81-3.美味しい揚げパンのために
*・*・*
大変な事になりました。
「堪忍や……堪忍や、チャロナちゃん!」
「マジで……マジで恵んでくんないか!?」
「え、えーと……」
今、裏口で二人の男の子に囲まれてしまってる。
と言うより、地面に這いつくばる勢いで懇願されてしまってます。
「あのドーナツ、美味過ぎたんや!」
「もうないの!?」
片方は、関西弁のような話し方の
もう片方は、綺麗な黒髪が特徴の庭師見習いなピデット君。
飼育員見習いのサイラ君曰く、タメでよくつるむ悪友な二人らしいけど。
私もちょくちょく話すようになったこの二人が、おやつの配膳から30分も経たないうちにやってきて。
ほぼ、土下座に近い状態であんドーナツのお代わりを申し出に来たのだ。
ちなみに、サイラ君はまだなのかやって来ていません。
『でふぅ』
「ご、ごめんなさい。旦那様方にお出しした後のは、もうなくて」
「「∑( ̄Д ̄;)」」
「ま、また明日とかなら大丈夫だけど」
「「食いたい!」」
「う、うん」
またコロンがたくさん貯まるなあと思っていると、奥の方から誰かがダッシュしてくるのが見えた。
「あ! お前ら!」
やって来たのは、サイラ君だった。
「抜け駆けすんなよ!」
「ぶっぶー、もうないんやて」
「もう旦那様達に出されたんだと」
「え、マジかよ……」
なので、到着するなり、サイラ君もガッカリしてしまった。
「ご、ごめんね? たくさんは作ったんだけど」
「「「だけど?」」」
「……ウルクル様が、たくさん召し上がられたの」
『でふぅ!』
「「「oh......(´・ω・`)」」」
皆もウルクル様の事は知っているからか、納得したような表情になった。
けどまあ、ウルクル様は見た目のちっさな子供の姿以上に本当にたくさん召し上がられたのだ。
多分、最低10個は食べてたはず。
あとは、
だもんで、お代わり分はないわけで。
『妾を呼んだかえ?』
「「「「ウルクル様!」」」」
『でっふ、お話してたでふ!』
ウルクル様、登場はいいけれど。私の頭の上が気に入ったのか、ちょこんと乗っかられました。
人間じゃないし、重みもほぼ飛んでるから感じはしないけどね?
『ほっほ。息災にしておるか、
「「「は、はい!」」」
『して。妾を話題にしたのはなんじゃ?』
「え、えーと……あんドーナツをたくさん召し上がられた、事です」
『ん?…………ほほほ、あれは美味だったからのぉ。思わず、たくさん食うてしもうたわ!』
私とサイラ君達の間に浮かれると、ウルクル様は誇らしげに胸を張られた。
すると、サイラ君達は悔しそうな表情に。
「ずっりぃよ! あんな美味いドーナツお一人でたくさん食べて!」
「俺達もお代わり欲しかったですのに!」
「あのあんまいのは、至福やったのにぃ!」
三人揃って、ブーイングするのだった。
けれど、こちらは神様だからか、ふふんと鼻で笑っただけで。
『妾とて、働かずして食したわけではないぞえ? きちんと手伝った対価じゃ!』
「「「(づ ̄ ³ ̄)づブーブー」」」
『一度手伝ってみい。あれは至難の業じゃぞ?』
「そうなの、チャロナ?」
「う、うん。中身作るのがちょっと」
普通に作ったらだけど。今日はウルクル様のアドバイスとロティに頑張ってもらったから、インスタント感覚で作れたわけだけど。
もう一回作れなくはないが、ロティに無理をさせたくはない。
体力面のスタミナはいくらでも回復出来ても、精神疲労はどうしたってある。
今は平気そうに見えても、あれだけたくさん複合を使ったから、きっと疲れてるだろう。
例え、AI精霊でも私は割り切らない。
だって、ロティも人間と同じように体調不良になる事もあったから。
『あの中身である『アンコ』は、主らが想像するよりはるかに手間がかかる。そこを知った上で、さらに懇願するのは大人げないぞ?』
「うー……」
「けど。美味かったんや。あの、サクッとジュワッとした食感の上に、砂糖たっぷりのとこに程よい甘味のアンコがああああああ」
「うぉおおお、言うな! 余計に食いたくなる!」
「うわあああ!」
ああ、阿鼻叫喚の絵図とはこう言う事を言うのかな……?
シャミー君が食レポを口にしたら、他の二人が涙を流しながら羨ましがって。
先日のシーフードカレーパンもだけど、揚げパンに関しては。一人二つ程用意しなくちゃいけないかもしれない。
ただ、少人数精鋭で作ってるし、数に限りがあるけれど。
『ほっほっほ。まあ、主らは幸運じゃぞ? この屋敷で生活しておるから、チャロナの美味なパンが食せる。その巡り合わせに感謝するのじゃぞ?』
「「「う」」」
『【枯渇の悪食】以降で、これほどまでにないパンは妾も他を知らぬ。この意味、仮にも成人しておる
「「「……はい」」」
さすがは、神様。
最もらしい言葉を並べられて、駄々をこねかけた男子三人に納得させてしまう。
(たしかに。今この世界で、日本のパンを作れるのは私だけだから……)
ほかの誰も作れないから、サイラ君達が毎日食べられるのは幸運だ。
嬉しいけど、カイルキア様の下で働いてる分、ワガママを言い過ぎてもいけないから。
『では。妾は一度ラスティの所へ寄ってから帰るが。チャロナ、主の新たな畑に行かぬか?』
「あ、はい!」
『どのようになっておるか見ようぞ』
「……チャロナ、また何か育ててんの?」
「うん。今日のドーナツに入れた中身の材料だけど」
「「「*゚Д゚)*゚д゚)(*゚Д゚)オォォ...」」」
「じゃ、これで解散でいいかな?」
「明日も頼むでー?」
「うん」
と言うわけで、解散してからシェトラスさん達に少し離れる事を告げて。
ウルクル様とロティと、ゆっくり農園に向かうのだった。
『着いたでふぅう!』
「エピアちゃーん!」
『ほっほ』
農園に着く時に、ちょうどエピアちゃんの姿が見えたので手を振れば。向こうも気づいてくれて大きく手を振ってくれた。
「きょ、今日ウルクル様もご一緒なんだね?」
「一緒に、おやつに出したあんドーナツを作っていただいたの」
「そ、そうなんだ?」
『美味であったであろう?』
「は、はい!」
そして、小豆を植えた場所の様子を見に来た事を言うと、エピアちゃんはぽんっと手を叩いた。
「何かあった?」
「それが……巨大化はしてないんだけど。もう成長し過ぎて」
『ほう?』
なので、ちょっと駆け足で向かうと。
小豆のスペースは、まだ青々とした草の状態でも。
一株の幅が、とにかく大きかったのだ!
「え、まだ植えて一週間経ってないよね?」
これだと、ロティが教えてくれた
『ほっほ。妾の加護が強いこの地であるからこそ、ここまで育つのよ』
「あ、ありがとうございます」
『何。して、例のもち米とやらはラスティがおそらく保管しておるじゃろう。言いに行くといい』
「はい!」
「モチ……ゴメ?」
「蒸して、こねるともちもちした食感になるお米なの」
「へー……」
とりあえず、作業小屋に行くとラスティさんが作業されていて。
煙管は使われていなかったが、農具の手入れをされていたみたい。
ウルクル様が、抱きつくように飛んでいくとナイスキャッチって感じに受け止められた。
「ウル、来てたんだ〜。今日はどうしたの〜?」
『例の、アズキの様子見とは別に。八つ時に出したアンドーナツの手伝いをしたのじゃ』
「そうなんだ〜。美味しかったもんね〜?」
『うむ。それとは別じゃが、ラスティ。以前主に渡したもち米。あれの種もみはあるじゃろ?』
「あるけど。あれ、調理法を君が教えてくれなかったから、ずっと棚の奥だけど〜?」
『チャロナが知っておる。あれも育てようぞ!』
「へ〜?」
すると、ラスティさんはウルクル様を抱っこしたまま、奥の戸棚に向かう。
そして、すぐに小さな布袋を持って、戻って来られた。
『チャロナ、これが種もみじゃ』
「えと……ウルクル様の加護を受けた畑だと、どれくらいかかるんですか?」
『ふむ。この地は、我が番であるラスティが管理しておるからかなり早いが……そうさの。妾も早く食したい故に、一瞬で叶えてもよいが』
「ウル〜、そんなに美味しそうなものになるの?」
「そ、それでしたら。……旦那様のご許可次第ですが、餅つき大会を開きませんか?」
「『「モチツキ大会??」』」
『おもちをちゅく、イベントでふううう』
集中して、ずっと杵をつくのは大変だけど、皆でやればきっと。
何より、おやつを自分で作れるいい経験になるかもしれない!
大まかな説明をすると、皆さん興味津々になった。
『あの
「はい、行きましょう!」
『でふうう!』
実行出来たら、きっと楽しいに違いない!
それに、つきたてのお餅はすっごく美味しいもの!
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