62-3.一方その頃王宮では(カイザーク視点)
*・*・*(カイザーク視点)
姫様が無事に快癒なされて、誠にようございました。
そして、アイリーン様とレクター君が無事に結ばれたことで、祝賀会をカイルキア様のお屋敷にて開かれるとか。
もちろん、姪御様のことなので陛下も行く事が決定しましたが……今は執務に荒れてますなぁ。
「マンシェリーに会える……マンシェリーに会える。これしきの事……っ!」
との、うわごとに近い独り言をつぶやきながら執務に向かい合ってる陛下は、一種の魔導具のように見えてなりませんぞ。
「…………陛下。家臣の者達に見せられない姿で、明日姫様にお会いするのですかな?」
「!……………………そんな、酷い有様だったか?」
「ええ、それはもう」
せっかくの美男子が台無しなお顔になっていましたぞ。
幼き頃より、家庭教師も務めさせていただいた身としては、少し悲しくなってきました。
亡きアクシア様。貴女様の御夫君は、愛娘様のことになると貴女様と婚約なさる以前の状態に戻られてしまってます。
そう、心の中で祈りを告げてから、ひとまず現在の進捗具合を把握すべく書簡に目を通したが。
「…………もう、ここまで終わらせたのですか?」
「明日のためだ! これでも遅いくらいだが、半日以上は休み取っていいだろ!」
「え、ええ……大丈夫だと思いますが」
おそるべし、マンシェリー姫様への親子愛。
同じ御子でも、シュライゼン様の時はあの方が幼い頃だけはあったのですが。
今は、仲良く親子喧嘩する間柄ですしなぁ。
特に、昨日はあの方も姫様にお会いになられましたし。
コンコン
「父上〜、俺なんだぞ〜」
と思ってる矢先に、シュライゼン様がいらっしゃったようですな。
陛下は陛下で、返事をする余裕もなく執務と向き合っていらっしゃいますので、仕方なく私めが対応させていただくことに。
「あれ、爺やどうしたんだぞ?」
「陛下は……今荒れておりますので」
「あー、めちゃくちゃに働いて明日のために終わらせようとしてるのが?」
「はい」
さすがは親子。
喧嘩はしても、お父上の事はよくわかっておいでだ。
中に入っていただくと、殿下は『うわー……』と声を漏らしながらも、陛下のところへと行かれた。
「ち、父上〜。書簡ここに置いとく、うぉ!」
「寄越せ、すぐに終わらせる」
ご子息から取り上げた書簡を、それこそ暴風のように終わらせてから、また殿下の手元に戻しました。
「…………その勢い、ずっとで疲れないかい?」
「うるさい。お前のようにしょっちゅう会いに行けない身になってみろ」
「はいはい」
爺めもそうしょっちゅうは会いに行けなかったのが、この前陛下の勅命により、姫様にパン作りをご教授させていただくのが決定したためにそれは変わり。
ひとまず、明日そのご予定も伺うべく、来訪する予定ではあるが。
殿下もそれをわかっておいでなので、退室される前にこの爺めを執務室の端にまで引っ張られた。
「明日が楽しみなのはわかるけど、あの調子で会いに行くのかと思うと心配なんだぞ」
「大丈夫ですよ。終わられて御入浴でもされたら、気分も変わられますし」
「本当に、それで済めばいいんだけどー」
ため息を一つつかれてから、殿下はそのまま退室されようとした時。
「爺や。マンシェリーが、明日孤児院へ次に持っていくパンの試作をするって言うから。出来れば、先に一緒に来て欲しいんだぞ」
「なんと。良いのですかな?」
「意見は多ければ多いほど、良いと思うんだぞ」
どうやら、また新しいパンのようなので。これは実に楽しみになってきましたぞ。
陛下には聞こえられているかどうか定かではないが、お返事がない ので聞いてなかった事にしておきましょう。
「では、殿下。いつ頃あちらに?」
「お昼に合わせて欲しいって言ったから、昼ごはんは抜きの方がいいんだぞ」
「俺も連れてけ!」
「まだそれだけ仕事あるのに無理なんだぞ!」
「やはり、聞こえていらっしゃいましたか……」
そうでないはずがありませんからね……。
けれど、現状明日の昼までにはかかりそうですので陛下にはご同行することは出来ません。
「何故だ……何故だ何故だああああ」
「国王だから」
「陛下ですからな」
「うぬあああああ!」
今勢いで終わらせたとしても、頭が冷えていらっしゃらない状態で同席は出来ませぬぞ。
先日、姫様に手製のぬいぐるみをプレゼントなさった後のように感慨にふけられるならまだしも、抱擁なさる機会がお有りになられたら正気でいられますまい。
(アクシア様の事を打ち明けても、そこがお変わりないのはお辛い気持ちを隠されているのか)
どちらにしても、この状態で姫様にはお会いさせませぬぞ。
爺も口にしましたが、御入浴だけで一新されるか心配になってきました。
「じゃ、爺や。明日の昼前に俺の部屋に来て欲しいんだぞ」
「承知しました」
ひとまず、私めのお役目の一つが出来た事で。
陛下には、明日の祝賀会でごゆっくりしていただくためにも仕事を追加する私であった。
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