27-2.想いはここにも(レイバルス視点)








 *・*・*(レイバルス視点)







 どこもかしこも、『恋の実り』でやんすねぇ。


 マスターもなんとかうまくいったようでやんすし、チャロナはんが気にかけてたお嬢さんの方も。


 後者は、たまたまでやんすよ?


 透化してた際に、気晴らしに厩舎の近くを通ったら……でやして。



(夏なのに、春うららか言うんは、こう言う事でやんすかぁ……)



 日差しも適度に温くて、風もいくらか吹いている。


 日向ぼっこしながら、昼寝するにはもってこいの天候でやんすけど。



『しょーじき、腹の中はもやもやでやんす!』



 透化はしつつも、裏庭より少し奥の原っぱみたいな敷地でぐでんとねっ転がる。


 そして、思いっきりジタバタする!



『なんでやんすか! なんでやんすか! どこもかしこも恋ってぇえ!』



 叫ばずにいられようか? いや、いられまい!


 ごろごろ、ごろごろ寝転がって、尻尾をびったんばったんしまくって、息も切れた頃にようやく寝そべった。



『…………皆はん、羨ましいでやんすぅ……』



 マスターもでやんすが、エピアのお嬢ちゃんもどっちも思い合ってたのにめでたく結ばれて。


 あと一人、王女様ことチャロナはんも。実は婚約者にさせられてるとは知らずに、そのお相手さんのカイルの旦那に惚れかけてて。


 あれは、いずれチャロナはんに真実を告げればトントン拍子に進むはず。旦那の方も、なんだかんだで今の王女様のお人柄を気に入られている感じでやんすし。


 その中でも、俺っちだけ除け者扱い!


 こんな甘ったるい空気満載のとこに居ても、居た堪れないのは承知でやんすけど!



『う〜らやましぃ〜〜!』


「ふむ。そちにも、想う相手がおらぬわけではないように思えるが?」


『そりゃいなくもな……い、でやんす?』



 今、さらっと割り込んできたのは?


 それに、自然と俺っちの心情を読み取ったような質問。


 まさか……まさか!と、寝そべってた身体を起こそうにも、背中に急に重みを感じて起き上がれなかった!



「これ。急に動くな、せっかく座り心地の良い敷物であったのに」


『俺っちは敷物…………じゃ、って貴方様はぁああああ!?』



 無理矢理首だけ動かして背中を見れば。


 声に出して驚くのも当然なくらい、今ここに居てはおかしすぎる御方がいらしたのだ!



「息災のようだな? 今は、雷公のレイバルスと呼ばれてるモノよ」


『な、ななななな、なんで、こちら……に?』


「何、ちとあるモノの様子を見ににな?」



 櫛を通す必要のないくらい、艶やかな純金の長髪。


 精霊やエルフと似通うくらいの、氷雪の肌。


 そこに埋め込まれたかのような、漆黒の瞳。


 全身を青と白の冒険者風な服装で身を包んでいる。


 好奇心を隠せていない、外見だけならフィーの旦那の実年齢を少し下にしたくらいの、美しい青年。


 が、外見に似合わない老成したような口調は、俺っちに本性の一部を悟らせている証拠だ。



『な、なんでここにいるんでやんすか!?』


「今言うたであろう? 様子を見にきたと」


『俺っち……とかじゃないでやんすよね?』


「それはついでよ。目的は、あの小さき女子おなごじゃ。今日も美味そうなパンを作ってたのぅ」


『チャロナはん……?』



 そう言えば、彼女は言っていた。


 うちのマスター同様に、前世は異世界の出身で。


 どう言うわけか転生と言う形でこの世界に生まれ落ちたと。


 その記憶だけは、先天性だったマスターとはいえ違って、この屋敷に来るきっかけとなった事故の衝撃だったそうだが。



「そう。今はそう言う呼び名であったな? 我が妻の導きとは言え、なかなかに充実した日々を送ってるようではないか」


『つ、妻……って、まさか【女神様】!?』


「はっはっは。そちくらいなら気づいても良さげではあったが。あれが加えた存在に・・・・・・癒されたせいか?」


『うっ……』



 飄々としてて掴みどころがないのは当然。


 俺っちら、精霊を生み出してきた親そのものだからだ。


 つまるところの、『創世神』と言われる存在。


 俺っちのように、魔力溜まりの中に漂わせてた精霊の源を創られた、超超えっらい神様がこの御方なのだ。


 女神様は今はいないが、この方とはご夫婦でもある世界の中でも対と呼ばれる存在だ。




「何。いい傾向であろう。っと、そちが呼吸する度に揺れてかなわん。仕方ないが草に座るか」


『今の俺っちは顕現してるでやんすから』


「そうさな」



 口調だけを除けば、どこにいてもおかしくない冒険者風な青年にしか見えない。


 が、透化してる俺っちを見られるのは当然でも、遠くから使用人すら声をかけてこないと言うことは。この方も、今透化しているのだろう。


 綺麗に刈り取られてる芝生の上に腰掛けられてから、結局は背中を俺っちの胴体に預けてきた。



『なんでこの体勢でやんすか?』


「そちのその姿だと、この方がいいからのぉ。あ、人型になるでないぞ?」


『はいはい』



 元より逆らえる御相手ではないので、大人しく従う事にした。



「チャロナと言ったか。数奇な運命により、こちらでもなかなかに面白い存在ではあるが。真実を知らぬ故に、自身の想いは実らぬと考えているのぉ」


『……ま、そうでやんすけど』



 創世神が仰るように、チャロナはんのこの世界での正体は『セルディアス王家の姫君』。


 あのぶっ飛んだ性格をされてる、シュライゼン王太子の妹君でもあらせられる。


 けど、気づいているのはこの屋敷のほとんどのモノがそうだが。過去の戦争を思うと無闇に口に出来ないのは重々承知。


 だから、最低屋敷の主であり、実は国王の命令で婚約者にさせられてるカイルキアの旦那から言うまで秘密だ。


 最も、チャロナはんはそんな重大な秘密を知らないまま、カイルの旦那には惹かれてるらしい。


 創世神も、ちょろっと様子を見ただけでそこを把握したのか。あるいは、心を読んだか。



「その代わりに、そちの主やチャロナの友の方は成就したか。そちも、先程口にしたように、自覚があるのなら言えばよかろうに?」


『…………生まれたての精霊に言えと?』



 俺っちが、まだほのかに想ってる相手の事すら心を読んで探ったのか。


 それとも、少し前から見てきたのか。


 完全にバレていた。



(それが…………それが、『ロティ』って事に!)



 同じようで、同じではない生まれたての契約精霊の一種。


 むちむちぷりんな、赤ん坊の見た目でやんすけども!


 俺っち、初対面からもろに胸に突き刺さったでやんす!


 たまに触られるだけで、ないとはわかってても心臓飛び出すくらい!


 この間、寝てた時にぽよんと当たっただけでもドキドキもんやったのに!



「構わない。そちのように、気心しれておる他者の契約精霊であればな。兄のように慕われているではないか、その定位置をうまく使えばいい」


『無茶おっしゃいますけど! 俺っちの一番ちっこい人型にしても兄妹にしか見られないでやんす!』


「だが、好いておるのだろう? あれは成長する精霊の一種だ。美しくなるぞ? 主であるチャロナもあれだけの逸材なのだからな?」


『ロティが、もっと成長…………?』



 しかも、創世神のお墨付きなくらい、美女に育つかも?


 ダメだダメだ!


 それが分かると、他の精霊とかにやりたくない!



『ど、どうすればいいでやんすか!?』


「至極簡単な事よ。そちが、主以外で一番近しい存在になってやればいい。最低、チャロナには事情を話せ? 下手にまとわりついては嫌がられるからな?」


『ロティの、近くに……』



 この屋敷にいる間は、マスターを守護する必要がほぼない。


 と言うよりも、エイマーはんとめでたくくっついたからむしろお邪魔虫。


 なら、チャロナはんには打ち明けて、ロティとパン作りの手伝いに居合わせれば!



「心は決まったか?」


『……でやんす!』


「では、儂…………俺のわがまま一個きーて?」


『……………………へ?』



 急に、老成したような口調をやめて外見年齢のような青年を模した話し方に変えてきた。


 振り向けば、表情も少し少年のような幼さを感じさせる、好奇心にあふれた笑顔に。



「俺や妻も、あの子のパンちゃんと食べたいんだよ。お前の知り合いって事にさせて、分けてもらえるか聞いてくれる?」


『な……んでやんすか!?』


「だーって、異能ギフト越しだとあんま味感知出来ないし? ほら、この屋敷の主は人助けする奴じゃん? わざと空腹状態にするからー」


『〜〜〜〜っ、わかったでやんす!』



 元より逆らえないし、助言もしていただいたからには等価交換せねばならない。


 チャロナはんのパンには、それだけの価値があるからだ。


 なので、了承してから離れていただき、わっちはいつもの人型に戻った。



『けど、今日は一応お休みでやんすよ?』


「ここに来る前に様子見に行ったって言ったでしょ? なんか、お前の主や友達の恋の成就を祝して〜で、お祝い作ってたよ?」


『そこになんである意味他人の貴方がぁ!』


「いいじゃん。パーティーなんだから、混じるくらい」



 とかなんとか、透化も解いてぎゃーぎゃー言い合いながら。チャロナはんが今いるらしい食堂に向かう事になったのだった。

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