90-4.テリヤキチキン定食(レクター視点)
*・*・*(レクター視点)
さてさて、
カイルと食堂に向かうと、なんだが香ばしくていい匂いがしてきた。
「いい匂いだねー?」
「姫の作るものにハズレなどない」
「まあね?」
そこに、想い人だからと付け加えたいが、何かしらの反応をして姫様を困らせてしまうだろう。
その言葉を飲み込んで、食堂の中に入れば、外に漏れ出てた以上に香ばしくていい匂いに包まれた。
「あ、カイル様! レクター先生!」
中では、姫様が満面の笑みで出迎えてくれた。
「やあ、チャロナちゃん。その顔から見る限り、料理はうまくいったのかな?」
「はい! ウルクル様にも太鼓判を押してくださいました!」
「そうか。それは楽しみだ」
なので、料理が運ばれてくるまでカイル専用の席に一緒に待っていると、ウルクル様がニマニマしながら飛んできた。
『あれは至高ぞ。主らは常に食せることを感謝せねばなるまいぞ?』
「……ええ」
「今日のはそんなにも美味しいのですが?」
『応。あれは妾の舌をうならせた。主らヒトの子の一部に献上されてない調味料をああも美味なるものに仕上げるとは、あれは世に出たら注目の的になるだけで済むまい』
「「……たしかに」」
姫様の
今はあまり外に出させていないとは言え、陛下達と決めた生誕祭と成人の儀が実行されればどうなるか。
【枯渇の悪食】を払拭させるほどの珍味を生み出せる存在として、世に広まるだろう。
それが、彼女の幸せになるかどうかまではわからないが。
少なくとも、カイルがきちんと身分を打ち明けて、姫様ご自身の身分も明らかになる。
このことから、ふたりの幸せだけは確定になると思っているけど。
『ま。たんと楽しめ、今のうちじゃ』
そう言いながら、ウルクル様は姿をくらませてしまい、僕らは姫様が持ってきた料理を食べることになったが。
(全体的に茶色い?)
カイルが頼んだ肉料理もだが、スープも茶色い。
このスープが、マックスも言っていたミソシル?
サバのミソニよりも濃さは薄いが、なんだかほっと出来るいい匂いがしてきた。
「お待たせしました。コカトリスの照り焼きチキンです!」
「ほう。肉はコカトリスか?」
「はい。柔らかくて美味しいですよ。まずは、味噌汁を少し飲んでみてください」
「「では」」
ジャガイモと玉ねぎが見えるスープをひと口。
途端、これまでのスープの概念を覆えすくらいの衝撃を受けた!
「スープは塩気以外の味わいがあるのはもちろんだけど、この深みはなんだい? 野菜の甘さもあるお陰でいくらでも飲みたいよ!」
「このスープだけでもご馳走に思えるな。マックスが食いたいというだけはある」
「ありがとうございます。お味噌汁は入れる具材を変えたら、100通りじゃきかないんですよ?」
「「な!」」
このスープだけでそんなにも無限に近い可能性を秘めている?
聞いてみると、姫様達の前世では携帯食を含めて多種多様に存在しているそうだ。
「では、メインの照り焼きチキンをどうぞ」
コカトリスで作られたというテリヤキチキンというのは。
表面の皮は赤茶に染まっているのに、パリパリしてるように見えて。
横から見える肉の部分は少し白っぽい。
ナイフとフォークは一応用意はされているが、先に切られている肉の一切れを刺してみると。
(うっわ……柔らかい!)
何か下処理をされているにしても、結構柔らかい。
持ち上げてみると、茶色いソースがしたたるくらい美味しそうな、ステーキのような肉が出てきた。
この間から用意されてる米ともきっと相性がいいだろうが、まずはひと口。
カイルとほぼ同時だった。
「「!」」
『でっふ?』
「なんだ……この旨みは?」
「美味しい……美味し過ぎるよ、チャロナちゃん! こんな料理初めてだよ!」
「ありがとうございます」
カイルの目元も思わず緩んでしまうくらい、僕も口の中が口福感に包まれた。
皮は見た目通りパリパリとしてたけど同時に脂のねっとり感もあって。それが、柔らかい肉と合わされば、ソースとも絡んで、舌に幸せを運んでくれる。
ただ、味付けは濃いので米と食べてみると、淡い甘みを持つ米との相性が抜群で。
その後に、ミソシルを飲んでみるとこれまたすっごく合う!
「これは美味い! コメとも非常によく合うが……チャロナ、これはパンも可能か?」
「はい! 明日のお昼にサンドイッチのようなものを予定しています」
「これをサンドイッチに?」
「食パンでもいいんですが、バーガーというタイプもありまして。以前のメンチカツサンドに近いものを想像してみてください」
「それは……」
「ものすごく合いそうだね!」
今すぐにでも食べたいけど、想像だけで我慢するしかない。
とりあえず、今出されているのを食べ進めて、カイルとほぼ同時におかわりを要求した。
「はい! 焼き立てをお持ちしますね!」
姫様は生き生きとした表情で、ロティちゃんを連れて厨房に戻っていった。
入れ替わりに、シェトラスさんが紅茶を持ってきてくれたので、それでひと息吐くことに。
「姫は、楽しんでいるんだな」
「ええ。毎日我々には勉強になることばかりですが、ご自分の作りたいものを生み出されて、とても生き生きとされています」
「それも……あとひと月少しだね?」
城に戻られるかもしれない未来。
それが本来の彼女の生き方だけど。それを強制する陛下ではないと思うが。
彼女の笑顔を奪うきっかけにはならないで欲しい。
ちらっとカイルを見ると、紅茶には口をつけずに厨房の方を見つめていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます