第49話 利害の一致です

 しばらく泣き喚いた後、ユウはおもむろに立ち上がり後方に倒れているインシンを見つめる。喉から血を流しているが命に別条はない。今から医療班に駆けつけても十分に間に合いそうだ。

 しかし問題はセナが怪我していること。両足が骨折してしまい、自力で動くことができない。かと言って、ユウ一人では二人も抱えて運ぶのは流石に無理がある。しかし、魔法少女の殲滅を掲げるガンドライドが襲撃してきているのだ。一人で置いていくには危険すぎる。


「でもこいつが動き出したら困るしなぁ……」


 インシンは縄で全身を拘束してあるが、目を覚ましたら暴れ始めるだろう。彼女の魔法は強力だ。万が一拘束が解けてしまったら、再びの衝突は避けられないだろう。

 今すぐヒスイを呼び出したいところだ。しかし、彼女は一人で行動している以上、連絡した所で駆けつけてくるまで時間が掛かってしまうだろう。彼女を待っている間にインシンが目を覚ましてしまう可能性が高い。


「はぁ、マジで困ったなぁ」


「ユウさん。わたしは大丈夫ですから、先にこの人を運んでください。『連盟』に捕まって罪を裁いてもらうべきです」


「そう言われても今のお前を放っておける訳ないだろ。不幸体質だから、また厄介事に巻き込まれる可能性が高いんだぞ。特に単独行動をしてる時に限って巻き込まれてるし」


「そ、そうかもしれませんけど……!」


 ユウの言葉にセナは反論の余地がなくなってしまう。今までなにもしなくても攫われたし、今回は首を突っ込んだらこの有様だ。

 もはや自分がいるだけで迷惑なのでは、とセナは思い込み涙目になってくる。そんなセナの窮地を救ったのはユウではなかった。


「でしたら私にお任せしましょうか?」


「えっ、誰!?」


 突如声が響き、セナとユウは驚いて振り返る。

 いつの間にか彼女たちの背後にフードを被った少女が立っていた。つい先程まで気配すら感じられなかったことに驚きもあるが、それだけではない。今もなお姿を現しているのに。意識を逸らしてしまえば目の前にいても彼女の存在を気にも留めなくなってしまいそうになる。そう感じるほどに彼女は周囲の空気と溶け込んでいた。


「あ、あなたは……?」


「セナ、待て。どう見てもこいつ怪しいだろ」


「ええ、確かに私の格好は怪しい者ですし、初対面で信じろというのも無理があるでしょう。ですから利害の一致で話をつけようじゃありませんか。そうすれば手短に済ませられるでしょう」


「利害の一致? お前に渡してどんな得があるんだよ?」


「簡単ですよ」


 ハッ、と嘲笑するように少女が鼻で笑う。


「私達が欲しているのはただ一人、春見彗那です」


「えっ?」


「……お前」


 セナを指差した少女にユウは声を低くし、彼女を睨みつける。彼女は恐らく『ガンドライド』の一員ではない。だが、『ガンドライド』以外にもセナを狙う魔法少女はいるらしい。セナを狙う理由はパンドラに関連することだろう。もちろんそんな理由でユウは易々と引き渡すつもりなどないが。


「まあ、そうそう怖い顔しないでくださいよ。ですから、そこで利害の一致です。セナの代わりにそこの魔法少女を私にお渡しいただければ引き下がりますよ」


「……どういう意味だ? なんでコイツを渡すと諦めがつく?」


「その方は『ガンドライド』でしょう? 彼女たちの目的と私達の目的は一部通ずる所があるんですよ。そのために情報を聞き出します。安心してくださいよ、悪いようにはしません」


「…………」


 少女は安堵させるように肩を竦めてみせるが、それでもユウの疑念が晴れることはない。むしろ怪しさが増すばかりだ。『ガンドライド』の目的と一部が通じている、それだけで味方する気になれない。馬鹿馬鹿しい、とユウは切り捨てようとしたが。


「どうします? 時間はないようですけど」


「…………はぁぁぁぁああああもう、面倒くさいな!!」


 頭をガシガシと掻いて悪態をつく。現状では何もかも相手が一枚上手だ。先程まで気配を察知できなかった辺り、彼女の実力は高いだろうし下手に逆らえばセナを奪われるだろう。非常に悔しいが彼女の言う通り時間はなく、受け入れるしかなかった。


「分かったよ、お前の言うとおりだ。利害は一致している。こっちは面倒事を済ませられるからな。その代わり一つだけいいか?」


「なんでしょう?」


「お前の名前を教えろ。どうせあたしらの名前は割れてるんだろ? だったらお前も明かしておかないとフェアじゃない」


「なるほど。ええ、確かにあなたの言う通りです。いいでしょう」


 そう言って少女はフードを脱ぐ。

 長い銀髪にピンク色の双眸。無機質で機械的な印象を覚えるほど、彼女の表情は冷たかった。


「シルヴィア。私はシルヴィア・フェザーストーンと申します」


「そうかい。顔と名前、覚えとくよ」


「ええ、また会いましょう」


 そう言ってシルヴィアはインシンを抱えて立ち去ろうとする。

 しかし、そこでセナが「待って!」と大声を張り上げた。大人しい彼女が突然声を上げたことにユウは驚き、シルヴィアも思わず瞬きしている。


「あの、インシンさんが目覚めたら伝言お願いできますか?」


「はぁ、伝えることがあるならご自由に」


「ありがとうございます! 『あなたが殺した人たちも、みんなあの痛みを受けていたんです』。そうお伝え願えますか?」


「……? 意味はよく分かりませんが承知しました。伝えておきます」


「ありがとうございます!」


 重ねて感謝の言葉を告げるセナにシルヴィアは終始不思議なものを見るような視線を返していた。最後まで首を傾げたまま、彼女は忽然と姿を消していく。最後まで気配を感じることが出来なかった。

 シルヴィアが立ち去るなり、ユウはセナの頭を拳骨で叩く。


「おい、何敵にお礼してるんだ!」


「痛っ!? え、でも大事なことですし……」


「あんなんでインシンあいつが反省すると思うかよ。むしろ、あんな事言われたらプライド傷付けられて逆ギレするぞ」


「えっ、そうですか……?」


「そういうもんだ。優しすぎるんだよ、お前は」


「ユウさんがぶっきらぼうすぎるだけだと思いますー」


「はぁ!? 何急に生意気なこと言ってんの!? 何調子に乗ってるの!?」


「そんなつもりないですよーだ」


「……?」


 やり取りしている間に上機嫌になっいてくセナを、若干ユウが引き気味に見つめる。

 彼女から好きだと言われたのは純粋にユウも嬉しいし、かなり照れているのだがそれはそれとして、セナのユウに対する好感度の爆上がり具合には流石に困惑を覚えた。余程彼女の中でユウの存在は大きかったのだろうか。


(あ、やべ、そう考えたらめちゃくちゃ嬉しいし照れるんだけど!?)


 照れ隠しを誤魔化すようにユウは背中を向けて屈む。


「ん」


「?」


「おんぶしてやるよ。足動かないだろ」


「ありがとうございます……」


 ちら、と横目で見るとセナが顔を真赤にしながら、よじよじとユウの背中に登っていく。彼女の柔らかい感触と心地よい体温を直に感じ、セナを強く意識してユウの顔も赤くなっていった。


「と、とりあえず戻ろうぜ。多分落ち着いただろうし」


「そ、そうですね。ヒメコちゃん置いてきちゃって心配ですし」


「ああ、ヒスイも一人でいっちゃったからな。……って、ん? ヒメコがどうかしたのか!?」


「え……ヒスイさんに何かあったんですか!?」


 二人して初耳の情報にセナもユウも驚いて顔を見合わせる。


「と、とりあえず私はヒメコと別れてからそんなに走ってません! 近いはずです!」


「分かった! とりあえずヒメコと合流しよう! っていうか何でまだ小さい子供置いてきたんだよ!」


「うっ、わたしのばか!!」


『ガンドライド』の襲撃があったのだ。こんな状況で一人になるのはまずい。ユウだって相手が悪かったとはいえ、命の危機に陥ったのだ。ましてやヒメコ一人だと巻き込まれたらどうなるか。同じようにヒスイも心配だ。

 先程まで赤く染めていた二人は顔を青ざめて、ヒメコがいたという方向に向かうのであった。


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