第2話 レイプから始まる恋? 否、それは非道なる魂の殺人である
「お久しぶりでーす」
約1ヵ月ぶりにアルセーヌは公園に姿を見せた。
「やぁ、アルセーヌ。以前言っていた、ビジネスは上手くいったのかい?」
ユーリーが軽い口調で訊く。
「聞いてくださーい。それが駄目でした」
そりゃそうだろ、と大和は内心でツッコんだ。
「4人ほど送ったのですが、使えなかったみたい」
「わお、4人も?」
「えぇ、いとりはいかれて倒れてたところをいろいました。だから、ワタシ神様のふりしたけど騙されなかったでーす」
「他は?」
「整形やっぱ難しい。さっきのいとと合わせてふたりも死んじゃいました」
「残りはふたりだね」
ゲームの残機のようにユーリーが言う。
「いとりは全然、使えなかったそうです。だから、お魚の餌にしかならなかった言われました」
「最後のひとりは?」
「そのいと、すごく頑張ってたそうです。みんな、おめてました。真面目で休まない。でも、誰とも話さなかったそうでーす。そしてあるい、いきなり海に飛び込んで死んじゃいました」
意味がわかりません、とアルセーヌは嘆く。
「アルセーヌ」
だが、大和には理解できていた。
「それはジャパニーズkarōshiだよ」
だからドヤ顔で答えを教えてあげる。
「おー、これが噂のkarōshiですか? ピュッテ~ン信じられない」
「ヤマトはいつも鋭いね」
ユーリーにも褒められ、大和は気を良くする。
「やはり、言語の壁は大きかったか」
「そうですね。思えば、ワタシの知ってる異世界転生、何故か言葉一緒でしたー」
「なら、駄目だね。日本語が通じるの日本だけ。でも、日本は狭いからすぐにバレる」
この仕事は諦めろと、ユーリーは優しく慰める。
「大丈夫です。次の良いこと考えてますから」
「良かったら、教えてくれないか?」
「いいですよ、ユーリー。これはにおんの女のコから聞きました」
まさか今度は携帯小説か? と大和は疑うも、
「レイプから始まる恋もあると」
もっと駄目だった。
「それは本当かい? アルセーヌ」
「おんとうです。大事なのわ、1回だけじゃなくて、何回もめげずにやることだそうです」
「そう言えば聞いたことある。同じことを何度も繰り返されると、疲れて抵抗できなくなるって」
知っている話題だったので、大和もここぞとばかりにしゃしゃりでる。
「脳の抵抗疲労。1年間に1500回以上」
その昔、告白で試そうと思ったがその前に捕まると判断して封印した知識である。(実際は1回で気味悪がられ――2回目拒絶、3回目は泣かれ、4回目はなかった)
「ピュテンっ。そんなにも出せないでーす」
「いや、それは言葉の場合だから。行動に移せば……数回でいけると思う」
エロ漫画理論でいけば1回で充分、と大和は内心で呟く。
「それなら、いけそうです。ワタシ頑張って、におんの彼女手に入れます」
「彼女? アルセーヌ、ビジネスではないのかい?」
ユーリーが素朴な質問をした。
「お仕事大事です。でもその前に、安全に暮らせる場所が必要なんです」
「大変そうだね、アルセーヌ」
「ワタシ指名手配中ですから。それに先月、いろいろ無茶やりました」
冗談だよな冗談――と、大和は自分の脳を騙す。
そのくらいなら、1年どころか1秒で事足りた。
「だから安全な場所、おいしい食事、シュポインシュポインできる女性見つけるのが先です。お仕事は、それから探します」
「仕事か……」
大和が憂鬱に零す。
そろそろ、家を追い出される時に親から渡された100万円の底が見えてきていた。
「ヤマトも仕事探していますか? 一緒にやりますか?」
「アルセーヌ。気持ちだけ受け取っておくよ」
逮捕案件に手を出すのは御免である。
アルセーヌならイケメン無罪になる可能性もなくはないが、ナンブラー大和には無謀であった。
それでも、自分のほうが背は高いと大和はちっぽけなプライドを慰める。
そう自分はフランス人よりも背が高いと――(アルセーヌの身長は168cm)。
「でも、アルセーヌ。きみはフランス人だ。その恋は日本人じゃなくても、成立するものなのかい?」
それ以前の問題を華麗に無視して、ユーリーが質問した。
「おー、それはわかりません。ヤマト、何か知っていませんか?」
「ニホンザルのメスは海外のサルに憧れるらしい。また、交尾もして沢山の雑種――子供を産むのも厭わないと聞く」
女性蔑視の傾向が強い大和は女性を貶める為の知識だけは豊富に持っていた。
中学時代、ナンブラーと呼んできたのが女子だったことが原因――つまり、俺は悪くないの精神である。
「ヤマトそれはミソジニーだよ。でも、聞いたことはある。日本の動物園で混血種――純潔のニホンザルじゃなかったという理由だけで沢山殺された話」
ミソジニー? という疑問が顔にでないよう大和は遠くを見ていた。
「難しいあなしわかりませんが、わかりました。ワタシでも、できるということが」
本当にわかったのか怪しいものの、アルセーヌを止める者はいない。
公園の時計はまもなく3時を指し示すので、3人は立ち上がる。
「じゃぁ、次に会う時は素敵な話が聞けることを期待しているよ」
ユーリーは爽やかに去り、
「……」
大和は片手をあげて行く。
本当は頑張ってと言おうとして――それはフランス人に通じないからグッドラックだ――それ英語だ――と迷った結果のだんまりだった。
そうして、小学生たちが遊びに来る前に3人の男たちは公園から姿を消したのだった。
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