13-1.シュライゼンの事(シュライゼン視点)








 *・*・*(シュライゼン視点)





 チャロナ我が妹の元を離れてからは、俺の行動は素早かったと思うぞ!


 味見をしまくってから厨房を出て、廊下に出るなり得意魔法の空間転移を展開させて……カイルの執務室に着いたと思いきや。


 到着地点を指定したわけじゃないのに、目の前にカイルが立ってて、即お縄にかけられてしまったぞ!



「なんでわかったんだい!」


「先に魔法鳥を寄越すからだ。詰めが甘い」


「おうふ!」



 我が妹に直接伝えたくもあったが、一応の雇い主であるカイルにも、事前に報せていたのを忘れてたんだぞ!



「それにしては遅かったが……また会いに行ったのか?」


「うむ! ちょうど新作のパンを作ってたようだったから手伝ったんだぞ!」


「シュラ様……そう言っても、カイルには褒められませんよ?」



 同席してたレクターは、わざわざ茶を淹れてから俺の縄を外してくれた。



「とか言いつつ、君こそ苦笑いじゃないかい?」


「まあ、僕とカイルは昔馴染みですから。けど、チャロナちゃんにバレていなくても、王子自ら調理って……」


「そうかもしれないが、孤児院の子達にも振舞っているとも!」


「…………あそこのマザー達がよく許しているな」


「むふふん!」



 亡くなった母上直伝の料理の数々は、あの子達やマザー達にも評判がかなりいい。


 はじめこそは、マザー達に渋られてもいたが、実際に食べてもらってからは子供達に群がられ、思わず転けてしまうくらい抱きつかれた。


 以来、たまにしか行けないが我が妹に行ってもらう孤児院を筆頭に、各地の孤児院で振舞っている。


 レシピは王家秘蔵のものではなく、母上の故郷のものであるから問題はない。


 それはあの方が、生前ずっと願ってた事だから。



「母上の願いを叶えられるのは、今のところ俺しかいないからな! 王位を継いでも続けるんだぞ!」


「え、出来ます? そんな無茶」


「が、こいつが一度口にした事は何がなんでも実行するだろう」


「だよね?」


「えっへん!」


「「褒めてない(ません)」」


「ハモらないでくれよ!」


「そこに妹まで巻き込んでるからな?」


「あ〜…………」



 狙ったわけではないが、事実上カイルの言う通り。


 チャロナマンシェリーの協力を得る事は、まさしく巻き込んでるのと同じだ。


 俺としては、本当に……本当にあのうんまいパンを食べてもらいたかっただけだ。


【枯渇の悪食】で失われたかもしれない以上に、異世界から持ち込んだ料理技術の数々。


 マックスも一応教えてはくれてたが、彼?彼女?は料理人ではないので、チャロナのように異世界の主食は作れない。


 それを、条件が揃って開花した異能ギフトのお陰で、あの子は可能にしてしまった。


 その本人が探しまくってた実の妹となれば、カイルが怒るのも無理はない。


 妹を逃がしてくれて、自身の目の前で、俺達の母上を失った、あの事実を知る者としては。



「け、けど……この前も言ったじゃ、ないか。少しずつ、あの子の功績を積ませないと王宮に迎えには」


「そこはもう承知でしているし、俺の役割もわかってはいる。だが、二の舞にはさせるなよ?」


「それはもちろんさ!」



 我が洗礼名に誓って、あの子をもう二度と失わせはしない。


 だからこそ、父上とも相談し合って後見人以上に『婚約者』と言う形で彼女に守護をつけた。


 他にも、マックスが護衛任務についてくれて何よりだが。



「それなら何よりですが、シュラ様? さっき新作のパンの手伝いをしたと言われてましたが」


「ん。なんでも、菜園責任者から頼まれてたパンだそうだ。生地に練りこんでて白パンにするそうだぞ。結構楽しかった!」


「と言う事は……まだ食べていないのか?」


「うむ! 代わりにペポロンで美味しいサラダとかサンドイッチ作ったのを、食べさせてもらったんだぞ!」


「……何故お前だけが」


「ぎぶぎぶぎぶ! が、がい゛りゅ、ぐるじい!」


「自業自得ですよ、シュラ様」



 自慢した途端、甘い物に目のないカイルが胸倉を掴んで宙に浮かせたんだぞ!


 元冒険者だけに、腕力は半端なくて正直息がしづらい!


 マックスの時は、あれでも多少加減はしてくれたが、俺とは従兄弟同士なので容赦がない。たしかに、叔父上の息子だとは思うが!


 それとレクターはレクターで全然助けてくんない!



「彼女の兄とは言え、あの美味たる数々をお前が先に? 一応の雇い主は俺と言ったが?」


「職権濫用し過ぎも良くないよ、カイル。適当に降ろしてあげなよ。倒れられて、義兄さん呼ぶの大変だし」


「む」


「あ〜ら、や〜っぱり、そいつの妹君だったのチーちゃん」



 救世主!かと思いきや、悪鬼到来。


 無理に首を動かすと、いつのまにか空いてた扉にもたれかかってたのは、さっきまで下にいたはずのマックス=ユーシェンシー。


 契約精霊の姿がないのは、影に潜ませているかあるいは。



「マックス! どうしたの?」


「チーちゃんと作ったパンの差し入れよん。あと、シュラがいるかどうかの確認」


「例の……パンか」



 毛嫌いしてる口調のままなのに、俺を適当に降ろしたカイルは即座にワゴンまで走ってく。


 従兄弟でも、一応は主従関係あるのにプライベートじゃ相変わらず雑なんだぞ。



「ペポロン尽くしなんだけど、これがまた美味しいのよぉ〜。あたしが提案したサラダで作ったサンドイッチもあるけど」


「マックス……ユーカの方で?」


「チーちゃんと一緒だとポロポロ思い出すのよん。前にも話したコンビニとかレストランのメニューで」


「……このサンドイッチ、シュラが言っていたものか。美味い」


「ちなみにそれ、カッテージチーズとレーズン入りよん」



 うむ、あれは実に美味かったぞ!


 俺ももう一度食べたいと駆け寄っても、別にマックスは何もして来なかった。



「むぐむぐ。丸いのはほとんど白パンなのに、ペポロンの味もするんだぞ!」


「ねえ、シュラ」


「ん?」


「いつ、言うの? あの子に本当の家族であるあんたの事」


「…………正直、わかんない」



 まだ再会して間もないが、父上もとても会いたがっているあの子に。


 俺達王家の真実と、その因縁を率直に伝えたところで信じてはもらえない。


 ましてや、異世界の記憶のほとんどを蘇らせたばかりだ。


 余計に混乱を招くだけで済まないだろう。



「…………少なくとも、父上と会わせられる段階で考えるよ」


「…………あのバカ親父、秘密守れんの?」


「そこは大丈夫なんだぞ!」



 なにせ、俺や近習達でコテンパンにしてきたからな!


 それを伝えると、何故か三人とも盛大にため息をついてしまったが。

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