86-3.出来る出来ない(シュライゼン視点)
*・*・*(シュライゼン視点)
「次は、形を整える意味で丸め直します」
「十分綺麗だと思うんだけどー?」
「まあ、仕上がりが違うのでやってみましょう」
「おー!」
ただ、この丸め直しと言うのも結構難しくて。
コロコロ手の中で転がすだけじゃなく、1回目の時のように引き締めをしなくてはならなくて。
爺やと一緒にコロコロ丸めても、最初は表面を綺麗にすることしか出来なかった。
マンシェリーが言うには、
「よー。邪魔するぜー?」
苦戦してる最中にやってきたのは、マックスだった。
カイルの前じゃないのに男言葉でいるのは、婚約者になったエイマーがいるからかもしれない。
「ヤッホー」
「よ。訓練はどうだ?」
「むっずかしいんだぞ!」
今手に持ってる生地をマンシェリーに見てもらっても、及第点には少し遠いくらい。
だもんで、仕上げはマンシェリーにしてもらってるんだぞ。
「だろうよ? チーちゃん、今日のメニューなんなんだ?」
「普通の白パンと、ペポロンパンと牛乳パンの予定」
「牛乳パン?……ああ、ミルクブレッドとかの?」
「そう。それの白パンで作るタイプ」
うむむ。やはり、元同じ世界の出身者同士通じ合い過ぎてるんだぞ。少し羨ましいが、俺は転生者じゃない普通の人間?だから無理なものは無理。
「あー。前世はちょっとこってり系だから避けてたな、そう言うの」
「中身はバターがメインだしね。けど、練乳も入れるから美味しいよ?」
「わざわざ練乳作んの?」
「うん。パン屋で材料が足りない時とかに、店長から教わったんだー」
「あんたのいたパン屋規格外過ぎんだろ」
「けど、この世界の考え方なら普通じゃないかなー?」
「まあ、わかんなくもないけど」
本当に。
マンシェリーと意気投合し過ぎって。
お兄ちゃん、嫉妬しそうなんだぞ!
(マブダチだからって、わかってるのにタメ口で和気あいあいだなんて!)
あとひと月半も、お兄ちゃんである事を打ち明けられない俺は歯がゆくて仕方ないんだぞ!
「……殿下。お顔に出てますぞ」
「むぅ!」
爺やに注意されるくらい、顔に出てたのは反省だ。父上に似たこの顔で怒ると、結構怖いと幼馴染みの皆にも言われたし。
とりあえず、マックスも手を洗ってから参加することになったんだぞ。
「これを、また丸めるのか?」
「綺麗な丸の形にすると、焼く時いい感じになるの」
「ほー?」
で、マックスの出来はどうかと見守っていると。
マンシェリーが一度見本を見せただけで、いとも簡単に出来てしまったのだ!
「え!」
「団子のように丸めればいいのか。おっもしれ!」
「うんうん。綺麗に表面も仕上がってるし、引き締めも出来てるね」
「ま。パーティー時代の炊事係俺だったしな?」
そう言えばそうだった。
俺は行けなかった、あの冒険者時代。
唯一の女性メンバーだったカレリアは料理に関しては、破壊的な技術の持ち主だったため。前世、女性だったマックスに一任されてたらしい。
「一度で出来るとはすごいな!」
「へへーん。んじゃ、この勢いで……こっちの微妙にでかいのは?」
「そっちが牛乳パン用だよ。少し大きい方が食べ応えあるし」
「なーる」
とりあえず、マンシェリーとマックス以外は練習を重ねるために苦戦しながらも丸め。
ふたりには 、仕上げをしてもらう事になりひたすら丸めて丸めて。
仕上がった頃には、俺達が今まで無視してた『二次発酵』と言う工程をするために濡れた布巾を鉄板に並べた生地の上にかぶせて。
そこからは休憩時間になり、冷たくて美味しいハーブティーをご馳走になったんだぞ。
「つーかーれーたー」
地味な工程だけだったのに、気力も体力も結構消耗したんだぞ。
おそるべし、基本のパン作り!
「ふふ。包みなどは前回お得意でしたから、次回はそういうのにしましょうか?」
「うむ! あんぱんをもう一度作ってみたいんだぞ!」
「あんぱんもいいですが……クリームパンやカレーパンじゃなくても大丈夫ですか?」
「むむむ。その選択は捨てがたい!」
悩む。非常に悩むんだぞ。
クリームパンとやらは、きっと最初に食べたチョココロネと似たものかもしれない。
カレーパンは、あの美味しかった少し辛めのパン。
作ってみたいのは両方ともだが、どちらを選ぶべきか。
「カレーパンとはどのようなパンですかな?」
「カレーという料理を具材にして、あんぱんの時のように包み込むんです。それを、焼くのではなく油で揚げたパンなんです」
「ほう。揚げるとは、ドーナツのようですな?」
「そうですね、ドーナツパンとも言われてるんです」
「じゃ、次はカレーパンなんだぞ!」
せっかく一緒に作っているから、爺やの希望も叶えてあげたいんだぞ。
爺やの方に振り向けば、少しきょとんとしてたが、俺が笑い返せばにこりと笑ってくれた。
「もし作れるようになられれば、お父上もお喜びになられるでしょう」
「父上にはついでなんだぞー」
「あ、そうです。思い出しました!」
「「ん??」」
マンシェリーは手を軽く叩くと、空中を軽く指で押してから布で包んだものを俺に差し出してきた。
「先日、このお屋敷でお餅を作ったんです。その時に作ったのと同じお餅のおやつを、また作りました。おふたりとアインズさんにお渡ししようと思いまして」
「いいのかい?」
「はい。保存は無限∞収納棚に入れたので、お餅が固くなっていませんが。出来れば今日中に召し上がってください」
「今は、いっぱいパン食うから帰ってからのデザートにしとけ」
「わかったんだぞ」
それなら俺も、収納出来るスペースは無限とは言い難いがそれなりにある異空間収納の魔法の中に包みを入れておいたんだぞ。
「では、今のうちにコンデンスミルク……さっき
「うむ!」
さてさて、その調味料とは一体どんなものなんだぞ?
楽しみで仕方がない!
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