56-4.シュライゼンの父からの見舞い






 *・*・*









 悠花ゆうかさんがいなくなったお昼ご飯だったけど、レイ君にロティを抱っこしてもらいながら部屋に戻ろうとしたら。



「やっほーなんだぞ、チャロナ! 今日は元気そうで良かったんだぞ!」



 何故か昨日の今日で、の、シュライゼン様のご登場だった。


 部屋の前で待ってたと言うことは、私に用があってのことだろうけど。


 あと、後ろにはまだ誰かいらっしゃるようで。



「ご快復なされたようで、何よりですぞチャロナ嬢」


「…………」


「カイザークさん! え、えっと……お隣にいらっしゃるのはもしや」



 カイザークさんは執事服のような装いでいらっしゃったけど。


 そのお隣にいらっしゃるおじ様は、初めて見るお顔。


 でも、雰囲気とか髪の色で見覚えが。



「…………先日、使者の代表として来た者だ。アインズと呼んでくれ、一応このバカ息子の父だ」


「は、はい!」



 一回会ってるから初めましても失礼なので。


 返事をすると、シュライゼン様そっくりのお顔は少し苦笑いになった。



「ぶーぶー、俺はバカ息子じゃないんだぞ。誰のお陰で今日来れたと思ってるんだい」


「その態度がバカだ」


「(づ ̄ ³ ̄)づブーブー」



 性格は全然違うけど、そっくりの顔が二つもあると圧巻だ。


 とりあえず、廊下にいるのもなんなんので中に入っていただき、何故か私とロティはベッドに座り。


 皆さんには立っていただくスタイル。


 なんでだ?



「今日はわ……俺のわがままで、息子に連れて来てもらったんだ。君が風邪を引いたと聞いて、見舞いの品をと」


「わ、大きい!」


『でふぅ!』



 後ろ手に隠されてたから全然気づかなかったけど、アインズ様が抱えるくらいの大きな包装紙に包まれたお見舞いの品。


 昨日のデュファン様がお持ちになられた、チコリョのぬいぐるみも結構な大きさだったけど。


 これは段違いに大きい。


 失礼だが、ゲームセンターやコンビニの景品並みに。


 開けて欲しいと目で言われたので、紙を破かないように丁寧に広げていけば。



「うわぁああ、可愛いマロウサギ!」


『でふぅ、大きいでふ!』


「ふわふわもこもこ!」


『もきょもきょ!』



 これまた、独特の手触りにふわもこ感!


 抱きつくと少し反動で押し返されるけれど、スリスリすると、なんとも言えない肌触りがほっぺに伝わってくる。


 大きい大きいピンクの、麻呂眉が特徴的な、マロウサギって言う愛玩モンスターの一種を模した人形は。


 一目で気に入っちゃうくらい、いつまでも抱っこしたくなる魅惑の品でした。


 ただここで一つ。


 他の人に比べれば子供でしかなくとも、立派に成人した奴がぬいぐるみにギュッギュしてたと自覚して、じわじわと恥ずかしさがこみ上げてきた。



「す、すみませ……?」



 ついはしゃいでしまってたことを謝罪しようとしたら……。


 何故か、アインズ様は……顔を真っ赤にされていて、泣きそうな表情で私を見ていたのだった。



「あ、あの……?」


「! す、すまない! それほど喜ばれるとは思わず!」


「それ、父上の手作りなんだぞー」


「え!」


「シュラ!」


「言いたいことはすぐに言うんだぞ」



 この大きなぬいぐるみが、アインズ様の手作り?


 手作りは、当然でも。まさか、この方が一から手作りされるなんて思うだろうか?


 別に、男性の手芸の趣味を云々じゃなくて。



「す、すごいです! こんなにも大きいのに可愛くて手触り抜群のお人形を!」


『もきゅもきゅでふぅうう!』


「! そ、そうだろうか?」


「はい!」



 なんとも言えない手触りがやみつきになって、いつまでも触っていたくなるくらい。


 一通り堪能してから、人形をベッドにもたれかけさせて、ロティを抱っこした。



「ありがとうございます! 大切にします!」


『でっふ!』


「あ、ああ。喜んでくれて何よりだ……」



 おお、おじ様のはにかみが、同じお顔でもシュライゼン様にはない表情なので新鮮!


 それと、ロティがもこもこ人形の虜になってしまい、お礼の言葉を告げてからは自分で抱きつきに行って頬ずりしまくりになった。



『……羨ましいでやんす。俺っちには、一度っきり!』



 ロティが夢中になってるから聴こえていないだろうけど、レイ君の嫉妬丸出しにはロティ以外苦笑いにしかならなかった。


 けど、一度っきりって言うことは、あったんだ。


 ロティの主としては、なんだか嬉しく思えちゃうけれど。



「なーんだ、レイ。ロティの事もしかして?」


『! し、しーっでやんす。で……シュライゼン様!』


「えー、気になるー」


「追求し過ぎはよせ、バカ息子。長居し過ぎては、ち……チャロナ嬢にも悪い。このくらいで帰るぞ」


「えー、まだ来たばっかりなのに父上いいのかい?」


「風邪は病み上がりが肝心だ。お前もよく知っているはずだが?」


「(づ ̄ ³ ̄)づブーブー」


「それはたしかに。爺めもご用意しましたので、チャロナ嬢。お受け取りください」


「あ、ありがとうございます」



 カイザークさんから受け取ったのは、少し分厚めの本。


 パラっと開くと、中にあったのはレシピばかり。



「王宮で使うレシピを集めた本ですが、何か参考になればと」


「こ、こんな高級なモノをいいんですか?」


「構いやしません。先日いただいたパンがもし世に広まれば、チャロナ嬢の腕が王宮以上ですぞ」


「そ、そんな!」


「! ああ、一点だけ忘れていた。チャロナ嬢、君のパンについてなんだが」



 親子ゲンカ?を無理くり終わらせたアインズ様が、真剣な表情でこちらに戻ってこられた。



「? はい?」


「カイザークの言うように、王宮以上の腕前だ。今はまだこことリュシアの孤児院だけしか知られていないが。……いずれ、世に正しいレシピを広める橋がけとなるだろう。その重荷を背負わせてしまうかもしれないが、代わりに、我が……家も全面的に協力する。どうだろうか?」



 壮大な事を言われてしまったが、私自身その言葉を何故かすんなりと受け止められた。


 おそらくだが、レクター先生に初めの頃に提案されたあの時から。


 前世の記憶と経験。今の世界で培ってきた経験があるからこそ。


 何も無責任に『やってみよう』と言う気持ちは浮かんで来なかった。



「はい。私でお役に立てるのならば、【枯渇の悪食】で失われたレシピ達を再現していきます!」



 一人じゃない。


 ロティも、皆さんもいるから。


 何か役に立つ力を持ってる今なら。


 ひと月前までいたパーティーの時とは違い、進んで前にいこうと思える。


 まだまだ自信がないとこがあっても。


 はっきり告げると、アインズ様の表情も少しずつ笑顔になっていった。



「よし。ならば、孤児院への差し入れはこれまで通りにして。パン作りの指導はシェトラス達以外にも……このバカ息子とカイザークにも指導してほしい」


「o(`ω´)o」


「よろしくお願い出来ますかな?」


「わ、わかりました!」



 人選の理由は分からずとも、一緒に料理を作る経験があるからそこは有り難かった。


 日程はまだ調整するらしく、風邪が治りきってからだって。


 あと、約二週間後には第二回の差し入れもあるから。


 その前には、一度だけでもパン作りに挑戦したいみたい。




「俺も爺やも、チャロナのアドバイス通りに作っても全然だったんだぞ」


「本当に……」


「えっと……具体的にどのあたりが?」


「うーん。焼いてもパサパサだった!」


「……だとすると、発酵のし過ぎかもしれないですね?」


「「発酵??」」



 そんな感じで、帰られる直前まで口頭でのレクチャーをして。


 もういいだろうと、アインズ様が言われてから三人はシュライゼン様の転移魔法で帰られました。



(生徒?がまた増えちゃうけど、頑張らなくちゃ)



 私とロティの錬金術の本質は、世界の人々に美味しいパンなどを食べてもらう事。


 その結果の一つ……とも違うけど、授賞された金の麺棒が部屋の片隅にきちんと置かれている。


 カイルキア様から特別に台を設置されたことで、綺麗に輝いてる麺棒は。


 私とロティの、成果の証でもある。


 だから、あとちょっとでも早く風邪を治さなくっちゃ!



『色々バタバタしてたでやんすし、お茶飲んでから二人とも軽く寝た方がいいでやんすよ?』



 そう言いながら、ささっとお茶の準備をしてくれるレイ君は有能でした。



『リーンはんの事も心配ないでやんすし、マスターがまた知らせてくれるでやんすよ。チャロナはんとロティは、これからの仕事のためにもきっちり休むべきでやんす』


「はーい」


『もきゅもきゅでふぅ〜』


「ロティ、抱っこしたまんまでもいいから寝ようね?」


『にゅ〜?』



 少し前にお昼を食べたお陰か、いい具合に昼寝も出来。


 午後の検診で、レクター先生にももう大丈夫だと改めてお墨付きをいただき。


 先生とリーン様のお祝いは、五日後に開催する事もばっちり聞けました。

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