83-1.本番前の伝達(シャミー視点)
*・*・*(シャミー視点)
マジか。
マジか。
マジなのかぁあああ!
あの、嬢ちゃんが。
あの、王女様がぁああ。
俺達に催し物を開いてくださるだなんてぇえ。
思わんやろぉおおおおおおおお!!?
「つきましては。旦那様がお許しになられましたからには、私どもも全力で取り組みましょう」
「「「「「はい!」」」」」
それと俺らは、各部署に伝言に回らなあかん。
俺はつるむ連中の関係もあって、ピデットとサイラのとこやけど。
ちょうどいいんで、先にピデットのとこに向かった。
「と、言うわけでして。明日は、動きやすい服装で厨房の裏口に集まって欲しいそうです!」
「……承知した。ゼーレン殿に伝えてくれ」
「はい!」
で、ここで公式の顔は終わり。
ピデットに拳をぶつけると手で受け止められて。
何度か打ち合いをしてから、拳をつき合わせた。
「行くぞ、サイラんとこ!」
「おっしゃ!」
「……知らせについて行くのはいいが。職務は怠るなよ?」
「…………うっす」
せやった〜。
このお人、旦那様以上に無表情で怖いんやった〜。
けど、悪い人やないから、こうやって許してもくれる。
だもんで、急いで一礼してから、ピデットとダッシュで走った。
「屋敷総出でって、滅多にないだろ!」
「せやろせやろ! あの姫さん、今度は何してくれんやろ!」
「パンか? パンだよなぁ!」
「けど、パンやとど素人の俺らに出来るか?」
「あー……」
たしかに、王女様と言ったらパンだが。
パンは、料理についてはど素人以下の俺らには難しいで済まない。
なら、何を開いてくださると言うのか。
そこんとこしか、俺らには伝えてくれんかった。
あとは、当日のお楽しみだと、ほっほと年相応の笑い方で誤魔化されたんやが。
「なんにせよ。明日は仕事やない!」
「おう。遊べる1日って、早々ねーからな!」
そうこうしているうちに、サイラの居る厩舎に向かえば。
奴は、ちょうど外に出てて、藁を運んどった。
「おーい、サイラー!」
「あ? 二人してどうした?」
「いーい、事知らせに来たぜ?」
「いい事?」
「ちょぉ、厩舎の人ら集めてもろてかまへん?」
「いいけど?」
エスメラルダさん他数名も、外に集めてもろったら。
俺が代表して、伝言を伝えることにした。
「えー。旦那様からご伝言があります。明日1日は、屋敷を上げての催し物を開く。男手は、動きやすいシャツとズボンで来る事。場所は、厨房裏で」
「ほーう。チャロナの言ってた催し物が無事に出来そうってことかい?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
エスメラルダさんは知ってる?
サイラに振り向くと、何故か手を打っていたし。
やっぱ、王女様と近しい人間は知ってるって事か。
俺もそこそこ話す方になってきたけど、仲が良いとまでは言えんからなあ?
「絶対美味い馳走さね? 力仕事かもしれんから、あんたらは覚悟しときなよ?」
「「「「「あいあいさー!」」」」」
「俺からは、以上です」
「よし。うちは飼育関連だから、時々は様子見に来なきゃいけないが。それ以外は参加しようじゃないか」
「エスメラルダさん、催し物の内容って何ですか!」
「ああ。そうさね? なんでも、『モチ』と言うものを作るらしいが」
「「「「「「「モチ……??」」」」」」」
誰も知らん食いもん。
やっぱ、あの王女様は謎やわ。
パンの種類もだけど、俺らの知らんご馳走を色々知ってる。
追求したい気持ちはあるけど、あの方は今使用人でもれっきとした王女様や。
旦那様はともかく、下っ端の俺らが追求してはいかんのや。
「エピアは練習に参加したって言ってたけど。ムッチャ美味いって」
「こ、んのー」
「彼女持ちがあああ!」
「うわ!?」
なるほど、王女様経由もあるが。恋人の方も関わっていたとは。
あの麗し過ぎる、美少女と恋人なのが未だ許せん!
エピアを蔑ろにしてたわけやないけど。
あれだけの美少女、何故モテるんだこの傷だらけの男に!
と、叫んだところで俺らが報われるわけでもないから、軽くどつくだけにしといたが。
「ほれほれ。あんたらも、今日はまだ仕事あるんだろ? 明日のために、さっさと終わらせてきな?」
「「うっす」」
たしかに、仕事は終わっとらんので仕方なく戻る事にして。
途中、ピデットと別れてから、軽い気持ちで厨房の裏口を覗き込むと。
なんか、よう分からん木製の家具みたいなのがあちこちに置かれていた。
(なんや、あれ……?)
木で出来た、桶のようなのとハンマー?
なんであんなのが置かれているか、よう分からんかったが。
明日、催し物を開くのに必要なのかもしれん。
そう思うと、だんだんと気分が高まってきて。
さっと、中に戻ってから、俺は鼻歌を歌いそうなくらい上機嫌になって仕事に戻るのだった。
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