第22話 ────許せないわね

「────セナ、セナ!」


「……ん」


 遠くから名前を呼ぶ声がする。

 その言葉にセナは意識を取り戻し目を覚ます。

 こちらの肩を掴み顔を覗き込むユウが目と鼻の先にいた。


「うわあああああああああああああ!!!???」


「痛ってぇ!?」


 思わず驚いてセナは勢いよく顔を上げ、ユウの額と激突してしまう。図らぬ頭突きに二人は互いに頭を抑え悶絶した。

 涙目になりながらも周囲を見渡したセナはここが昨夜宿泊したホテルであることに気が付く。


「あ、あれ……わたしどうなって……」


「店の真ん中で倒れていたから私が助けたのよ」


 彼女の疑問に答えたのは後ろに立つ咲良だ。


「ああ、咲良さんの話によると吐いてぶっ倒れていたらしいな。何だ、潰れるまで呑んだのか?」


「いえ、そうじゃなくて、確か昨日……」


 セナは昨夜のことを思い出そうとする。

 そう、ホテルに辿り着き夕食を済ませ、気分転換に外を散策しようと思った。そして外へと出たのはいいものの……。


「あれ?」


 そこでセナは気付く。

 外へ出てからの記憶がない。ごっそりと目を覚ますまでの記憶が抜け落ちているのだ。


「なん、で……?」


「おい、どうした?」


「ユウさん、またです……。記憶が……。この感覚、記憶喪失の感覚とまったく同じです……!」


「はぁ!?」


 とセナの言葉に思わずユウは呆れた声を上げる。無理もない。夜に外へ出てから音沙汰もなく意識を失って倒れ、散々心配した挙げ句に記憶がないというのだ。

 いよいよユウは白い目をセナに向ける。ヒメコも似たような反応を返し、疑いの言葉を投げかける。


「ええー……。本当に記憶なくなるまでお酒呑んじゃったんじゃないのー?」


「呑んでないですよ! わたし未成年です! それは断じて言えます。それにこの記憶の消え方、まるで記憶喪失の時と同じなんです。忘れてしまったというより、誰かに記憶を消されたかのような感じで……」


「都合のいい部分だけ消えてる感じ?」


「そう、それです!」


 ヒスイが閃いたように口を開き、セナのフォローをする。


「前にセナの記憶喪失の話も聞いたけどさ、やっぱり私はセナの記憶が誰かに消されている話は信用できると思う」


「本当ですか……!?」


「してその心は?」


 ヒスイの言葉にセナは希望が見えたかのような表情を浮かべ、対してユウは懐疑の目を向ける。

 ヒスイは何か確信があるのか頷きながらユウの疑問に答える。


「セナの記憶の消え方、まるで忘却剤を使った時とすごく似ているんだよね。咲良さんもそう思っていましたよね」


「……ええ。忘却剤を開発した身としてはすごく複雑な見解なのだけどね。確かに健忘のパターンが忘却剤を使われた時に酷似している。悪用されているなんて信じたくないのだけれど」


「それが事実だとすると、忘却剤で証拠を消す犯罪者が近くにいるってことじゃねえか。セナ、何か盗まれたりしなかったのか?」


「えっ? えーっと……」


 ユウに言われセナはきょとんとしながらも自分の荷物を探る。

 出かける前と何一つ変わらない持ち物。少なくとも盗まれた形跡は何一つなかった。


「ますます不気味だな。セナを気絶だけさせて手出しはしないとか……。特定の人物を狙っているのか……?」


「もしかして変態行為が最初から目的だったり?」


「え────」


 ヒメコの言葉にセナの顔がザッと青ざめる。

 そのまま瞳に涙が浮かび始めたのを見てユウがこつんとヒメコの脳天に拳骨を当てた。


「そういうこと口に出すな。セナが変な野郎に襲われるとか考えただけでも……ムシャクシャする」


 と多少顔を赤らめ目を逸らすユウに一同が呆然とした顔をする。

 その反応が心外だったのかユウは更に顔を赤らめて、


「な、何だよ。そこまでまじまじと見なくていいだろ!」


「い、いやだって、ねぇ……」


「あのユウがここまでお熱になるとは……」


「私、嬉しいわ。ユウがついに人の心に目覚めたのね(棒)」


「うるせえよ! あたしだって心配ぐらいするよ! あと咲良さんの反応が一番悪意あるよ!」


 と矢継ぎ早に一同に反論を返す。

 そのやり取りをみて、セナは思わず緊張の糸が解れるような安堵を覚えた。以前、記憶喪失になって目覚めた時に孤独だったのが大きな違いだろう。仲間がいるという状況にセナは居心地の良さを感じていた。


(……でも)


 セナは一抹の不安を覚える。

 何か大事なことを忘れている気がする。ユウたちに伝えなくてはいけなかった何かを。

 ────胸の内に秘めているが警鐘を鳴らしている気がした。






※※※※





 一同は咲良が運転する車に乗って今回の任務場所であるオグウェン湖に向かっていた。

 まずはドラゴンの様子を視察し、当日の動きをイメージトレーニングするというのが目的だ。ドラゴンの側でそんな大胆な、とセナは内心怯えるがドラゴンは皮膚に直接刺激を受けない限り起きない程の深い眠りにつくらしく、そこの安全は約束されているそうだ。

 そして道中、暇そうに窓から景色を眺めていたユウが突然口を開いた。


「なあ、誰も聞かなかったからあたしが聞くけどさ。咲良さんって元魔法少女なんだろ? それも『赤天』だったとか」


「────、そうね」


 間を開け、こちらに視線もくれずに咲良は答える。

 どこか緊迫した雰囲気。側で聞いていたセナも固唾を飲む。


「どういう経緯で研究者になったんだ?」


「…………そうね。セナちゃんがいるならそろそろ話してもいいか」


「? わたしですか?」


「ええ。非常に複雑な事情があってね。ユウちゃんたちに中々話せずにいられたのよ。でも貴女がいるなら話してもいいかと思ってね」


「え、そんな……えへへ。大した存在じゃないです」


 と咲良からの思わぬ評価に顔を赤らめ頬を緩めるセナ。

 しかし、そこできょとんとした声で咲良が返してきた。


「いや、そういう意味じゃないわよ?」


「え?」


「話を戻すとね。実は私────魔法少女だった頃の記憶がないの」


 ……………………。


「「「「はあ!?」」」」


 と一同が思わず同時に納得の行かない声をあげた。


「いやっ、ちょっ、待って! 何か重要そうな話だったじゃん!」


「というかそれセナちゃんと変わらないじゃん! 何さもったいぶって!」


「だから言いたくなかったのよ! だって覚えてないもん!」


 と咲良もムキになって返す。

 それから「はっ!?」と自分の言動を思い返し深呼吸をして、


「……5年前まで魔法少女をやっていたみたいなのだけどね。ある日突然私は行方不明になったみたいで。5年前のある日に私が意識を取り戻した時、全部の記憶を失っていたわ」


「……! それってわたしと同じ……」


「そう。あなたのように突然記憶喪失になった。ただ、幸いにも知識は残っていたみたいでね。『連盟』に保護されてからは記憶を取り戻すついでに魔法少女たちの力になれるような研究を始めたの」


「……なるほどなぁ。だとすると今朝のセナの言った通り……」


「ええ。もしかしたら記憶を奪っている連中がいるのかもしれないわね」


「そういえばガンドライドはあたしたちと同じ変身方法を使っていた。もしかすると奴ら、『連盟』の技術を悪用しているのかもしれない」


 その言葉を聞いた咲良がピクリと肩を震わせる。

 それから怒気を顕にして彼女は呟いた。


「────許せないわね。私の研究を悪用するだなんて」


 その一言で場の空気が凍る。

 セナたちは思わず、ゾクリと背筋に悪寒が走るような感触を覚えた。それ程の怒りを咲良は浮かべていたのだ。

 しかし、フッと咲良の雰囲気が優しいものに一変する。


「さ、そろそろ着くわよ。またシャーロット総司令官がいるから現地で話をきいて頂戴」


 そう言って咲良は外に目をやる。

 いつの間にか一同は山頂付近までに登っていた。この先にドラゴンが眠っている。

 セナたちは気を引き締めて、オグウェン湖へと向かっていった。


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