第13話 痛い目に遭うぜせんぱい!

「────全然起きないよー?」


「仕方ねえな。ジュリア、やれ」


「はい」


 遠くから、そんな声が聞こえてくる。

 だがその声が耳に届いてもセナの意識を覚醒させるには充分ではなく、依然として眠ったままであった。

 だから。



 バチバチ!! とセナの体に電流が走る。



「がっ、ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!????」


「おはよう、セナせんぱい。ビビって心臓止まっちゃったかと思ったぜ」


 激しい痛みと衝撃に叫び声を上げながらセナが目を覚ます。

 意識が覚醒するなり耳に飛び込んできたのは楽しげな声、そして視界に映るのは白い髪に赤い瞳を持つ学生服を着た少女であった。

 自分の体を見ると立ったまま鎖で柱に拘束されている。どこかの廃墟にいるらしく、辺りはフェンスで覆われていた。

 少女はニヤニヤ笑いながらセナの方に手をぽん、と置く。


「おっす、俺は鬼道きどう殺滅あやめ。ガンドライドのリーダーだ」


「っ!?」


 朝方に聞いた魔獣を率いるテロ組織。

 そのリーダーがこんなにも幼い少女と知ってセナは驚愕する。確かに魔法少女が率いているとは聞いていたが、まさか自分よりも年下のように見える(さきほど「せんぱい」と呼んだから本当に年下なのだろう)少女が統率しているなど想像すらしていなかった。

 怯えるセナの瞳を覗き込みながらアヤメが語りかけてくる。


「で、お前が噂の『鍵』。心当たりはあるかい、せーんぱい?」


「しっ、知らない! 知らないです!!」


 やはりこの少女も『鍵』とやらを狙っているらしい。

 当然ながら記憶喪失のセナには思い当たる節もなく、首をぶんぶんと横に降って否定する。

 それを見たアヤメは「へぇー」と考えるような仕草をして。


「ジュリア、もう一発」


「はい」


 と、アヤメの隣に立っていたメイドが頷く。

 もう一発。その言葉の真意を探るよりも早く、ジュリアはセナの額に手を伸ばす。

 触れた瞬間、バチバチ!! と激しい電流がセナの全身に走っていった。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」


「とこんな感じで俺の欲しい答えを返さないと痛い目に遭うぜせんぱい!」


 手を叩き口笛を吹きながらアヤメは興奮気味に叫ぶ。

 恐怖と痛みに泣き喚くセナを嘲笑う。

 アヤメの周囲にも何人か少女が立っているが、誰もアヤメを咎める様子はない。むしろ愉しんでいるようにすら感じられる。

 狂気が満ちていた。この場にいる者全員がその瞳に危険な光を宿らせていた。まるで獲物を見つけたかのように。

その視線にセナは喉元が凍りつき、足がすくむ。怖い。彼女たちがどうしようもなく怖かった。


「さあて、もう一度聞こうかせんぱい」


「ひっ」


「ドロシーが言う『鍵』。俺たちの目的を叶えるのに必要なものなんだよ。さっさと答えておくれよ」


「まっ、待ってください! 知らない、本当に知らないんです! 『鍵』って言われても何のことが全然分からないんです!! だからお願いし────」


「ジュリア」


「はい」


「いやっ、やめてっ、お願いです、許してくだっ、ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」


 セナの必死の懇願も届かず、無慈悲にジュリアは電撃を放つ。

 致死には至らない最大限の電圧を出力させてセナを苦しめる。

 視界がチカチカと瞬き、一瞬だけセナは意識を失った。本当に気休め程度の失神だが。

 すぐさま激しい痛みに無理やり覚醒され悲鳴を上げる。


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」


「アヤメ様の手を煩わせないで下さい。早く答えないと殺しますよ」


「ぐすっ、ほん、とぉに……知らないんですぅ…………もう許して下さい……」


 嗚咽を漏らしセナは力なく頭を下げる。

 その様子をジュリアは無表情にアヤメは愉しむように眺めていたが、そこでスマホばかり触っていた幼い少女が「待ってー」と声を掛けた。


「この子の言ってること本当っぽいよー。嘘じゃなくてマジで知らないみたいー」


「そうなのクリオネちゃん?」


 クリオネ、と随分変わった名前の幼女は「うんー」と頷く。

 亜麻色のボサボサした髪を人差し指でくるくる巻きながら、群青色の瞳を輝かせてセナの方を向く。


「ほら、ウチって心読めるからー。読み取った感じ嘘じゃないんだよー。というかウチたちの関与ってここまでじゃないのー、ドロシーたん?」


「そうだね。私が欲しいのは『鍵』。そして君たちが望んでいるのは魔女の復活。無事ここまでの契約は成立したよ。だからセナちゃんは私が貰うね」


「ま、待ってください! あなたたちは仲間じゃないんですか……?」


 セナを置いて勝手に話を進めるアヤメたちに抗議の声を上げる。

 しかし、帰ってきた答えは彼女を混乱させるのに充分なほど不可解なものだった。


「何言ってるんだ、こいつはガンドライドの一員じゃねえ。勝手に俺たちについてきただけだ」


「つまり私とアヤメは利害が一致したから協力してきただけ。私は『鍵』を手に入れるために、アヤメは魔女の手掛かりを手に入れるために、ね。それじゃあ、君たちは例の場所に連れて行くから、あとは私に任せて」


「頼むわ。あとユイハ、お前は残れ」


「えー、あたしもアヤメ様と一緒がいいですぅー」


 とセナを脅していた少女・ユイハが頬を膨らませて拗ねながら言う。

 その態度にアヤメは怒ることもなく、


「まあまあ、どうしてもお前に頼んでおきたいことがあるの。ちょっと耳貸して」


「はい。……ふむふむ、了解です!」


「よし、じゃあ行くぞ」


 何やら耳打ちされたユイハはあっさりと承諾しその場に居座る。

 直後、アヤメ・ジュリア・クリオネの姿が忽然と消えてしまった。その場にセナとドロシー、そしてユイハが残る。

 

「ふふ、セナ。君には何が何でも『鍵』として目覚めてもらうからね」


 ドロシーが不敵な笑みを浮かべる。

 その笑顔を見たセナの表情が恐怖に引きつった。






※※※※






『HALF』のアジト。

 ユウたち一行はすぐさま咲良の元に戻り、状況を報告する。


「まずいことになったわね」


 腕を組みながら咲良が口を開いた。


「セナちゃんの身に何か加えられる前に早急に助け出す必要があるわ。ユウちゃん、ヒスイちゃん。あなたたちが救出に向かいなさい」


「了解」


「了解です」


「あとグレイちゃん、せっかく来て頂いた所悪いのだけれどあなたもユウちゃんたちと一緒に向かって」


「了解です。元々セナを監視するために来ましたから」


「ヒメコちゃん。いつも通りユウちゃんたちをサポートしてあげて」


「もちろん!」


「で、問題はどこに攫われたのかだけど……」


 と咲良の言葉に一同が黙ってしまう。

 通常ならその人が持つ特有の魔力を辿って探していくのが一番望ましい。が、セナが持つ魔力はあまりにも微力で感知するのも厳しいのだ。

 どうするべきか、と悩んでいると突然ヒメコが「あ」と口を開いた。


「もしかしてさ、犯人がセナのスマホから電話してくるんじゃない!?」


「おいヒメコ、いくら漫画が好きだからって現実と混同しちゃいけないぞ。大体、犯人がそんなアホなことしてくる訳ねえだろ」


「悪かったね!」


「いてて痛い痛い髪引っ張るな!」


 とユウとヒメコが取っ組み合いをしていると突然ユウのスマホが振動し着信音を鳴らし始める。

 その音に一同が動きを止め一斉にユウに視線を向けた。

 視線を向けられたユウは恐る恐るスマホを取り出し、着信相手を見る。


「……セナからだ」


 生唾を飲み込みながらユウは通話に出る。


「もしもし」


『あー、もしもし? おたくがユウちゃん?』


「っ!? 誰だテメェ……!」


 知らない少女の声。

 くすくす、と嘲るような笑い声を響かせながら少女は答える。


『ガンドライドのユイハって言うよー。セナはこちらが預かった』


「ガンドライド……!?」


 予想外の名前に驚愕の声を上げ、その名を聞いたヒスイたちも息を呑む。


『今の所セナに危害は……加えてないっちゃ加えてないね。ただ早く来ないとドロシーが殺しちゃうかも』


「テメェ……!!」


『良い反応。じゃ、あたしたちはこの場所で待ってるからねー、よろしく♪』


 ご丁寧に居場所まで教え、ユイハは通話を切る。

 開口一番にヒメコが顔を青ざめながら口を開いた。


「……わざわざ脅しをかける馬鹿、いたね」


「大体こういうパターンは敵の罠だけど……行くしかないよね」


 とヒスイが肩をすくめながら続ける。

 ユウはもちろんと頷き、咲良も言葉を続ける。


「何はともあれ、セナちゃんが心配だわ。わざわざ場所まで教えてくれたんだから、さっさと助けに行くわよ」


「了解」


 各々が準備を早急に済ませ、ヒメコはPCの前に、グレイとヒスイは既に外へ出てしまう。

 ユウも彼女たちに続いて外へ出る寸前で咲良の方へ振り返った。


「……なあ、咲良さん」


「どうしたの?」


 咲良の声音は優しいままだ。

 帰ってその態度が不気味さを増しゾクリとユウの背筋が震える。


「どうして、セナの人間性が『10』だなんて嘘をついたんだ?」


「あの場にセナがいたからよ。だって本人に伝えたら可愛そうじゃない。それに後であなたたちにちゃんと伝えようと思っていたし」


「そうか……。なら、いいんだ。咲良さんがそう言うなら」


 と、ユウは納得するように呟いて扉を開ける。

 外へ出るその寸前、続けてユウは口にしたのであった。


「あたしは、咲良さんのこと信用しているから」


 バタン、と音を立てて扉が閉まった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます