41-1.白あんぱん作り①
*・*・*
翌日。
いよいよ、私の授賞式の日なんだけども。
本来仕事は朝以降はお休みだけど、私は今厨房にいた。
「使者の方にも、是非パンを召し上がっていただきたいんです!」
ただ感謝状をもらうだけではよくない。
昨夜寝る前にその事を思いつき、朝食の時にカイルキア様に許可はいただけた。
そこから、最敬礼の特訓も頑張って筋肉痛をレクター先生に治していただいてから、お昼前に厨房でそう言い放つ。
使者の方がいらっしゃるのは、どうやらおやつ前なので焼くのは今のうちにしか出来ないから。
「私は、てっきりいつものバターロールとかをお出しするのかと思ってたけど」
「食事なら、ですけどね。おやつになら、クリームよりも私の故郷……ホムラと日本を掛け合わせたパンを作ってみたいんです」
「なるほど。チャロナくんはホムラで育ったからこそ、ホムラのお菓子と今のパンの技術を組み合わせれば」
「きっと、喜んでいただけるかと思います」
だから、作ろうと思ってるのは『あんぱん』。
ただ、小豆がこの国にはないので、代わりに手に入った『花豆』を使った白あんぱんでいくつもりです。
「生地を作る前に、餡子作りです」
『あんぱん〜あんぱんあんぱん、あんぱん!』
ロティも喜んで飛び跳ねるくらいに、私もあんぱんは大好き。
だからこそ、使者の方にも喜んでいただきたいので、慎重に進めていく。
花豆は、この世界でも花柄のように見えることから同じ呼び名で、見た目も皮の厚みもそっくり。
これをよく水で洗い、大きい寸胴鍋で水と一緒に煮立たせる。沸騰したら、フタをしてしばらく放置。
そうすると、ぬるま湯くらいに下がったお湯から、ふやけた白い豆が出来上がる。
「これを水につけて、皮を剥く作業を皆さんにお願いします」
『俺っちも?』
「うん、お願い」
今日もロティへの好感度を増やすべく厨房に参加してるレイ君のほっぺには、赤い痕がある。
あれ、どうやら
契約精霊は、基本的に契約主の側にいなきゃいけないらしいからだって。
いくら好きな相手のためとは言え、本分を忘れちゃいけないとも。私にきちんと許可を申し出たから、ほっぺにグーパン一発で済ませたらしいけど。
とりあえず、冒険者の仕事がない限りはロティの側にいてもいいとの許可はもらえたみたい。
ロティがそう言う事を知らなくても、レイ君といるのは好きなのか花豆をはいどーぞと一個一個渡してるのは、見ていて微笑ましい。
ロティ自身の手じゃ、柔らかく煮てあっても皮を取るのは無理みたいだから。
「ロティ、生地作るよー?」
『あいでふぅ!』
けど、ずっと一緒にさせておくと私が困っちゃうのでここまで。
レイ君もあんまり気にしてないのか、一生懸命に花豆の皮を剥き続けていた。
「酒粕とかはないけど、菓子生地で作るよ!」
『でっふぅ!
ただ、普通の菓子生地とは違う作り方でいく。
生地の粉には強力粉以外に米粉をブレンドして。
水よりもぬるま湯にしたのを加えてドライイーストと卵も入れる。
これが馴染むくらいに混ざったら、バターを入れてまとめていく。
表面が滑らかになったら、いつものように一次発酵させます。
(…………今も思うけど、
昨日、フィーガスさんの魔法で模様替えさせていただいたとは言え。ロティの変身した家電はとにかくでかい。
今までのも、ちょっと大きい家電だと思ってたのが、お店で使うような業務用サイズに。
これで、昨日悠花さんと確認し合ったように、機能が更に充実したらどうなっていくのか。
今から楽しみで仕方がない。
だから、
「ロティ、いくよ?
『でっふ、でっふぅ!』
時短とコロンを稼ぐために、まだまだ慎重になる
バナーを二個表示させて、片方はタイマー機能として。
もう片方を時短のために倍速に調整してから、ゆっくりと重ね合わせる。
一瞬フラッシュがたくように光ったが、消えると自然にロティのフタが開いた。
「ロティ、大丈夫……?」
生地は問題なく膨らんではいたけど、ロティの返事がすぐにない。
が、生地を出した途端、ぽんっと音を立てて元の姿に戻った。
『うにゃ〜、ちょっぴり疲れたでふ〜』
「な、何かいる?」
『にゅ。お水ほちーでふ』
「わかった」
喉の渇きくらいなら、スタミナの減り具合も100はきっていないだろう。
すぐにコップに水を入れて渡してあげれば、くぴくぴっと一気に飲み干していく。
『ごちしょーしゃまでふ』
「もう大丈夫?」
『あい。
「ん? ねえ、ロティ。これまでもスタミナの消費あんまりなかったのって」
『食べてちゃので、すぐ回復したからでふ』
「そっか」
けど、まだまだ複合は慎重に使っていこう。
ロティのレベルが上がっても、スタミナの量が増えても。
なにかがあってからじゃ遅いから。
とりあえず、慎重に行くと改めて決意してから分割とベンチタイムと行きたかったが。
思ったよりも花豆の皮むきに時間がかかってるようなので。
今まで使ってなかった、生地の発酵止めになる
すぐ作る分にはいいが、発酵させ過ぎると美味しく焼けないのもあるので冷やしておくんです。
これは、パン屋に勤め出した頃に教わった方法。あと、成形して冷凍させておくのもいい。
やり方は、分割して軽く丸めた生地を専用の鉄板に均一になるように並べて入れておくだけ。
初めて使うので、またロティのスタミナが気になったが、数時間ならあんまり減らないらしいから大丈夫だった。
「餡子作り、出来上がった分からしていきますね!」
ただ、せっかくなのでシェトラスさんは覚えるからと、一緒にやることに。
「今度は、剥いた豆の中身を少なめの水で煮ます」
「すぐ減ってしまうんじゃ?」
「時々差し水をするので大丈夫です」
理由はちょっと覚えていないけど、蒸発した分の水を最初に入れ過ぎると煮えにくいだったかな?
沸騰してきて、お湯が減ったら少し差し水。
それを数回繰り返せば、豆の原型がなくなるくらいにどろっとした仕上がりに。
豆によるが、この豆は中心がニュルッと潰れて他は煮崩れしやすいタイプだった。
「豆の形は残らなくていいのかな?」
「今回の豆だと、口当たりが滑らかになるのが美味しいんです。あと、食感を加えるのに
「ああ、なるほど。
それを加えるのはまだ先だが。
餡子を仕上げるのに、まず鍋の中で粒を適度にヘラで潰し。
この裏ごしの時に少し水を入れるとやりやすくなるのがコツだ。
「これでもまだまだ粒は残っているので、水を入れて沈殿させます」
そうして出てくる上澄みを捨ててはまた水を入れて、裏ごして、また上澄みを捨ててを三回ほど繰り返せば。上澄みも澄んで綺麗になったので、ここからはシェトラスさんの手を借ります。
「晒し布に、豆を入れて水気を絞ってください」
「任されたよ」
とにかく限界まで絞ってもらった中身は。
日本人には見慣れた『白あん』の原型が出来上がっていた。
「この状態を、日本のお菓子業界では『生あん』と呼ばれているようです。ここから甘味を加えていきます」
「ふむ。奥深いねぇ?」
この作業が出来上がった頃には、レイ君とエイマーさんの作業も終わったので。
今日のおやつ分も作ろうと、全部白あん作りをロティ以外の全員で取り掛かることに。
特に、レイ君は力仕事じゃ大活躍だった!
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