第24話 私達をよくも侮辱したな……!

「はぁーあ、ヒスイの奴急に態度変えやがって」


 拗ねたような声を上げながらユウは刀を構えて走る。

 既に衣服は黒いゴシックドレスへと変身しており、すれ違いざまに出現した魔獣を斬っていた。

 とどのつまり、ただの八つ当たりである。


「久しぶりに一緒になったんだからもうちょっとさあ……テンション上がってもいいじゃんかよ。いやあたしらに話せないような事情があるならいいんだけどさ」


 そこまで呟いてぴたりとユウの足が止まる。

『HALF』のメンバーは各々に深い事情を抱えており、過去を語らないのは暗黙の了解とされてきたのだが……。


(本当にこれでいいのか?)


 と、ユウは改めて考える。


(あたしたちはセナの記憶喪失をどうにかしたい思いはある。ヒスイだって何か悩んでいるならあたしたちも相談に乗るべきじゃないのか?)


 ヒスイの様子は明らかに今までと異なっていた。

 あまり彼女を悪く思いたくはないのだが、あの圧を与えるような雰囲気からは拒絶感すら覚えたのだ。

 やはり多少無理してでも彼女の側にいるべきだったか。


「ちくしょう、悪いなヒスイ! やっぱ心配だ!」


 とユウは頭を掻いて悪態をつき、独り言をぶつぶつ呟きながら後方へ引き返す。


(それにしても魔獣の数は確かに多いな。にも関わらずあたしらの姿が目に入っても無視して一直線にあのドラゴンがいる湖に向かっている。何がどうなって────)



 悪寒が走る。

 思考すら振り払い、ユウは咄嗟に右方向へ転がっていった。

 直後、






 爆音。






 視界が白い閃光に覆われる。

 鼓膜が破れるのではないかと思うほどの爆音が轟く。

 あまりの刺激にユウは気が付かなかったが、何かが落ちてきた『それ』の衝撃によってユウの体は数メートル後方に転がされていた。

 視界が開ける。

 耳に雑音が入ってくる。

 ようやく五感を取り戻したユウはフラフラと立ち上がる。同時に全身を強打した痛みを鮮明に感じ取るようになった。

 そして、ユウは落ちてきた『それ』の正体を目にした。


 さきほどまでユウが立っていた地帯は焦土と化し。

 ポニーテールの茶髪に赤黒い瞳の刀を携えたメイドの少女が立っていた。


「お前……誰だ……?」


 ユウは敵意を顕にして口を開く。

 これほど派手な登場に加えてあからさまにユウを狙った攻撃をしてきたのだ。疑わずしていられない。

 対してメイドの少女はユウの姿を瞳に捉えても表情を一つ変えず、静かに答える。


「ジュリア。アヤメ様の命によりこの地に足を運んできた」


「!? アヤメだと……!? ってことはお前は『ガンドライド』の一員か!」


 宿敵の名を口にするジュリアにユウは驚愕し、より一層警戒心を強める。

 ジュリアは彼女の反応に眉をひそめ、


「貴様……何故アヤメ様の名を知っている?」


「あいつとは腐れ縁みたいな関係だ。なんだ、あたしの存在を知らない程度の新入りなのか?」


「ッ、貴様!」


 ユウは挑発の意図はなく純粋な疑問としてジュリアに言葉を投げかけたつもりだった。

 しかしジュリアはユウの言葉に激昂し、鞘に手を伸ばす。


「私達をよくも侮辱したな……!」


「は? ちょっと待て、落ち着けって────」


「貴様の首は頂いてもらう!!」


「はあ!!!???」


 聞く耳を持たずついに刀を抜いたジュリアに思わずユウは呆けた声を上げる。

 そして弁明しようとするも束の間に、


「────疾雷しつらい


 ジュリアが何か呟くと同時に。

 彼女の姿が眼前にまで迫っていた。


「ッ!? お前馬鹿だろ!? マジで話通じねえな!」


 咄嗟にユウも刀を抜き鍔迫り合いが繰り広げられる。

 かくして、二人の交戦が始まった。






※※※※






 そして時を同じくして。

『砂』とビクビクちゃん。二人の目の前に、奇妙な姿の人物が現れる。

 ピンク色のツインテールに右目に眼帯を着けたパンクな格好の少女。右手に鎌を携え、二人をじっと見つめる。


「お前、何者じゃ?」


 警戒心を強めて問う『砂』。

 その背後で隠れるようにビクビクちゃんは震えながら縮こまり、ホワイトボードには『…………』と書かれていた。


「あたしはユイハ。『ガンドライド』の一人よ」


「……何じゃ、それは?」


 彼女らの活動は主に新宿を中心としており、京都に拠点を置く『白い烏』には彼女らの噂は広がっていなかった。

 困惑する『砂』たちをよそにユイハは苛立ったような表情で答える。


「……ユグドラシルって名前に聞き覚えはない?」


『……?』


「さあな。少なくとも儂らは知らん」


「────チッ。インシンやヒバリも来ているっていうのに……!」


 と、舌打ちし更に焦ったような口調で頭を掻くユイハ。

 その姿に『砂』とビクビクちゃんは思わず顔を見合わせる。


「そもそもお前は何なんじゃ。大体、『ガンドライド』とやらの意味が分からないし────」


「もういい、死ね」



 と、『砂』の言葉を遮り。

 ユイハが一歩踏み込んだ。そう認識していた時にはビクビクちゃんの脇腹を鎌が貫いていた。


「っ!? ビクビクちゃ……!?」


『砂』の叫び声。

 鎌にビクビクちゃんの体を引っ掛けたまま、体を回転させ彼女の体を吹き飛ばす。

 壁に勢いよく激突し、ズルズルとビクビクちゃんの体が落ちていく。その脇腹からおびただしい量の血が流れていた。


「君が一番弱そうだったからね。さて、どんなお顔なのか見せてもらおうか」


「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!!!」


 と、ユイハが近付こうとしたところで背後から『砂』の怒号が上がった。

 その声に愉快そうにユイハは振り返る。


「ふふん、いい表情♪」


「お前、お前!! ふざけるのも大概にしろ!!」


 怒りを顕にしながら『砂』は腰に付けていた瓢箪の蓋を開ける。

 それを見ていたユイハは興味深そうに眉をひそめた。


「へぇー、どんな芸当を見せてくれるのかな?」


「! 儂らを馬鹿にするのも大概にしろ!!」


 瓢箪をひっくり返し、中から大量の砂を零していく。

 そしてそれが全部落ちるか否かの所で、『砂』は叫んだ。


千刃流せんじんるい!!」


 彼女の言葉と共に砂の動きが変化する。

 それまで自由落下していた砂がふわりと舞い上がり、つむじ風と共に巻き上がっていく。

瞬く間に視界を塞ぐほどの塵風へと変わりユイハに襲い掛かっていく。

だが。


(……手応えがない)


『砂』の想像通り、砂埃が一瞬にして吹き飛ばされユイハが姿を現す。

しかし衣服は所々切れており、僅かながらダメージは与えられているようだった。


「へぇー、君も風属性持ちか」


鎌首をこちらにもたげ、ユイハは不敵に笑う。


「いいね、君の首。欲しいな」


「どこまでも抜かしおって!」


ユイハの挑発に『砂』は分かりやすく怒りを露わにする。


(ビクビクちゃん、すまぬ。もう少し持ち堪えておくれ)


未だ後方で血を流し意識を失っているビクビクちゃんに心の中で謝罪し、目の前のユイハを睨みつける。


「儂は『砂』じゃ。それ以上でもそれ以下でもない」


「そうかい。その奇妙な名前だけは覚えておくよ」


相対する『砂』とユイハ。

今、二人の激突が始まる。




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