれたので素早く厨房に戻れば。


 さすがに疲れたらしく、チーちゃんは裏の小部屋で寝てるらしい。



「しばらく寝かしてあげてくれ。最近また休みを作ってやれていないから」


「……そういえば」



 やばい、まずい。


 レイリアんとこに指導しに行った日以来、あの子にちゃんと休みあげれていないかも。


 なので、すぐにUターンしてカイルの部屋に戻って、その事を伝えれば。



「……五日に一度か?」


「チーちゃんの場合それくらいでいいかもな?」



 だもんで、もう一度Uターンして小部屋を覗くと。


 テーブルに突っ伏したまま、頭辺りにロティちゃんが寄り添うように寝てる二人の姿があった。



「……ブラックじゃないからとはいえ、あんた達に頼り過ぎてるわね。あたし達」



 軽くぽんぽんと髪を撫でてやってから、あたしは部屋を出た。

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