第4話 優しさ? 否、それはどう見ても事案である

 銭湯の前にある、小さな公園にはブランコが3台。

 その中心には獅子王・大和が座っており、童心に返っていた。

 隣には誰も……いない。


 身代わりにされて以来、2人の姿は消えてしまった。


 ちなみに、あの日の警察は職務質問が目的だったらしい。

 それなのに殴ったものだから、現在2人は公務執行妨害で手配されているはず。


 一方、大和は違った。

 満足に説明できず…職業を訊かれて無職だと話したら、もういいです、みたいな感じで解放された。


「はぁ……」


 いい加減、貯金が尽きそうで大和は困っていた。

 やはり、ひとり暮らしニートは無理がある。親は荒療治のつもりで100万を与えて放ったわけだが、失敗と言わざるを得なかった。


 大和の好奇心はこのままお金がなくなったら、どうなるんだろう? に向かっており、自分で解決する気は皆無。


 それでも健康の為に日光を浴びようと、こうしてブランコに揺られていた。

 毎日の日課である。

 時間帯は午後2時~3時なので、先客がいることはほとんどない。

 また誰かが来ることもほとんどなく、来ても気に留めなかった。


「……あ」


 だけど、その日は違った。

 ジュースを買いにいった隙に、女のコがブランコに乗っていた。年齢はわかないが、胸の膨らみは始まっている。髪が長くて、可愛らしい。

 まだ小学校は終わっていないだろうに、どうしたのかと大和は悩む。


 そのまま勝手に不登校や虐めを想像し、勝手に共感と同情をして――自分の立場もわきまえず、隣に座る。

 少女は一番端に座っていたので、定位置の真ん中は空いていた。


「……」


 怯えられているようだが、気にしない。

 こういう時、黙っていれば問題ない。変に声をかけるから事案になるのであって、沈黙に徹していれば大丈夫なのだ。


 ――それでも、きみはひとりじゃない。きみは大丈夫。

 

 というメッセージを言外に臭わせて、大和はブランコをこぐ。学校のダンスの授業を思い出し、精いっぱい表現してみる。


「……」


 少女は何も言わず、去って行った。

 気持ちが伝わったかどうかはわからないが、今日ははいいことをしたと大和は満足していた。


 それから、数十分後。


「ちょっと、お話よろしいですか?」

 何故か、警察官がやってきた。


「獅子王大和さんでしたっけ?」


 しかも、名指しである。

 公園の入り口にはもうひとり警察官がおり、その傍には先ほどの少女がいた。


「……はい」


 少女は泣きそうな様子だったが、自分のほうが泣きたいと大和は思った。というか、既に泣いていた。


「……誤解、なんです」


 そうして、24歳の男は泣きべそをかきながら拙い言葉で弁明を始める。

 今度こそ、自分の人生が終わったと思いながら――


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