82-1.餅つき練習①






 *・*・*









 さて、餅つき予行演習の実行日。


 蒸し器については、もうお決まりの銀製器具シルバーアイテムに……蒸し布もあったので、大丈夫。


 ロティの炊飯器モードで炊いてもいいかもしれないが、量が量なので蒸し器でいく。


 臼と杵は、ウルクル様に私が頭の中でイメージしたものを具現化していただきました。


 両方とも木製なので、前日から水を吸わせておきます。


 こうすることで、木が割れにくくなると、私は前世勤めてたパン屋の店長に教わった。


 何故パン屋が知ってるかと言うと、お正月シーズン限定で、店先で餅つきをしてたから。


 来客時に振る舞う際、手作りの汁粉を提供するためで。


 流石に、杵でつく作業は男性スタッフに任せたが、かえし役は少し経験がある。


 なので、今回もそんな感じでいこうと思ってます。



「餡子も緩めの固さに作った。砂糖醤油も出来た。変わり種で大根おろしもおk。海苔はないけど、いいよね?」


『でっふ! オモチオモチでふううううう!』


「うん! うーん、最初だと時間短縮クイックかけた方がいいかなあ?」


『でふ?』



 お昼過ぎ、下準備のほとんどを終わらせてから小休止の時。


 裏の個室でロティと最終確認をしてたが、餅つきの時間を実は決めていなかった。



「ウルクル様はもうすぐいらっしゃるだろうし、今日の参加者って」



 改めて、確認しておこう。



 シェトラスさん

 エイマーさん

 悠花ゆうかさん

 レイ君

 ウルクル様

 ラスティさん

 エピアちゃん

 カイルキア様?

 レクター先生?




 後半のお二人には、一応練習について話してあるから参加するのかな?だけど。



(カイルキア様が餅つき……? 想像は出来なくもないけど)


 軽装のシャツとズボンでもし参加するとしたら……ただでさえ、素敵筋肉をお持ちのあの方が、杵を持って餅つきされるとしたら。


 私の想像以上に、惚れ直すポイントが高くなってしまう!



「うわぁあ! 無理無理無理! 直視出来ない!」


『でふ? あのおにーしゃんでふか?』


「なんでわかるの?」


『ご主人様の契約精霊だからでふ!』



 えっへんと胸を張るのは可愛いが、体調だけじゃなく、心まで繋がっているのが契約精霊なのだろうか?


 なら、同じ契約精霊持ちの悠花さんもそうなのだろうか?


 けど、レイ君はロティにメロメロ?だから最近はほとんど別行動をとってる状態だけど。


 それはさておき、おやつにお餅を振る舞うので大丈夫か。


 改めて、シェトラスさんに確認を取ろうと席を立つ。



「おやつで構わないと思うよ? むしろ、私はそのつもりでいたんだけど」


「わかりました」



 シェトラスさんに確認取ったら、やっぱり最初は普通に蒸そうと昨日から浸け置きしておいたもち米のボウルに手をかけた。


 時間短縮クイックで済ませても良かったが、もち米は水分をよく吸収する上に、普通の米であるうるち米よりもさらに時間が必要だ。


 それに、技能スキルに頼り過ぎも良くないし、せっかくのもち米。少し手間をかけても美味しく食べたい。


 だから、前日から寸胴鍋を使って浸け置きして、今は使う分だけをザルにあげて水切りしていた。



『チャロナはん。蒸し器のお湯沸いたでやんすよ』


「ありがとう、レイ君」



 固く絞った蒸し布を、上の蒸し器に広げて。


 水気を切ったもち米を、蒸し布の上に入れるが。ここでポイントなのが蒸気が通りやすいように中央に穴を開けてドーナツ状にするのがいい。


 パートのおばちゃんに教わった、美味しいお餅の蒸し方だ。


 これに蒸し布を被せたら、蓋をしてはみ出た布を蓋にかぶせる。



『これでどれくらいかかるでやんすか?』


「強火で45分から1時間かな? まだすぐに時間短縮クイックしないし、レイ君には皆を呼んできてもらえる?」


『旦那もでやんすか?』


「そ、そうだね。お願い」



 ほかの皆さんのおやつにあんドーナツは作って、収納棚にしまってはあるけど。


 カイルキア様は、きっとお餅の方が食べたいはず。


 なので、レイ君が虎さんバージョンになって壁抜けをしてから、シェトラスさん達と杵の準備に取り掛かる。


 餅つきの場所は、まだ内緒のイベントなので食堂で行う事になった。


 すでに机とかの移動はしてて、ちょうど真ん中辺りに杵と臼を設置しています。


 水をまだ吸わせているので、臼の中は水でいっぱい。



「バケツに水を捨てればいいのかな?」


「その代わりに、このお湯を入れればいいのかい?」


「はい。やりましょう!」



 臼は重たいので、ボウルですくっては大きめのバケツに入れて。


 全部出し終えたら、今度はお湯を入れて、杵を入れたらしばらく温めておく。


 このお湯は、もち米が蒸し上がる直前くらいに捨てて布巾などで拭う予定だ。



『ほっほ。精が出ておるの、チャロナ?』


「ウルクル様!」



 どこから入って来られたのか、レイ君のように壁抜けをされたのか。


 準備が出来てから、ほぼ同時に声をかけられた。


 ぷかぷかと宙に浮きながら、今日も素敵な微笑みを浮かべていらした。



「おや、ウルクル様。待ちきれないようですな?」


『そうさのぉ。あのもち米が、穀物以外の食し方がどのようになるのか。気になって仕方がなかった』


「私達も初めてですしね」


「ええ」



 エイマーさんも乗り気だし、頑張らないと!


 そうして、レイ君が少しして戻ってきてから、すぐにやって来たのは悠花さんにラスティさんとエピアちゃんだった。



「来たわよー!」


「お招きありがとう〜」


「……それ、何ですか?」



 到着するなり、エピアちゃんは臼と杵に興味津々だった。



「この道具で、蒸したもち米をつくの」


「つく?」


「こっちの杵って道具で、この臼に入れたもち米に、簡単に言うと叩く感じかな?」


「へー?」


「腕が鳴るわねえ……!」



 悠花さんはやる気満々だ。


 たしかに、ラスティさんも入れて力仕事メインになるけど、美味しいお餅も食べてもらいたい。


 そう思っていると、ジャケットを着てないシャツ姿のカイルキア様とレクター先生もやって来られて。


 一瞬目が合って、ドキっとしたけど。しっかりしなくっちゃ。


 それと、練習を始める前にイベントを知らせていない使用人の皆さんへのおやつ、あんドーナツを裏口でエイマーさんと配って。


 シャミー君達に号泣するくらい喜んでもらえてから、いよいよ餅つき開始だ!



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