第1話「フォート・ラグダ攻防戦(前編)」
フォート・ラグダ
大昔に墜落した
隕石落下によってできた
かつては先住民の土地。
アメリカ陸軍騎兵隊が利用するまでは、
だがそれを
そんな系列のある特殊な土地。
この地に生まれた老いた
老婆は言う。
「愚か者どもよ。……時は満ちた。じき
かつて、この地を奪い──汚した侵略者どもに思い知らせるために──。
すでに時は熟し、
そしてなにより、
「あの『石』があるとは、な……これも
いずれ来るその時……それは近い。駒は揃い……あとは、愚か者どもに大地の裁きを下すのみ──。
老婆の
※
一方、場面は変わってフォート・ラグダの
ここ最近まで無人だったというが、それも最近までのこと。
その要塞は、かつては先住民との戦いの拠点として築かれていたが、その戦争の終結とともに
かつては、隕石の衝突跡を利用した重厚な壁を持つ外敵を寄せ付けない難攻不落の城塞として活躍。
広大な内部の土地は水を貯え肥沃な大地で、この地では珍しい草地を形成しており、
そのおかげか、内部に籠って外壁を城壁とすれば、何年と立て籠もることができる理想の要塞といわれていた。
とはいえ、外壁までは利用していたのは大昔。
今は広大に過ぎて、実際に機能しているのは要塞の一部施設のみ。
それとて、かなり前に放棄されていたため所々崩壊しており、今となってはタダの廃墟……──、
──となっているはずであった。
そう……
だが今は──。
パパパパッパン!
ドォン! パン、パーーン!
激しい銃撃戦の舞台となっている。
砦の址に
いかにもカウボーイだとか
皆
その銃は種類も様々。
古めかしい様相のライフルもあれば、洒落た形のリボルバーもある。
分かっているのは雑多な武器ばかりで、銃撃の統制も取れているとは言い難い。
対して、
砦に籠るその集団に外から攻め込んでいるのは、あのブラウンシティでダラダラと酒を飲んでいた男達。
そこに加えて、さらに多数の荒れくれ者が混じっている感じだ。
見た目は要塞内の
「
あの酒場でカウンターに座り、一人でウィスキーを舐めていた男に、同じく酒場でカードに興じていた男の一人が怒鳴り声をあげて近づいてくる。
「ガルム
銃撃を避けるため荒野に生える堅い下草に身を潜ませて、だ。
「こっちだ」
ウィスキーの男……ガルムと呼ばれた男は姿勢を動かさずに、声だけで呼ぶ。
それに気づいた男が滑り込むようにガルムの
「奴ら、待ち構えていやがった! 先駆けの
「気にするな。
酒場にいた時とは異なる、渋い雰囲気を出す
テンガロンハットの下の顔は精力的な目つきだが、やはり歳を感じさせる。
ヒゲだらけの四角い顔は、ヒゲ同様に燃えるような赤髪。だが年齢相応にそれらに白いものが混じり始めていた。
日に焼けた褐色肌の体つきは大柄と言うよりも──がっしりしている、とでもいうのだろうか。
体格はよく、覇気もまた……若々しい。
「酒場の店主が通報したか……軍のあの女少尉が何か
ガルムは、ニィィと口だけでニヒルに笑うと、
「見ろ!
拳銃の銃口で帽子の鍔をヒョイっと持ち上げると視界を広げる。
ついでに二丁に持ったもう一丁の銃で要塞方向を指向し、男の注意を向ける。
言われて、そちらを注視する男。
「ほ、本当だ!
「いーや、たまたまさ。ま、出たとこ勝負だ──。……おっし、いくぞっ!
「
元気よく答えた
それを見送りつつも、
まだ一発も撃っていないのだから、6発全て入っている。
更にもう一丁を構えて確認。
コルト社製の、安心と信頼の設計───コルト:シングル・アクション・アーミーだ。
通称「コルト
撃鉄を起こして──引き金を引くという単純な
それは最近の
その分、機械的信頼性は高い。
「
「よーし、バイトども……俺に続け──」
ズラリと並ぶ男達の顔をチラリと窺うガルム。
「「「
「今日こそ、賊を根絶やしだ──『ビリィ・ザ・サーカス』の一味を討ち取れぇぇ!」
「「「
ここで景気付けに「ドカン!」と一発、空に撃ちたいが、……せっかくできた戦場の隙間だ。
これを、みすみす
「突っ込め、
「「「YEAAAAAAAA!!」」」
「うおおおおおおお!」と、年甲斐もなく駆けだすガルムに続いて、保安官補佐達が後に続く。
「「「ヒィィヤァァッッハァァァァ!!!」」」
雄たけびを上げて、短い草丈から飛び出す男達。すると、たちまち銃撃が指向されるが──思った通り数は少ない。
フォート・ラグダ要塞の側面──崩れた壁から忍び込もうとしていた
おかげで、ガルム達への反撃はほとんどない。賊は思ったより数は少ないのかもしれない。
「内偵の
走りながら保安官補佐は言う。
「当然だ。一ヶ月もあの臭い酒場に張り付いていた成果があったってもんよ」
中々口を割らない店主に
「あの女軍人──……一日どころか、5分で聞き出しやがった」
くそったれが、と唾を吐きつつ、軍と
「
ケケケと、減らず口を叩く保安官補佐。こいつは近隣の街からかき集めてきたお手伝いの一人だ。
まぁ、その分命が安くていい。
ついでにチンピラどもの
「うるさい。てめぇも年を取りゃ、こうなる」
コリコリと銃口の先で顔のソレを掻くと、古傷が目立った。
ピクピクと引き攣ったように動くそれは、実に生々しく……男の顔を印象付けた。
「おーこわ……! 流石は
「は! 噂だ噂……狼じゃねぇ、コヨーテだよ」
フッとニヒルに笑うその顔。嘘を言っているようには見えないが、こういった場に合わせたジョークだろうか。
「ぎゃははははっ! これから
「口の減らん奴だ────っとぉぉ、来たぞっ!」
ピシュン! と空気を切り裂く擦過音。
正面の扉は閉鎖されているが、木製の簡単なモノ。力づくで破るのは
……それよりも、その門を護る様に固めている出城のような
「敵、櫓に1──頭を出させるな!」
ハンドサインで、サササッと、指示をするとガルム側のライフル持ちが停止し、盛んに櫓を撃ちかける。
レバーアクションライフルはこういう時の制圧効果は絶大だ。
ドカン、ドカンドカン! と、連続する音に敵も頭を出せない。
その間にガルムは銃を構えたまま、正面扉に張り付く。
すると、もう一つの櫓から賊の一人がヒョイっと顔を出す。
(遅ぇよ!)
パパパパッパパパパン!!
すかさず連射!
シングルアクションの拳銃をまるでダブルアクションの如く、両の手に構えて連射して見せる。
「はえー! 流石はコヨーテバイター!」
こいつ……これを
「油断するな! 中にはまだ、ウジャウジャいるぞ」
「へへ! その方が報酬も高くなるってもんよ」
ふ……いい心がけだ。ま、ビビられるよりはいい。それよりも──。
「ダイナマイト!」
ガルムが顎でしゃくる様に指示すると、後方から大きな肩掛け鞄を持った保安官補佐が駆け寄り、
「何本で?」
この場においてトンチキなことを抜かしやがる。
「あほぉ! 一本でも二本でもいい早くしろ」
銃の台尻で小突いてやると、そいつは
ガキめ……。
「散弾銃! こっちに来て、穴を開けろ!」
そこにダイナマイトを放り込もうと保安官補佐の一人が近づくと、
パァン! と開いたばかりの穴から銃撃。
「ぎゃああああ!」
無造作に突っ立っていたダイナマイト持ちの男が撃ち倒された。
しかし、撃たれたソイツの手には、すでに火の付いたダイナマイトが────!
「ひぃ!」「に、にげ!」
いっぺんに浮足だつ保安官補佐ども、
「アホォ! ビビったら負けだ」
ガルムは
「うわ!」「逃げろ!」と、門の向こう側でビビッて逃げ出す連中の声が響いてきた。
ほぉら……ビビったら、こうなる!
────ドカァァァァン!
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