第2章 True Name

夢、或はある少女の追憶

「エリス!」


 どこからか少女の声が響く。

 エリスと呼ばれた黒い髪に黒い瞳の少女は「うーん」と唸りながら瞳を開ける。

 視界が眩みそうなほどの光が視界に入り、何度も瞬きしているとやがて一人の少女がこちらを笑顔で覗いでいるのが見えた。


「……おはよう、■■■■」


「おはよう、エリス!」


 白い髪に金色の瞳の少女────■■■■が笑顔で挨拶を返す。

 朝からとても機嫌がいい。大抵こういう時の彼女は何か自慢をしたい時だ。


「どうしたの■■■■? また新しい魔法でも思いついた?」


「うん! 昨日ねー『』からすっごくいいの教えてもらってね! またあそこの森に行こうよ!」


「いいよ、でも顔洗って朝ごはん食べさせて」


「ええー」


 しょんぼりとする■■■■。

 その姿にエリスは苦笑しながら髪を撫でる。


「でも■■■■も朝ごはん食べてないんでしょ? わたしも森に行くの楽しみにしてるからさ。一緒に食べよう?」


「……! そうだね!」


 そう言って彼女は立ち上がるとエリスの手を引いて廊下へ飛び出していく。

 突然体を引っ張られたエリスはよろめきながらも彼女に続いて洗面所へと向かっていった。


(あなたの魔法も面白くて好きだけど……)


 彼女の後ろ姿を微笑みながら見つめてエリスが心の中で呟く。


(その喜ぶ姿がわたしは好きなんだよ、パン────)


 その言葉が終わるよりも前に。

 突然強いノイズが走り、幸せな光景はそこで途切れた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る