76-2.差し入れ当日(ケイミー視点)







 *・*・*(ケイミー視点)









 いよいよ当日。


 朝からずっと、皆そわそわしてたけど。それは私も同じ。


 お昼ご飯に、またあの美味しいパンが食べられるんだもの。待ち遠しくて当然。



「はいはい。もうすぐチャロナのお姉さんや殿下がいらっしゃいますから、皆さんお行儀よく待ちましょうね?」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』



 マザー・ライアの言葉に、今日だけは皆していい子になっている。


 だって、駄々をこねてしまったら、お姉さんの美味しいパンが食べられなくなってしまうのは。


 誰一人として、マザー・ライアを怒らせたくないから。


 この人を怒らせたら、それはもう悪夢にまで出て来るような、怖い目に遭うから。


 それは小さい子でも知っているので、皆してマザーを怒らせてはいけないと分かっている。


 とりあえず、お姉さんが来るまでは皆そわそわしつつも、グループごとに会話をしていることになった。



「今日の教室、何を教えてくれるのかなー?」


「パンかな?」


「パンはいきなりは、私達じゃ無理だよ。お姉さんみたいに作れそうにないもん」


「だね。マザー達でも相当苦労してるのに」


「あんな若いお姉さんがなんで出来るんだろ?」


「「「ねー??」」」



 どこもかしこもお姉さんの話題ばっかり。


 とは言っても、私とターニャ。あと、最近よく一緒になるクラットもだが。


 この間話し合った、お姉さんのパンを中心にしていた。



「今回のも、俺達がびっくりするもんじゃね?」


「あ、そうかも。前のもパンだけって思ってたから驚いたし」


「「ねー?」」



 お姉さんのことについては、出来れば聞ける範囲で。


 ひょっとしたら、シュライゼン様に止められるかもしれないけど、出来れば知りたい。


 そう思うことにして、それまでは他の子にも聞かれないように頑張った。


 それからお昼ご飯の鐘が鳴ると、全員で談話室から大食堂に向かう。


 前回の時と、同じ流れだ。



「「「「お姉さ〜〜〜〜ん!!!!」」」」


「こんにちは、皆」


「よう、諸君。待たせたんだぞ!」


「「「「シュライゼン様〜〜〜〜!!!!」」」」



 大食堂に着くと、この前とは違って既にチャロナのお姉さんが前と同じ料理人の服を着て待っててくれた。


 机に並んでるパンにも驚いたが、まずはお姉さんにお礼を言うべくほとんどの子供達が壇上に向かっていく。



「今日もパンありがとう!」


「今日のは何? カレーパン?」


「あ、カレーパンないけど。なんかパスタみたいなのが挟んであるぞ?」


「正解。今日のは皆も知ってるパスタを挟んだパンもあるの」


「「「「えー?」」」」



 パスタを挟む?


 それは本当に美味しいのだろうか?


 あと、なんか緑色のようなのが見えたのは気のせい?



「あ、あのー、チャロナお姉さん」


「なあに? あ、あなたは前回最初に話しかけてくれた子ね?」


「は、はい。ケイミーと言います。えっと……パンに野菜とは違う緑色のようなのが見えたんですけど」


「ああ、間違っていないわ。今日はちょっぴり特別なハーブのソースをパンにつけてあるの」


「「「ハーブのソース??」」」



 ハーブと言うのは、わかる。


 お茶にしたり、料理の風味づけなんかにも。


 なら、お姉さんの言う通りなら、そのハーブで新しいソースを作ったってこと?


 信じられないが、目の前にあるのならそう言う事だろう。



「さあ、皆さん。シュライゼン様とチャロナのお姉さんに感謝して、いただきましょう?」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』



 マザー・ライアの号令がかかったので、子供達は皆席に着くことにした。


 間近に見える、前回とは全く違うパンの正体が誰もわからない顔をしている。


 そして、感謝の祈りをしてから、チャロナのお姉さんから説明があった。



「まず、皆さんも見慣れたパスタを使ってるのが。ナポリタンドックと言う種類のパンです。赤いのはケチャップなので、皆さんにも親しみがある味になってるはずです」



 そして、緑の方は、聞いたこともないが『ピザパン』と言う種類だそうで。


 緑色のは、バジルと言う香草にも使われるハーブをソースにして塗ってあるらしい。上にかかってる白いのと焦げた部分は私達にも馴染み深いチーズだそうで。


 今回は、料理教室の関係上この二種類らしい。


 子供の胃袋だと、限界が見えているからと、今回はこれだけだそうだ。



「では、皆さん。いただきましょう」


『いただきまーす!』



 さて、どっちから食べよう。


 説明から考えると、辛いのはないようだが、どっちも初めての料理。


 ターニャも悩んでいたが、ちょうど向かい側に座ってたクラットはナポリタンドックと言うのを手にしてた。



「何これ、うっま!」



 ひと口かじりついた途端に、勢いよくクラットが食べ進めていく。



「たしかにケチャップの味だけど、それ以上になんか美味いし、パスタもモチモチしてて美味いよ! お前らも食ってみ?」


「ほ、ほんと?」


「じゃ、じゃあ」



 それだけクラットが言うならと、ターニャと一緒にナポリタンドックの方を手にした。


 細長いパンに切り込みが入ってて、野菜とパスタがケチャップで炒めてあるのがわかるだけだけど。


 一体、どんな美味しさが待っているのだろう。


 けれど、今日をずっと楽しみにしてたのだから。


 だから、大口を開けるのは少し恥ずかしいけど、勢いよくかぶりつく。



「う」


「わあ……美味しい!」


「うん、すっごく美味しい!」



 クラットの言う通り、ケチャップの味がするのにケチャップだけじゃない美味しさが口に広がっていく。


 パンはやっぱり、ふんわりしてるけれどむせることなく、柔らかくて美味しくて。


 パスタの部分も、玉ねぎとピーマンはわかったけど、薄いお肉も入っていて。


 ピーマンはあんまり好きじゃないのに、苦いのもほとんどなくて、むしろこのパンには欠かせない野菜に思えて。


 冷めると美味しくないパスタなのに、プチプチと弾ける感じが楽しくて。


 噛めば噛むほどに美味しい!



「美味しいね、ケイミー?」


「うん。ピーマンがこんなにも美味しくなるなんて思ってもみなかったよ」


「げ。これピーマン入ってたのか?」


「クラット嫌いなのに気づかなかったの?」


「全然。けど、これなら俺も食える」



 さて、クラットも待っててくれたのか、もう一つのピザパン。


 他の皆も、これに手をつけるのは難しく、ナポリタンドックを食べ終えても、なかなか取ろうとしない。


 すると、壇上に立ってるシュライゼン様が『ふふふ』と笑い出した。



「皆、ピザパンの方もとっても美味しいんだぞ? 俺も食べたんだが、見た目以上に凄いんだ。それが食べられなきゃ、後のお料理教室には参加出来ないんだぞ?」


「しゅ、シュライゼン様。そこまで言わなくても」


「ダメなんだぞ、チャロナ。お残しする子はいけないんだぞ?」


「お、俺、頑張って食べてみる!」


「「クラット!」」



 壇上のお二人の会話に、勇気を出して声を上げたのはクラットだった。


 宣言した直後に、パンを手にして勢いよくかぶりつく。


 その瞬間を、全員で見守っていると。



「…………なにこれ、さっきのパスタのより…………美味い!」


『ええ!?』


「嘘じゃねぇって。全然怖くないし、食ってみろって!」


『うーん』


「じゃ、私食べる!」


「ターニャ!」



 今度はターニャが手を上げて、パンを手にするとカプッとかぶりついた。



「…………うっわ。うっわぁあああ、すっごく美味しい! ちょっと匂いはあるけど、塩っぱくて野菜が甘くてお肉もたっぷり!」


『えええええ!?』


「じゃ、じゃあ、私も!」



 二人が美味しいと言うなら、絶対美味しいはず。


 口元にまでパンを近づけると、確かに匂いが少し強いけど。むしろ、お腹が空いてしまうようないい匂い。


 勢いよくかぶりつくと、口の中で、ターニャの言った通り。塩っぱいけど、野菜の甘みが口いっぱい広がっていく。



(なにこれ……?)



 香りが強いのもだけど、ソースの部分を食べるとなんとも言えない塩っぱさが舌の上に。


 程よく火が通っている野菜に、鶏肉らしいお肉もジューシーで。


 そこにチーズの塩っぱさも合わせると、いつまでも食べていたくなるような幸せな気持ちになっていく。



「ほんとだ、美味しい!」


「僕、こっちのが好き!」


「私も!」


「ナポリタンも美味しいけど、ピザ最高!」


「もう一個欲しい!」


「あとの教室行けなくなるよ?」


「あ、そっか」



 私の後に続いたのか、他の子供達も思い思いに食べ出して。


 全員、さっきの怖い考えが吹き飛ぶくらい、ピザパンの虜になってしまったみたい。


 もちろん、私もだけど。


 そうして、全員が食べ終わってから感謝のお祈りをして。



「では、次はお料理教室ですが。今日はおやつ向きのパンを作りましょう!」


『え、パン!?』


「普通のパンとは違うんだが、今回のも楽しみにしてるんだぞ!」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』


「どんなパンだろ!」


「楽しみだね?」


「うん!」



 きっと、とても美味しいものに違いない!

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