44-1.熱々ホットサンドを焼こう



「では、まず私の契約精霊をご紹介させてください」



 せっかくなので、カイザークさんにロティを会わせることにした。


 呼ぶのは簡単。おいで、と自分の影に声をかけるだけ。



『でっふでふぅうう! チャロナしゃまの契約精霊・ロティでふぅううう!』



 くるくるるん、とスケートのジャンプのようにくるくる回りながら出てきたロティは。


 私の練習してた最敬礼を真似して、最後にはカイザークさんに向かって服の裾をつまんでちょこんとお辞儀していた。


 それが、ものすっごく可愛くて身悶えしそうになるくらい。



「実に可愛らしい精霊殿ですな? 私はカイザーク=メンゼルンと申します。わかりやすく申し上げますと、こちらのシュライゼン様の爺やです」


『でっふ? おじーしゃん?』


「こら、ロティ!」


「構いませんとも。爺は爺ですから、ロティ殿も遠慮なく呼んでくだされ」


『でっふぅ!』


「すみません……」



 思ったままを言うことも多いロティだけど、見た目相応なくらいまだまだ精神面も幼いから、カイザークさんも許してくださって。


 挨拶の握手を済ませてから、『幸福の錬金術ハッピークッキング』のお披露目だ。



「ロティ、今回はせっかくだから冷めても美味しいホットサンドにするわよ?」


『でっふぅ! ホットサンドメーカーになるでふぅうう!』


「コロン使って、トースターがレベルアップしたもんね!」


「チャロナ〜、どんなサンドイッチなんだい?」


「簡単に説明しますと、温めてパン同士をくっつけるサンドイッチです」


「「「「んん??」」」」



 私とロティ以外わからないのは当然なので、実演してお伝えするのみ。


 けど、先に具材を用意しなくちゃなので、全員で材料を調理台の上に集め。


 肝心の食パンは、波刃の包丁で8枚切りくらい薄く切り取り。



「使うのは白い部分。耳の部分は、私の収納棚に入れておきますので使い道はまた考えましょう」



 と言っても、使い道は大体思いついてるので、お披露目はまた明日。


 時間も限られてるから、大量のホットサンドを作らなくちゃだもの。





 <具のレパートリー>



 ①ソーセージ


 ②スクランブルエッグ


 ③シュレッドチーズ


 ④細切りした野菜


 ⑤スライストマト


 ⑥コロッケ


 ⑦マヨネーズにケチャップ


 ⑧蜂蜜を混ぜたハニーマスタード




 と言った具合に、手分けして準備していきました。


 コロッケは、お昼の残り物をピックアップしただけです。



「では、作っていきますね」


『にゅ! 変換チェンジぃ、ホットサンドメーカー!』



 ぽぽぽぽんと音と煙を立てて、調理台の上に登場したロティの姿は。


 同じトースター、って部類から進化した白いボディでフォルムが可愛らしい、電気式のホットサンドメーカー。


 けど、原動力はロティの魔力だからコンセントもケーブルもない。


 昨日、コロンを注ぎ込んだ途中で表示されたこの機能はまだ試運転もしていないが。


 きっと、美味しいホットサンドが出来ると信じて今から挑戦だ!


 そっと蓋の部分に触れればひとりでに開いて、私は迷わず、前世で見慣れた切り込みの入った天板に食パンを二枚並べる。



「試食も兼ねて、作ってみますね。こうやって食パンを並べて、乗せたい具を適量順番に乗せてからまた食パンで挟んで」



 少し重い蓋をゆっくりと乗せても閉まらない。


 なので、押し付けるように上から圧力をかけたら、引っ掛ける部分まで無理矢理下げて、カチッとはめ込む。


 すると、持ち手の部分が一部透明だったところが淡い紫の光に。


 そして、直後にロティのお決まりの歌も聞こえてきた。


 カイザークさんもだが、シュライゼン様も初めて見るし歌も聞くから、ちょっと驚いてたけれども。



「これで、光……もしくは、ロティの合図があるまでただ焼くだけです」


「ものすごく簡単なんだぞ!」


「こっちを焼く間に、皆さんでも出来る焼き方をお教えします」



 ロティの歌をBGMにしながらコンロに場所を変えて。


 使う道具は、小鍋とフライパン。


 油ではなくバターを引く方法で。



「フライパンを熱してバターを溶かし、先に作っておいたサンドイッチを入れて……この小鍋を乗せて押さえながら焼きます」


「ほぅ、わざわざ鍋で?」


「この焼き方だと、パンの耳を切らなくてもいいんですがそこはお好みで」



 弱めの中火でじっくり焼き目をつけて。


 ひっくり返したらもう鍋は不要なので、あとはフライ返しで様子見。


 これが出来上がる頃に、ロティの方も焼き上がったので同時に試食タイムになりました。



「おお! ロティの方はちょっと力を入れたら割れたんだぞ!」


「この機械はそのために切り込みが入ってるんです。ロティの方は卵とチーズ。私の方は野菜とソーセージ入りです。どうぞ」


『いちゃだきまーふ!』


「「「「いただきます」」」」




 焼き立てあっつあつのホットサンドを皆ではふはふ言いながら食べれば、口いっぱいにジューシーな具材が!





【PTを付与します。



『ソーセージと野菜のホットサンド』

『スクランブルエッグとチーズのホットサンド』



 ・製造各1個=各250PT

 ・食事各1/6個=各15PT


 →合計530PT獲得




 レシピ集にデータ化されました!




 次のレベルUPまであと4792237PT




 】



 作った数も少ないので、PTはあんまりないけどそこはいい。


 初回とは言え、ロティの方だと鉄板で焼いてたから香ばしさがフライパンよりも段違いに凄い。


 フライパンも手作り感があって悪くはないけど、メーカーの方を知っちゃうとこれは大変だわ。



「ロティ。お土産用いっぱい焼くけど、スタミナ平気?」


『にゅ。ちょっぴりじゅつ魔力をちゅかうので大丈夫でふぅう』


「そう?」


「チャロナ〜、フライパンのも十分美味しいんだぞ。俺達も手伝うよ」


「え。でも、私が提案した事ですし」


「構いませんよ、チャロナ嬢。シュライゼン様がおっしゃるようにこの爺めも使ってくだされ」



 と言うわけで、お言葉に甘えて全員でホットサンドを作ることになり。


 コンロも十分あったので、一人一人が思い思いのホットサンドを焼き上げて。


 仕上げに、三角に切ったサンドイッチを蝋でコーティングしたパラフィン紙のようなもので包んで。


 これをたくさんたくさん仕込んでは、お弁当用の籐籠に二セットずつ入れて。


 最後には、シュライゼン様の魔法で小さく縮小して、まとめたのを風呂敷に包んでカイザークさんが持ちました。


 天の声は、全部終わってからまた聞こえてきて。製造だけで合計10000PTはもらえました。



「こんなにたくさんありがとうなんだぞ。君の授賞式なのに俺達がしてもらってばかりで」


「いえ。私が言い出した事ですし」


「本当にありがとうございます。代表もとても喜ぶでしょう。では、シュライゼン様。一度戻りましょう」


「あ、まだいらっしゃるんですか?」


「ええ。少々仕事のことで」


「俺聞いてないんだぞ?」


「すぐにお分かりになりますよ」



 ちょっと疑問が残るお別れになったけど。


 玄関でのお見送りはいいからと、カイザークさんに言われたので裏口でお見送りして。


 その後は、全員休憩という事で、小部屋でロティを入れて四人でパンの耳の使い道を話し合う事に。



「あれだけたくさん出てしまったが、何か提案はあるのかい?」


「お菓子にしようにも、手づかみになるので汚れの具合をどうしようかなぁと」


「ほぅ? どんなのだい?」


「乾燥させたり揚げたりで、ラスクと言うお菓子になりますね。食事にですと、スープに浸してチーズと焼きこむグラタンとか。夜は冷えるので、私としてはグラタンを提案したいんですが」


「いいね! 食事に関わらず君のパンは絶品だし、今夜のメニューにでも」


「エイマー。食べたいのはわかるが、料理長は私だよ?」


「……すみません、つい」



 エイマーさんのはしゃぎっぷりに思わず全員で笑っちゃったけど。


 これからも、ずっとこんな楽しい事が続くんだなぁと思うと。


 笑いで誤魔化したが、少し涙が出たのだった。



(カイルキア様の事もあるけど、あの方の元でずっとパンを作れるのがいい)



 贅沢な悩みが二つもあるが、私は絶対パーティーにいた頃より幸せだと思えた。

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