84-4.善哉会②



(喜んでもらえてよかったぁ……)



 和食の一端とは言え、小豆を使った料理だ。


 小豆は結構独特の味だから、前世の日本では好き嫌いも多かったけども。


 今のところ、カイルキア様を含めて、日本食を嫌いと言う人は出ていない。むしろ、好まれてる傾向が強くでてる。


 それは、【枯渇の悪食】によるレシピ消失の影響かどうかは、私程度じゃ判断は出来ないけど。ロティが特に言わないし、大丈夫だとは思う。


 とりあえず厨房に入って、無限∞収納棚からいちご大福を取り出し、人数分の小皿に乗せてからワゴンに置いて。残りを山積みにして大皿に乗せた。


 それと、忘れずにウルクル様の善哉も用意して。



「お待たせしました。いちご大福です!」


『おおお! 待ちわびておったぞ!』



 それぞれの前に置くと、シアちゃんは何かわからないのでじーっと見つめ出した。



「うーりゅ、これなーに?」


『うむ。ゼンザイに入っておった、アンコとモチを使った甘いものじゃよ。噛み切るのは少し大変じゃが、中にイチゴが入っておって、実に美味い!』


「い、ちご?」


「シアにはあまり食べさせてなかったわね。赤くて、甘酸っぱい果物なの」


「おいちー?」


「美味しいよー? シアもきっと気にいるさ!」


「ウルクルの厚意からいただけるのだから、感謝するのよ?」


「あーい! ありがちょー、うりゅ!」


『なんのなんの』



 ただ、フォークで食べようとしてたので、素手で食べて欲しいと伝えると。


 小ちゃな手でがしっと掴んで、ゆっくりと持ち上げた。



「雪みちゃいなのに、ちょっとおもーい! やわりゃかーい!」


「ふふ。でも、さっきの善哉より少し固いから、あんまり大きく噛まないでね?」


「うん!」



 まだ口の端に、善哉の餡子がついたままだけど。


 ゆっくりと、観察していたいちご大福を口元に持っていくと。その小さな口で、餅の部分を噛むと勢いよく餅が伸びた。



「しゅごー!」


『もっちょ食べりゅと、いちごと餡子が出てくるでふ!』


「うん!」



 それから全員に見守られながら、シアちゃんはいちご大福と格闘して。


 餡子に行き着いたら。


 さらに、いちごに行き着いたら。


 可愛らしい見た目通りに、好奇に満ちた表情で美味しさを語ってくれた。



「おいちー、おいちー!」


「ふふ。この前いただいたあんぱんもこの子にあげたのだけど、よっぽど気に入ったみたいなの。ありがとう、チャロナさん」


「喜んでいただけてなによりです」


『ほんに、このいちご大福は美味じゃからのぉ』



 ウルクル様も気に入りのお菓子だから、昨日の餅つき大会の時のように、両手に持ちながら食べていた。



「けっぷ。……おいちかったー」



 シアちゃんは、善哉も食べたからお腹がいっぱいなのだろう。


 うとうとし出すと、フィルドさんがナプキンで口元を綺麗にしてあげてから抱き上げた。



「眠いよねー? 名残おしいけど、次回もあるし帰ろっか?」


「そうね。ふた品もいただいてしまったけど、目的は果たしたし」


「もう、お帰りになられるんですか?」


「ええ。それに、長居し過ぎて八つ時の時間帯をお邪魔しすぎても良くないわ」



 確かに。あと少しで使用人の皆さんがやってくる時間帯になるからシアちゃんを寝かせてあげられない。


 少しさみしいが、今日はここでお開きだ。



「チャロナー。酒を使った料理楽しみにしてるねー?」


「はい。頑張ります!」


「さ。お暇しましょう。今日も美味しかったわ、ご馳走様」


「いえ」



 そうして、また今回も玄関で見送ると。


 ユリアさんが使ったのか、転移の魔法らしきもので跡形もなく消え失せてしまった。


 最近、魔法の訓練で悠花ゆうかさんを追いかけるのに使ったりはしてるけど。


 気配を読まれてるのか、全然捕まえられない。


 もっとうまくなりたいけど、これからちゃんと役に立つのか、未だに実感がわかない。


 外に出た場合、身の危険にさらされた時には……と言われてはいても。


 あの子爵だった男の人のように、そうそう危害を加えられる事態になってないから。だから、余計に実感がわかないのだ。



(けど、今のパン作りでは色々役に立ってるし。今度は錬金術もきちんと習えるから!)



 やるべきことはたくさんある。


 なら、気を引き締めていくしかない!


 それに、今からも善哉の配膳が待っているもの。



『さて、チャロナ。あの酒とやらでどんな馳走を振る舞うのじゃ?』



 食堂に戻る直前に、ウルクル様から質問があった。



「えと、使用人寮の寮母さんから味噌を分けていただいたんです。魚をメインにした料理なんですが、甘辛い煮物仕立てにしようかと」


『ミソ……? おお、この国のある地域では汁物に重宝しておるあれか。そのままでは塩辛いが、モチにも使っておったショーユとも相性が良かったはずじゃ』


「はい。お醤油も少し使いますが、お魚も柔らかくなるので美味しいですよ。お米とも相性がいいんです」


『コメと?』


「あ、ラスティさんに頼むの忘れてました! ウルクル様、フィルドさん達が今度いらっしゃる日までに成長と収穫をお願いしてもいいですか?」


『うむ、構わんぞ?』



 うっかり忘れてた作業をウルクル様に頼むと快く了承をもらえ。


 善哉の配膳の時にラスティさんにお伝えしたところ、大丈夫とも言ってもらい。


 使用人の皆さんもだけど、ラスティさんとカイルキア様が5杯以上おかわりをされてしまったので。


 夕飯が入らなくなっちゃうんじゃ……と少し心配になりました。

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