第55話 沼法師 ③

沼があった。


ある領主の命の元、人間たちが開墾を始めた。

配下の武者は、功を焦り、農民たちを昼夜問わず働かせた。つらさに耐えかね、一人、また一人と沼に入水した。


それからというもの、工事は遅れた。

斧やくわが消え、怪我人が続出し、夜に鳥が泣きわめき、風もないのに枝葉が揺れる。

泥のような雨が降り、幹の切り口から赤い樹液が流れ、ある朝には沼も井戸の水も真っ赤に変わっており、とうとう武者は近隣の僧を呼び出した。

厚く供養された後、恐ろしい出来事はぴたりとやんだ。

武者は心を入れ換え、豊かな田畑が拓かれた。村は栄え、供養を絶やすことはなかった。


月日がたち、戦乱が村を襲い、人々は住みかを捨てた。今は誰もそこにいない。


沼だけがあった。

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