48-3.謝罪の手紙を書く(アインズバック視点)
*・*・*(アインズバック視点)
もう、翌日になったと言うのに。
俺は未だに、書簡以外のある手紙を書くのに筆が取れないでいた。
「…………なんと、詫びればいいんだ」
昨日判明した、アクシアとマンシェリーの過去をカイザーに詫びる訳ではない。
少し前に、我が弟デュファンとその護衛を務めてる、守護者フィセルとも同席させて決めた計画。
あの見た目だけなら屈強の戦士である、フィセルの息子のマックスと、デュファンの息子に幼少期から仕えてきたエイマーをどうやって婚姻まで漕ぎつけようかというのを。
あれを……あれを、まだカイルキアやバカ息子にも誰にも伝えずにいたせいで。
が、それは計画に絡んでたリオーネの息子が、肝心の二人が計画外でうまくいったからと、その流れで打ち明けてくれたので事なきを得たが。
それでも、娘の心を落ち込ませた事に変わりはない。
しばらく直接会えないから、せめて……せめて手紙にしたためたいのだが、なにぶん初めて娘に手紙を書くからうまく文字が書けん!
「ああああ、もうどうしたら!」
なんで、初めての手紙がいきなり謝罪文なんだ!
たしかに、あの計画は男どもの酔っ払いの席で決めたことだが。
その勢いのせいの、罰か。これは罰なのか!
「陛下。悩まれるのは一向に構いませぬが、執務の方は?」
「終わったから悩んでるんだ!」
「左様でございますか」
まだ一日くらいしか経っていないのに、カイザーはカイザーらしくいつものように仕事の様子を見に来るだけ。
いや、多少なりとも胸のつっかえが取れたはずだ。纏う空気だけが、少し和らいだ気がする。
それはいいとして、問題の手紙!
バカ息子に指摘されるまで忘れてたが、本当にどうしたらいいんだ。
(俺の正体の半分はバレてるから、シュラの父親として……いや、それを前提にしても砕けた口調は良くない。出来ればかっこよく見られたい)
わがままだろうが、父親の威厳くらい保ちたいもの。
今更だと思われようが、まだ父親だと打ち明けていなかいからこそ! 第一印象は大事にしたいんだ!
「ああ〜〜〜〜……悩む悩む」
カイザーは用が出来たのかどっかに行ってしまったし。
ほかの側近や近侍達も何故かいないのでダラけた姿勢でいてもいいが。気持ちまでだらけてはいけない。真剣に書かねばならない事だから。
「…………結構悩んでるようだね、兄さん?」
「! うぉ!? デュファン!」
「拙者もおりますぞ、陛下」
「……フィセルまでどうした」
俺に断りもなく入れたのは、カイザーの仕業だろう。
来訪予定は聞いていなかったが、何かしら用がなければホイホイやってくる二人ではない。
特に、フィセルは弟の守護者でも王族ではないから滅多にここには来ない。おそらく、弟が無理矢理連れてきたのだろう。
それと、さっきの発言を踏まえれば。
「誰だ。シュラが話したのか?」
「正解。唸ってばかりの兄さんがうるさいから助言してやってくれって」
「少なからず、拙者達も関わっておりますのでお力になれればと」
「あいつめ……」
まあ、確かに。
リオーネとサイザー以外これだけ揃えれば、謝罪の手紙もいくらか進むだろうとは思うが。
「しかし、姫様の御心を傷つけてしまったとは……拙者、悔やんでも悔やみきれないです」
「そこまで思い詰めなくてもいいよ、フィセル。僕らも酒の席で勢いで決めちゃったんだから自業自得だけどさ?」
「…………誰が最初に言い出したんだったか?」
「…………拙者でございます」
「「oh......(´・ω・`)」」
だんだんと思い出してきた。
確か、酒の席で愚痴を言い合うことになり。
その中で、こいつの息子がいい加減エイマーに好意を打ち明けないのかと痺れを切らしたのだ。
それについて、俺を含める他のメンバー達も同意して偽の見合い計画を立てることにしたのだが。
それがまさか、急に見つかったマンシェリーにも知られて、計画も壊れる結果になるとは思わず。
俺もだが、フィセルも今相当に落ち込んでいる。
「当初の予定では、フィーガスがわざと喧嘩のように吹っ掛ける事であれの勢いをつけさせるつもりが! まさか、途中で姫様の御心に深く傷をつける結果に!」
「そのフィーガスがすぐにフォローしてくれたから大事にならなくて済んだけど。代表して兄さんが謝罪するよりかは、フィセルが言い出しっぺだから自分で言いに行くって言ってるんだ」
「やめろ。お前の性格上、嘘がつきにくい。マンシェリーに打ち明けるのはあれの生誕日に決めた。その前にこの計画を台無しにさせるのはやめろ。こっちの方が慎重にさせたいんだ」
「! なんと」
「姫に言うの? とうとう」
「……お前達になら打ち明けていいが、他言するなよ?」
扉の外にカイザーがいると見越して、俺はあれから聞いた妻との出来事などすべて話した。
当然、弟もだがフィセルの方は号泣し出したが。
「あ……アクシア様っ」
「義姉上、そんな事が……」
「この事も、いずれはマンシェリーに打ち明ける。だが、まだ他の奴らには言わないでおいてくれ。知ってるのは他にお前達の息子らだが」
「言えないよ」
「絶対口外しませぬ。しかし、神が関わっておいでとは」
「その神からも色々仕組まれてるようだが、追求は出来ないようにされている。今のところ、フィセル。お前の息子が接触に成功しているらしいから、お前はやめておけ。神の名を封じられた以上の出来事が起きてもおかしくはない」
「…………はっ」
そう言いつけておかねば、この脳筋野郎は力ずくでも動きかねないからだ。
神の事は一旦置いておくとして。
問題は、マンシェリーへの謝罪の手紙だ。
「正直に書けば、我々全体の沽券にも関わる。穏便にかつ慎重にしていきたい」
「兄さん欲望丸出しだけど?」
「黙れ。お前もいずれ会うのなら考えろ」
「……やはり、ここは拙者が」
「そこは書くから、行くのはせめてデュファンと同席する場合にしろ!」
息子以上に屈強な戦士の体格でいるのに、考え方は息子よりもめそめそしてる女のようでめんどい!
器が小さいと言うより、戦バカな部分を除くと自信がないと言うかなんと言うか。
とにかく、少し弱気になって色々面倒な男なんだ昔から!
一応、俺やデュファンの幼馴染みではあるが。
「まあまあ、ここまで抑え込むのも僕だって頑張ってきたんだよ? けど、フィセルがこれだけ反省しちゃってるんだから僕らが代わりに謝りに行こうか?」
「……それをきっかけでいいのか、お前は」
「どの道会う予定ではいたんだから、最初がそれでも僕は一向に構わないよ?」
「…………お前がそこまで言うのか」
一番面倒事を避けがちでいるこいつが。
初対面なのに、好印象を与えずに謝罪からでいいと言う事は。
本気で、マンシェリーの心と今後の息子との進展を危惧しているのだろう。
なら、俺も親としてと言うよりも兄として言うべきか。
「わかった。が、俺からも一筆謝罪の手紙は添えさせろ。それを持参して二週間以内に会いに行け」
「二週間?」
「何故、そのような期間に?」
「次にバカ息子が企画してるリュシアへの来訪があるからだ」
「「なるほど」」
「俺はバカじゃないんだぞ、父上!」
途中から扉の外で聞いてたのか、シュライゼンが入ってきて、ついでとばかりにカイザーも入ってきた。
が、珍しく息子の血色が少し悪かったのが気になったが。
「? どうした、血相を変えて」
「マンシェリーが夏風邪引いたんだぞ! 俺、お見舞いに行ってくる!」
「「「!?」」」
「殿下、それは誠でござるか!」
「うん、カイルから報せがきたんだぞ!」
「あれがねぇ……」
「マンシェリーが……」
まだ再会出来て一日も経っていないのに、体調を崩した……だと?
「俺もい」
「兄さんはダメ」
「「なりませぬぞ、陛下」」
「父上は絶対絶対慌てるからダメなんだぞ!」
わかっていたものの、やはり却下されてしまい。
しかも、それならとデュファンが手を叩き出した。
「お見舞いついでに謝罪しに行こう。殿下、我々もよろしいかな?」
「え、叔父上達も?」
「見舞いの品をきちんと用意してからだけど」
「むー……叔父上が言うなら」
「拙者も参ります!」
「…………フィセルは暑苦しいと思うけど」
「∑( ̄Д ̄;)」
とりあえず、フィセルまで行くことになり。
俺は俺で見舞いの品を急遽用意させて、謝罪の手紙も勢いで書き。
三人を見送るしか出来なかったのだった。
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