11-3.恐慌期の一部
(酷い、酷過ぎる……)
これが、過去に起きた事でも。
(こんな事態が……過去に本当にあったなんて)
枯れ草やその根っこならまだいい方で、少しでも水気を帯びた土があれば口の中を潤す為に、躊躇わず口に入れる人らしき姿。
男か女か、若いか年老いてるのかも痩せ細ってわかりにくい。
それが一人や二人じゃなく、あちこちにいるんだから尋常じゃなかった。
(ここから、どうやって持ち直したの……?)
けれど、その疑問は
「ちょっと、チーちゃん! 大丈夫じゃないにしても返事して!」
『ご、ご主人様ぁ〜〜!』
気がついた時には、焦った悠花さんの顔が近くにあって驚いたが、すぐにみぞおち辺りに強烈な衝撃を受けて咳き込むところだった。
原因は言うまでもなく、ロティだ。
『ご、ご主人様がぁあ〜〜、いちゅものレベルアップとちじゃう゛んでぇえ〜〜、ちんぱいでちんばいでぇえええ!』
うん、わかったよロティ。落ち着こうか?
と声を掛けたくても現在進行形で、彼女の馬鹿力でしめつけられてるので言葉にならない。
そこを見兼ねてくれたのか、悠花さんがすぐに引き剥がしてくれたけれど。
「で? 何があったのよ?」
「……見え、たの」
『「見えた?」』
「…………枯渇の悪食で起きた、大飢饉の風景だと思う」
まだ今さっきの出来事だったので、見えた風景の大まかな事を二人には伝えられた。
信じられない事だろうけど、現代社会ならともかく魔法やモンスターが普通なこの世界じゃあり得ない事じゃないから、悠花さんも特に疑わなかった。
「んー……過去の記憶って言っても、この世界の恐慌時期が見えるって不思議ね。ロティちゃん、これはどう言う事なの?」
『にゅ〜〜、アップデートの効果かもちれましぇん』
ロティはまだみぞおち辺りに抱きついたままだが、力は加減してくれていた。
『おふちゃりがお聞きしちゃいこちょは、全部はまだ無理でふぅ。ナビレベルの関係もありゅので』
「けど、これからもチーちゃんにああ言う事が起きるの?」
『……あい。ロティはただのAIにゃので、システムを動かせるだけでふ』
「「……そう」」
ロティでもまだ無理なら、これ以上追求しても無駄だ。
「それにしても……レベルアップの度に意識を閉ざされそうな状態は危険じゃないっ」
「うん、この部屋とかせめて事情を知ってる人達の前でやるようにはしてるよ」
「なら、よろしい」
少しでも安心してくれたのか、悠花さんはやっと私からちょっとだけ体を離してくれた。
女言葉で話してるから、時々忘れがちになるけど。この人見た目だけは大勢の女性が集まりそうなくらいのイケメンさん。
少しだけだけど、前にカイルキア様に揺すられた時とは別の意味で、ドキッとしました。でも、ほんの一瞬だけ。
「それは置いとくにしても……ロティちゃん、ちょっと変わったわねぇ?」
『でっふ!』
悠花さんに言われてようやく私の前に浮かんできたロティは、たしかに前のイヤリング以外ところどころ変わっていた。
「か、可愛い……」
ちょっと大きくなってる気もするが、装飾があちこち増えて……ブローチ? 服も色味がついて可愛い。
元の服だった、ギリシャ神話のような白いドレスに眼と似たような紫の布地が増えて。フリルもたっぷり。
胸元には、濃いピンクの宝石で出来たようなハート型のブローチ。
ふわふわの髪は、前は首元までが肩まで伸びて。
ちょっと別人?じゃないかなって思いました。
「レベルが1だけなのに、この変化ね? ロティちゃん、AIのレベルって最高いくつ?」
あ、私そう言うのは全然気にしていなかった。
『んちょ……最低なら、50でふ。限界値までは、ちょっとわかんにゃいでふ』
「けど、そこに行くまでもPTは随分いるって事ね?」
『でっふ! あ、複合以外にもぉ〜、ちょっと便利な事出来まふ』
「「何々??」」
両手を口に当てて、ふふっと笑う可愛い妖精に気になって近づけば。
ロティは一回だけくるっと回ると、そのまま床のラグマットに立つかと思えば……そこに見えてた私の『影』の中に吸い込まれるように消えてしまった。
「え⁉︎」
「あら、契約精霊なら普通のことだけど……ロティちゃんはレベルアップしなきゃ使えなかったのね?」
『でっふぅ!』
すぐに顔だけにゅっと出してから、ロティはすぽんと出てきて私の肩のところに座った。
ちょっと大きくなっても重さは変わらないみたい。
『入ってたら、
「ますます、契約精霊への擬態化ね? そうだわ、あたしのも見せてあげようかしら」
「あ、レクター先生が言ってた!」
「ええ。武器もだけど、セットで契約したのが一体ね。出てきなさい?」
少し強めに悠花さんが指を鳴らせば、何故か少し離れててと言われたのでベッドまで下がった。
『……ふぁ……なーんすか、マスター?』
悠花さんの影から、電流を帯びた球体が浮かび上がってきた。
離れてるからか、当たりはしないけど、感電でもしたら即死かもって思うくらい。悠花さんは契約主だからか全然涼しい顔してるけども。
「紹介したい子……てか、あんたは見てたでしょ? あたしの後ろにいる二人にちゃんと挨拶でもしたら?」
『あちゃー、バレてたでやんすか?』
球体のままの、悠花さんことマックスさんの契約精霊さん?くん?は、これまた独特の口調で謝ってた。
影に隠れてたってことは、このお屋敷に到着してからずっと?
「全開はダメだけど、この子達になら正体を見せてもいいわ。あたしがこの口調でいるのがいい証拠でしょ?」
『でやんすねぇ。マスターと同じ故郷、パンの腕前はピカイチ。おまけに、俺っちと同等かもしんねー不可思議な契約精霊とあっちゃぁ』
そう言い終わると、球体から手足のようなのが伸びてきて、あっという間に部屋の半分を占めちゃうくらいの巨体になってくのでロティと呆然としちゃった。
『お見知り置きを。俺っちはマックス=ユーシェンシー様の契約精霊……雷公のレイバルスと申しやす。気軽にレイとか呼んでくだせぇ』
『でっふ! ロティでふぅ!』
「ひぃぇええ」
白虎じゃなくて、銀の毛並みの大虎ってありなんですか!
「あら、やっぱチーちゃんにはこれでも迫力凄いみたいね? レイ、せめてロティちゃんくらいになってくれる?」
『……はじめからそう言ってくだせぇ』
「だって、最初に本性見せとかなきゃ。ギャップでカレリアの時みたくなるでしょ?」
『…………そうでやんしたねぇ』
私だけ呆気に取られてると、お二人?は何か話してて、レイバルス様……さん?くん?はため息を吐くとぶるっと身を震わせて煙をポン!
『これでええです……?』
ほんと、一瞬の出来事だったけれど。
あれだけの部屋を占めるくらいの巨体が。
最初の球体よりは断然大きいけど、1メートルサイズの銀の虎に変わってしまった。
「か……かっこ可愛ええ!」
『でっふぅ?』
『むぎゃぁ⁉︎』
思わず、前世の方言丸出しになって、レイバルス様に抱きついて行った。
「あら、チーちゃん前は関西人だったの?」
「ううん、母親が関西だからうつって……って、言うかこれ女の子夢中になるよぉ!」
銀の毛並みはロティと質感は違っても、ふわふわもこもこ。
ぷにぷに肉球は一度触ったら離れられない。
顔はさっきは牙がすっごくて怖い印象だったけど、今は子虎サイズだからか、少しキリッとしつつも愛らしさ全開。
夢中になって、ロティをサンドイッチしたまま抱きつくとも!
「でっしょー? そのサイズカイロにもなるから、冬場は二度お得よ」
『ま゛ますたぁ……だずけっ』
「「あ」」
ロティはきゃっきゃしてたけど、レイバルス様は限界だったみたいで。さすがに泡を吹きそうだったから離しました。
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