12-5.ペポロンパン実食
本当に嵐のような時間が過ぎ去ったが、二次発酵が終わったらまた分担作業だ。
敷き詰めてた生地を等間隔に移した鉄板の上は、すぐにでも焼けそうだが。
これに私以外の皆さんに、
「この仕上げに、
取り出したのは、同じ
小さいけど、ナイフに変わりないので怪我だけは要注意。
『……切れ目?を入れると何か効果でもあるんでやんすか?』
「フランスパンによく入れてあるのは覚えてるけど……?」
「
『「ほへー」』
他にもふくらんだ時に割れないようにするためもあるんだけど、今回はボリュームを意識させる方向で。
真ん中にすっと切れ込みを入れるだけ。
こうすると、均一にふくらんで美味しそうになるんだよね。粉を振ってもらったとこから順にクープを入れたら鉄板はオーブンへ。
「じゃ、ロティ。お願いね?」
『あい! おいちい、おいちい〜ぱ〜んぅ。
おいちいおいちい〜ぱ〜〜んぅう』
『ぶふ!』
「あらぁ〜随分と可愛いじゃなぁい?」
ロティが歌い出したと同時にレイ君が吹き出した。
びっくりもしたけど、おかしかったのか床でゴロゴロ転がってく。そこに悠花さんが、邪魔だからと足蹴にしてたが。
「ふむ。私はもう慣れてきたが、愛らしいだろう?」
「ね〜? こう言うの聞くと教育番組を思い出すわん」
「なんだい、それは?」
「5歳児までを対象にした、娯楽演劇のようなものねん」
「ほう……? メイミーが喜びそうだ」
「メイミーさんがですか?」
なんで?と聞けば、床に転がされてたレイ君まで『あれ?』と言う顔になってしまう。
「そう言えば……」
「あたしてっきりあんた達が先に言ってると思ったわ」
『でやんす』
「え、じゃあメイミーさん……」
エイマーさんよりも年下だけど、既婚者で子持ち?
この世界の結婚年齢に早いも遅いもないから、そこはおかしくない。
ただ、お子さんの姿が全然見えないのは何故?
「……うーん。色々事情があって、彼女の子供は屋敷にいないんだ。ああ、安心してくれ。預けてるのは嫁ぎ先らしいから、普段の育児は大丈夫だそうだ」
「でも、小さいお子さんなのに……いいんですか?」
「うん。そこは、大丈夫らしい。色々、決まりがあるようでね」
まるで、日本だと共働きで育児を優先出来ないお母さんのようだ。
それが全部悪いわけじゃなくても、この世界で母親の存在を知らない私には、悲しく思える。
今も、そのお母さんが生きてるかどうかもわからないから。
「だーいじょぶって言ってるでしょ?」
「う゛」
頭に重いものが乗っかってきたかと思えば、悠花さんの腕。
全体重かけてないにしても重い!
無理に引き剥がそうと頑張れば、意外とすんなり離れてくれた。
「家庭の事情は人それぞれ。あんただって、今世じゃ色々あったでしょ? そう言うものよ、家庭って」
「君もなかなかに波乱万丈だったようだが」
「あんの、親父がね〜」
どうやら、話題を逸らしてくれてるようだ。
悠花さんのも少し気になったが、自分だけが悲観してちゃ意味ないかと思い直し、ひとまずロティ以外は後片付け。
途中、レイ君にはラスティさんを呼んできてもらうことになったが。元の姿に戻ってからの壁抜けって凄かった。
あれ、悠花さんや他の人が乗っても可能みたい。
『ぷぷぷっぷぷ〜出来まちた〜!』
レイ君が帰って来る頃にちょうど焼き上がり、蓋を開ければほんのりかぼちゃ色の美味しそうな白パンが。
クープを入れたことで、たしかにボリューム感がすごい!
だけど、300個以上も常温で置いておくわけにはいかないから。
「『無限∞収納棚』、クローズ・イン!」
ちょっぴり恥ずかしい詠唱だけれど、最後の言葉を力強く言えば、鉄板に積み上げてたパンが瞬く間に消えた。
そして、すぐ後に目の前にステータス画面に似たディスプレイが浮かび上がる。
【『無限∞収納棚』
・
・ペポロン入りの白パン(50個)<状態:焼き立て>
】
無限に収納出来るとはロティが言ってたけれど、今のところ入れる必要がなかったから役に立って良かった。
「『「へ〜〜〜」』」
あ、全員驚くのも無理がない。
エイマーさんの前でも、この
「と、とりあえず……食べる以外のは私が仕舞うので、運ぶのお願いしてもいいですか?」
「あ、ああ。と言っても、マックス殿もいるから100個は必要だな?」
「あたしそんな」
『食うでねーでやんす、ぶっ!』
「あんたはだーまらっしゃい!」
コントはさておき、結構必要だと分かれば200個だけは収納棚に。
他は手分けして、並行して作ってたサラダとスープも食堂に持って行けば準備完了。
来客は、今日はラスティさんとエピアちゃんだ。
「うっわ〜〜〜ほんのり黄色のパン、可愛いね〜〜? 他にもなんかいっぱい〜」
「……………………う、わ……これ、全部……ペポロン?」
「いらっしゃいませ、お二人とも」
たしかに、おやつタイムにしては結構豪勢にし過ぎたかも。
けど、材料を無駄にしたくないし、依頼してくれた相手からの提供してくださった作物だもの。
今回は皮は処分したが、次回からは有効活用する予定ではいる。
全員席に着くと、元に戻ったロティは料理達を前に羽根をピコピコさせていた。
『おいちしょー、おいちしょーでふぅご主人様ぁ!』
「味見色々したから後でね?」
『あい〜』
ここまで、パン以外の味見で得られたPTもまたバラバラだった。
・カッテージチーズ入りペポロンサラダ=18PT
・同じサラダにレーズンを加えた簡易サンドイッチ=37PT
・ペーストたっぷりポタージュ=14PT
一桁が5の倍数以外の表示は多分初めて。
確認しようにも、今は試食会だから後の方がいい。
「うわ〜〜〜〜、モチっとしてて可愛い〜〜」
ラスティさんが手に取ってくれたのは、メインのペポロン入りの白パン。
エピアちゃんは前髪で目が隠れててもじっと見つめてるのがわかるくらい固まってる。なんだか、可愛い。
「焼き立てをご用意しましたので、バターをどうぞ。お好みで、ジャムも」
「うん、僕は〜、せっかくだからバターで」
そこからは、凄かった。
半分に割ったのに豪快にバターをつけたかと思えば、あの細身からは考えられないくらいの、大口でペロリと!
「う〜〜〜〜ん! ほんのりペポロンの甘みがあるけど、美味しい! これ、毎日でも食べれそう! バターも合うんだね!」
そして、バターとジャムも試しては……あっという間に10個も。
知らなかった、私とロティは思わずお口あんぐり。
「ね〜? 言ったでしょ? あたしより凄いって」
「……食べ方、はだけど」
「否定してよ、チーちゃん!」
とか言いつつも、自分も10個くらい確保してるから。
「……………………すっごく、すっごく美味しい」
エピアちゃんからも合格点がもらえたことで、夏場のパンに加える事に決まりました。
【PTを付与します。
『ふわもちペポロンパン』
・製造300個=1500PT
・食事3個=30PT
レシピ集にデータ化されました!
次のレベルUPまであと10056PT
】
私も食べた時に気づいたけど、やっぱり味見し終わった後に食べたものはPT化されないみたい?
それも後でロティに聞こうと思った。
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