93-2.パンケーキ作り、仕上げへ(カイルキア視点)
*・*・*(カイルキア視点)
料理の真似事程度なら、冒険者時代に
なんだろう、姫の場合は少し楽しいと思ってしまう。
メレンゲ作りは少々大変ではあったが、鍛錬の素振りを思うと大したことではない。
一定の間隔で、途中砂糖を加える以外はずっとかき混ぜるだけだが。
あのように白い泡になるとは思わないでいた。
(それを、先に取り分けた卵の黄身の方と混ぜ合わせるだけで)
本当に、あのような泡みたいな食感になるかまだ半信半疑だ。
しかし、作ったのはその姫自身だから信じるしかない。
「一度、強火で熱したフライパンを……濡布巾の上に載せて冷まします!」
「「え」」
料理の基礎を、マックスに教わってたから知ってたが。熱したフライパンの上で材料を焼くのでは?
すると、姫はフライパンをコンロの上に戻してから俺達に振り返った。
「この料理は火加減を間違えると焦げやすいんです。なので、焼く度にこうすることであの綺麗な焼き色になるんですよ?」
「……なるほど」
「そんなにも焦げやすいんだ?」
「はい。では、生地を三等分になるように入れてください」
俺とレクター、それぞれのフライパンに自分で作った生地をレードルで流し入れて。
そこでどうやら蓋をするらしい。
「数分したら、フライ返しで焼き色を確認して。ひっくり返してください」
と言う姫の助言もあり、少し待ってからレクターとほぼ同時に用意してあったフライ返しで焼き色を確認すると。
確かに、少し前に食べたように綺麗な茶色になっていた。
それをためらわずにひっくり返した。
「裏面もしっかり焼いたら、完成です」
そうして、一度だけでなく、繰り返し焼くことで作った分の生地を焼き終えた頃には。
パンケーキの山が出来上がってしまった。
「これをお菓子作りにか〜……ちょっと難しいけど、失敗を覚えさせるにはちょうどいいんじゃない?」
「……たしかに」
「それとこいつはせっかくだし、使用人の皆にも食ってもらえば?」
「……俺達のをか?」
「味はチーちゃんが今見てるし?」
たしかに、姫は今メープルシロップで俺とレクターに作ったパンケーキを一枚ずつ食べていたが。
それはそれは、幸せそうな顔で食べていたので鼓動が高鳴りそうになった。
「美味しいです。合格点出せますよ!」
「ありがとう、チャロナちゃんの教え方も上手だったからだよ?」
「……ああ、そうだな」
「い、いえ!」
普通に対応したつもりだが、姫は顔を真っ赤にして何故他の面々は俺を凝視してるのかわからない。
すると、肩をマックスに腕をレクターに掴まれて厨房の端に連れて行かれた。
「なんだ?」
「おっ前、俺達にもほとんど見せたことのねーしまりのない顔すんなよ!」
「姫様にはバレてないけど、あれ絶対周囲にはバレるよ? 僕らやシェトラスさんとかは知ってるけど」
「…………」
『氷の守護者』以外にも、『氷雪の鉄壁』とか言われがちな俺の無表情さが。
どうやら姫の前では、意味を為していないようだ。
やはりそれは、好意を抱いてる相手だからか。
「あ、あのー、皆さんどうしました?」
「なんでもないよチャロナちゃん」
「すぐ戻るわ」
とりあえず、姫にまださとらせてはいけないので気合を入れてから戻り、俺達も一枚ずつ食べることになった。
「あ、美味しい」
「チャロナほどではないが……美味いな」
「そ、そんな! カイル様達も頑張られたからで」
「ま。玄人と素人の差は出てとーぜんだろ? これは初回にしちゃ合格点だな?」
「んもー、
ひとまず、俺とレクターは八つ時の時間に使用人達がやってくるまで手伝いを繰り返し。
やってきた連中からは、毎回父上に言われて手伝いをすることになった説明をしなくてはならなかったが。
皆、手放しに美味いと褒めてくれた。
『げっぷー』
途中、メレンゲ作りに手を貸すことになったロティは時々ちまちまと余り物のパンケーキを食べてスタミナを回復していた。
レイバルスとは違う、本当に特殊な擬似精霊だが。
姿を成長させたあの日から、俺は少し違和感を感じていた。
なにが、と口にするのはまだ難しいが。
「……美味いか?」
『美味ちーでふぅうう!』
「そうか」
口周りにシロップをつけてたので、ハンカチで拭いてやると。ロティは音が鳴りそうなくらいいい笑顔になった。
『ありがちょーでふうううう』
「なに、大したことはしてない」
少し伸びた髪をぽんぽんと撫でてやれば、少し眠たいのか子供のようにあくびをした。
いや、見た目はまだまだ赤ん坊だが。
「わ、カイル様すみません!」
「ん?」
姫に言われるまで気づかなかったが、ロティが俺の腕に寄りかかるように眠ってしまってたのだった。
「ふふ。大旦那様が赤児だったリーンを抱えていたのと似てるね?」
「……そうか?」
「ぷくく、大抵のガキはお前のこと怖がるのにな?」
たしかにマックスが言うように、俺は子供には敬遠されがちでいたが。
子供とはまた違う、ロティは俺に笑いかけてくれた。
(まるで、亡くなった伯母上のように……)
とここで、俺はロティへの違和感に気付いた。
容姿はずっと幼いが、姫ともまた違う、伯母上と瓜二つ。
それを知らせるべく、途中とはいえ俺は姫達に断ってマックスとレクターを連れて執務室に向かった。
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